本能 -止まらぬ崩壊-⑥
様々な人間が蘇っているのはア=レイの仕業で間違いない。
だがそれを知った所で、現在起きている異変を止める術は誰も持ち合わせていなかった。
「ここまで『ジグラト』を復興するとは素晴らしいではないか。私がいなくなったことで随分と成長出来たようだな。」
「父上・・・まさか貴方までもがア=レイに利用されるなんて・・・」
ユリアンが『ボラムス』に姿を現した同日、『ジグラト』では亡き父が姿を現すとネヴラティークも喜び以上に反応に困る。
目の上のたん瘤であり、偉大すぎた父ネヴラディン。彼との再会は現実的にありえないものであり、あってはならないものだ。
恐らく奴によって蘇らされたのは間違いない。ならばこの場で殺してしまおうか?
生前は従う事しか出来なかったが、彼は既にこの世から一度去った人間であり、ア=レイという危険な存在も背後に匂わせている。
であれば問題が起きる前に処刑しても父殺しの汚名を着る事にはなるまい。いや、クレイスやイルフォシアが殺されているのだから、これ以上の犠牲が出る前にそうすべきだろう。
「フフフ。顔に出る癖だけは直らんな。それでは返り討ちにあっても文句は言えんぞ?」
「・・・わかっていらっしゃるのでしたら話は早い。貴方は既にこの世に存在しえない人物、申し訳ありませんが再び冥府へと戻って頂きます。」
「しばらく会わんうちに私の力すら忘れたのか?まぁいい。反抗期の息子を宥めるのも親の役目だ。」
彼は代々国王にのみ伝わる秘術で人外の力を得ていたのは重々承知だ。
それでもこのまま放置する訳にはいかなかったネヴラティークは覚悟を決めると、鍛え上げた最側近を呼んで速やかにネヴラディンを討ち取るよう命ずる。
ところが父は涼しい顔で一斉に放たれた槍の刺突攻撃を風のように躱した挙句、一人の腰から長剣を抜きながら奪うとまるで達人のような動きで4人の最側近の首を鮮やかに刎ね落として見せたのだ。
これにはネヴラティークも予想を大きく上回られた事で驚きから体が動かなくなった。
確か『リングストン』に伝わる秘術とは、力を解放する時は理性も失うかのような話だった筈だ。
故に代々国王が戦う時、周囲の人間は誰一人生き残れなかった。それは動く者全てを襲ってしまうからであり、そういった意味からも『リングストン』の王というのは畏れられている。
「再び上下関係をしっかり理解したか?さて、ネヴラティークよ。親子喧嘩はこの辺りにして早速北西にある『エンヴィ=トゥリア』を攻めるぞ。」
今の父から粗暴さは感じられない。むしろ普段通りの様子で立ち回った後、妙な宣言をしてきた事でネヴラティークは何から対処すべきかを大いに悩む。
「・・・・・父上。我らに戦う理由などありません。」
「む?そうだな。お前には無いのかもしれん。だが私は告げられたのだ。『ジグラト』を足掛かりに世界を統一せよ、とな。」
あまりにも無茶苦茶な内容に反論という概念が飛び去ってしまったが、己の我儘のみを押し通す父らしい態度にはむしろ納得しか覚えない。ただ今の発言には大きな違和感があったので、ここから反撃と抑止の糸口に繋げられないだろうかとネヴラティークは説き始める。
「・・・ア=レイの言いなりになるのですか?『リングストン』の偉大なる大王である貴方が。」
傲慢不遜な彼が誰かに利用されるなどあってはならない。父は常に己の意思でのみ蛮行を貫き通すべきなのだと。
「うむ。そもそも私は奴によって殺されたからな。まぁ従うしかあるまい?」
「えっ?!」
これなら彼も十二分に納得してくれるはずだと確信していたのだが、初めて知る事実を聞かされるとネヴラティークは現在、どれほどの混乱が世界を覆っているのかを誰よりも深く理解し始めた。




