本能 -闇の終焉-
「ねぇレドラ、今日は皆でご飯が食べたいんだ。レドラもクンシェオルトも同席してね?」
いつからヴァッツが後継ぎの事を考え始めたのか。きっかけは何なのか。それが単純にア=レイという脅威だと考えるのは誰しもが持つ共通認識だった。
だから誰もが気付けなかったのだ。力を失ったという事実を知るクレイス達でさえ、ヴァッツの変化と行動を前向きにしか捉えられなかったのだから。
「謹んでお受け致します。」
いよいよだ。
いよいよ『トリスト』から盤石の世界が始まる。誰も傷つかない、そして誰も争わない平和な世界が。
彼の血を受け継ぐ者なら保有する力は保証されたも同然だろうし、争いを好まない父が子に戦いを推奨する筈もない。
親友であるクレイスも3か月後には世界を統べる玉座に就く。彼もまたヴァッツの良き理解者であり、自身も無駄な争いは好まない人物なので申し分ない。イルフォシア以外との関係にはまだ不安こそ残るが、世界の混乱につながる事もないだろう。
「ヴァッツ様の御子様・・・是非拝みたいものですな。」
「レドラ様・・・貴方の存在は必要不可欠です。まだまだお元気でいて下さい。」
それよりも今は彼の発言に心と気を奪われてしまった。
確かにレドラは既に80歳を超えている。恐らく己の力量が相当落ちているのも自覚しているからこそ、彼らしからぬ弱気な発言が漏れてしまったのかもしれない。
それでもお世話になった恩師には奮起するよう告げたのだ。本来であれば引退して悠々自適な生活を進めるべき場面だったのかもしれないが、それ以上にヴァッツという破格に仕える喜びを最後まで共有して欲しくて。
「はっはっは。ではあと20年は頑張ってみましょうか。」
すると思いの外、明るい答えが返って来たのでクンシェオルトも安堵、というより驚愕の表情を浮かべる。
まさか100歳を超えても現役でいるつもりか。いや、『孤高』の中でも『鉄壁』と呼ばれる彼ならそれも可能かもしれない。そう思うと心の中には再び明るい未来で満たされた。
「しかし随分呼びつけたな。ま、たまにはいいか。」
そしてその夜、カズキ達も呼ばれると大食堂は結構な人数で溢れかえっていた。
彼らも当然ヴァッツが子を設けようとしている話は知っているだろうし、彼女達が仲睦まじい様子を見せている事も含めて色々察しているらしい。
「さぁさぁ!僕も腕によりをかけて作るよ!!」
「・・・では私もお手伝いします。」
だからクレイスも次期国王などという立場を忘れて手料理を振舞うのだろう。少しでも親友を祝いたくて。
「あまり羽目を外し過ぎないようにお願いしますね。」
本当に眩しい。心からそう思う。
これからの時代は間違いなく彼らが担うのだろう。そう考えると胸に熱い気持ちも込み上げてくるが宴もたけなわに差し掛かった頃、見た事もない悪夢によってそれらは全てかき消されてしまう。
「みんな。今まで本当にありがとう。オレはもう限界みたいだ。」
彼が酒に酔っている姿など見た事はないし、そもそも今夜は飲んでいない。なので突然の告白には周囲も声を失って目を丸くするばかりだ。
「・・・いきなりどうしたの?」
「うん。オレの中でさ、ずっとア=レイの力が暴れてるんだよね。で、それをどうにか出来ないかなって頑張ってたんだけど・・・もう無理みたい。」
「おい、お前らしくないな?どんな状況かはわからんが、何とか跳ね除けられないのか?」
その意味が少しだけ理解出来る者達は次々に声をかけるも、この時のクンシェオルトは何も出来なかった。何が起こっているのかわからなかった。
「・・・・・前に言ったでしょ?言えなかった事が1つだけあるって。それがこれなんだよ・・・」
「・・・残っていた隠し事ですね?どうでしょう?今からでも教えて頂ければ何か対策を練られるかもしれません。よければ皆様にも聞いて頂いて・・・」
「うん。1つだけ可能性はあった。オレが力を出せばこの光は追い払えたと思う。でも、それをすると世界が消滅しちゃうんだよ。」
一体何の話だ?クンシェオルトだけではない。この場にいるほとんどが重大な場面だという事だけはわかるものの、理解は全くおいついてこない。
「・・・ヴァッツはどうなるの?力を失ってただけじゃないの?」
「オレは多分・・・ア=レイの力に飲み込まれるのかな・・・光に・・・」
だが会話をしている最中、ヴァッツの体がみるみる光ってきていたのでやっと言葉の意味が少しだけわかってきた。『闇を統べる者』を従えている彼が光に包まれるなど異常事態の何ものでもない。
「力を使え!!跳ね返せるんだろ?!本気を出せば?!」
「・・・それは、出来ないよ。だってここはオレが愛した世界だから・・・大将軍だから・・・皆を護らないと・・・」
そうだったのか。
彼は自分が自分でなくなる事をわかっていたから子孫を残す道に進んだのだ。自身が護り通したかったこの世界と、人々の為に。
しかしそれを今理解した所で何になるというのだ?一体クンシェオルトに何が出来る?既に彼の体は光と共に透けてきているというのに。
「ヴァッツ。何で私に相談してくれなかったの?」
ところがそんな無力さに打ちひしがれるような性格を持ち合わせていない唯一の人物が忌憚のない感情を爆発させると周囲の視線はそちらに集まる。
その怒りはすさまじく、真っ白な翼はヴァッツよりも眩い光を発していたが破格は力ない笑顔を浮かべて立ち上がるとそのまま近づいて彼女を抱きしめる。
「・・・ごめんね。アル。」
そして最後は一瞬だけ世界を包み込む程の光に覆われたかと思えば、彼の姿は完全に消え去ってしまった。
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