本能 -止まらぬ崩壊-⑧
以前ルサナと共にやってきていたのでワーディライも小さな木箱が『骨を重ねし者』だという事はすぐにわかった。
ただ彼は他の兄妹と違って体を持ち合わせていない為、移動時は誰かの手を借りねばならないのだ。
「まさか貴様が来るとはな。『トリスト』を離れて大丈夫なのか?」
「問題ない。それよりア=ディラファとダム=ヴァーヴァの武具だが、それは彼の要望が通れば返そう。」
わざわざ右宰相のザラール自らが届けに来たという事は警戒だけでなく、話の内容もかなり重要らしい。
ワーディライは面倒な捕虜たちが近づかないようイラに足止めを頼むと2人は早速『腑を喰らいし者』が暮らす場所へ向かう。
「おお、ワーディライ。客人か?初めて見る人間のようだが・・・ふむ?『骨を重ねし者』の気配も感じるな。」
この屋敷に招いて以来、約束通りに家畜の臓物を与えているので彼の健康?状態はすこぶる良好だ。
そこでまずはザラールを紹介した後、察した通り、兄である『骨を重ねし者』が入っている木箱の蓋を開けて地面に置くと彼も声を発する。
「久しぶりだな『腑を喰らいし者』、元気そうで何よりだ。」
実は彼が寡黙な理由として、外から栄養を吸収できないというのが大きな理由らしい。
他の兄妹は臓物や血を摂取出来るが、骨の存在である彼だけは何も食する事が出来ない。故に僅かとは言え、消耗を抑える為に会話も控えているのだという。
「うむうむ!で、どうした?また何か嫌な報告でもあるのか?」
彼らは数日前、妹という位置付けだったルサナを失っている。なので『腑を喰らいし者』は喋る事も自ら動く事も出来ない兄が、自分の所にやってきた事で嫌な予感を覚えたのだ。
「いいや、そうではない。『腑を喰らいし者』よ、私と共に戦ってはくれぬか?」
だが『骨を重ねし者』の提案はそれが原因による前向きなものだった。彼は妹を殺した人物を始末する為に、弟の力を借りようとこの場に訪れたという。
そしてその話がまとまった暁には、この地の抜けた戦力を補う意味でア=ディラファとダム=ヴァーヴァの武具が返還されるという流れだ。
「それは構わんが・・・『骨を重ねし者』は合体を望んでいるのだな?となるとルサナの血も必要になるが・・・」
「大丈夫だ。『トリスト』の者達に頼んで用意してある。」
そう言うとザラールが懐から小瓶を取り出して見せる。それは手の平に収まる程小さなものだったが、彼らの言う合体にはこの程度の量で足りるらしい。
「・・・わかった。では残すはわしの問題だな。ワーディライ、すまんが一時だけこの地を離れたい。他の土地を腐らすような状況は極力抑えるのでな。構わんか?」
「うむ。ルサナの敵討ちとなれば止められる筈もなかろう。じゃが、必ず帰ってこい。でないと有り余る臓物は全て処分するだけになってしまうからな。」
「それは勿体ない!!わしが帰ってくるまで出来るだけ取っておいてくれよ?!」
2人の間にはそういった約束事もあるので、事が済めばまた約束通りにこの地へ戻ってくるだろう。
こうして2人が笑い合った後、彼の指示に従って『骨を重ねし者』とルサナの血が入った小瓶を『腑を喰らいし者』に渡す。
するとどろどろだった『腑を喰らいし者』の体に芯が通り、液体のような滴る体は柔らかさを残しつつも、しっかりとした形で固まり始める。
ただ皮膚という概念を復元する事は難しいのか、見た目が大やけどをおったかのような体の状態で変化は収まるが、表情には力強い笑みが浮かんでいた。
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