本能 -闇の行方-①
破格の力を持つ存在が死ぬ、ましてこの世から消えるなど有り得ない。
それが皆の常識であり願いだった。
だから彼が消えた後の大食堂では誰一人動けなかったのだ。今、目の前で起こった現象を何一つ受け入れられなくて。
「・・・ヴァッツを探してくる。」
ところがアルヴィーヌは違う。彼女は誰よりもヴァッツに近い存在だった。それは我儘という性格だけではなく、保有する力もだ。
故に皆は何気なくも心強い発言に希望を抱いてしまったのだろう。止めた所で止まらない彼女は窓を開けるとそのまま夜の空へ飛んで行ってしまった。
「・・・クレイス様、ヴァッツ様が御力を失っていたという話は本当ですか?」
それからしばらくして最年長であるレドラが状況を整理し終えたらしい。気になった疑問を尋ねるとクレイス達は顔を見合わせて頷いている。
「はい・・・ア=レイからの攻撃を受けて、全く力を使えないという話は聞いていました。」
そういった事情からも己が消え去る前に子供という希望を残そうとしていたのが窺える。なのに自分は彼の力に心酔しきっていて細かな変化を見落としてしまっていた。これでは従者失格だ・・・
「・・・姉さんはヴァッツ様を探してくると仰ってました。であれば・・・亡くなった訳ではないと、私は思います。」
イルフォシアも姉と兄のように慕う甥の無事を信じるしかない。そういった思いを告げるとクレイスに連れられて部屋を去っていく。
「私もスラヴォフィル様に御報告して参ります。恐らく今後はヴァッツを捜索する方向で号令が下されるでしょう。各々しっかり準備を整えておいてください。」
状況は決して明るいものではない。だが、それでもショウの毅然とした指示に救われたのはクンシェオルトだけではない筈だ。
なので皆は無言のまま大食堂を後にすると、すぐに行動を開始する。
「ハルカ。『暗闇夜天』の力を借りたい。あまり手持ちは無いのだが・・・」
「ごめんねクンシェオルト様。もう先に大号令を放っちゃったから手は空いてないの。」
落ち込む前に出来る事をやらねば。そう考えてまずは伝手を借りようと持ち掛けるが流石ヴァッツの許嫁だ。既に伝令を走らせていたらしく、捜索部隊は動き始めているらしい。
「あたしも地上に降りる。それで草の根を分けて探し回ってやる。」
「いいえ、貴女方はヴァッツ様の御部屋で主の帰りをお待ちください。」
リリーも久しぶりに粗暴な面を見せながら息巻いていたがそれはレドラに止められた。もちろんこれには明確な理由があるのだが気が付かなかった彼女は美しさを一切損なう事無く怒りと不満を表している。
「で、でもレドラ様!あたしもヴァッツ様を探したいんです!!あたしはあの方から与えられてばかりだし・・・こんな時くらいお役に・・・!」
「お気持ちは重々承知しております。ですがもし主人がひょっこり帰られた時、お迎えする奥方様がおられないのはいささか誠実さに欠けます。そうは思われませんか?」
やはりレドラは偉大だ。彼がヴァッツが亡くなった可能性をおくびにも出さずさらりと提案すると彼女も光明を見たのだろう。目を丸くした後僅かにはにかんで頷いたのだからもう大丈夫だ。
「あとはどれ程の捜索網が許されるのか。スラヴォフィル様のご見解を待ちましょう。」
であれば自分も冷静さを保ちつつ、最大限の行動がとれるように備える必要がある。
クンシェオルトは許嫁達を部屋に送ってから自室に戻ると、その夜は『闇の血族』の力を解放してまで眠りに集中するのだった。
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