本能 -黒百合の花-⑤
ハルカの言っていた事はこういうことだったのかもしれない。
時雨自身もヴァッツが少し幼いという方向で無理矢理納得させていた部分はあるのだ。彼の皆を愛する姿勢を信じたくて。
「・・・・・ヴァッツ様、私の中にヴァッツ様の御子が宿ったと仰るのですか?」
「うん!」
普通に考えたら絶対にありえない。だがわかってしまう。己の下腹部から感じる力強い存在を。もしこれが利権を狙うだけの愚か者なら喜んで受け入れるのだろうか。
幼い頃にダクリバンの下へ奉公に出され、それでもいつかは好いた男と結ばれたい。贅沢など望まない、小さいながらも家族を持ちたいという単純ながら非常に難しく、そして輝かしい望みを抱いていた時雨も受け入れるべきなのか。
答えは否だ。
順番も違えば授かる方法も大きく逸脱している。そもそも共有すべき苦楽という過程をすっ飛ばして得たものに価値や感動は生まれない。現に今の時雨は歓喜とは真逆の感情に支配されているのだから。
「・・・あれ?オレもしかして何か間違えちゃった?時雨は子供が欲しくなかった?」
考える力を失い、放心していた時雨が言葉を失っていると目を輝かせていたヴァッツもその様子から何かを察したらしい。いつものように不安そうな眼差しで優しく声をかけてくれるとこちらの心にもぬくもりが戻ってくる。
「・・・・・いえ、そうではないのですが・・・・・ヴァッツ様はプレオス様から手順を踏んだ子作りについて教わらなかったのでしょうか?」
そうだ。きっと何か理由があるに違いない。そう信じたかった時雨は再び落ち着こうと必死に言い聞かせながら質問を続けてみると妙な反応が返ってくる。
「うううん。教えて貰ったよ。ただ・・・」
「・・・ただ?何でしょう?」
「その・・・女の子ってそういう事をする時って痛いって聞いたから。だったらそうじゃない方法でいいかなって。」
何という事だ。まさか破格なりの気遣いが原因でこういう手段を取ったというのか。
やはり彼の優しさに嘘偽りはない。それだけでもわかった時雨は心の整理を後回しにまずは感情に任せて彼を抱きしめる。
そして気が付いた。
初めて出会った頃はまだ自分の方が背丈が大きかったのに、いつの間にかその体は時雨では両手を背中に回すのさえ困難なほど大きく成長している事実に。
「ヴァッツ様、今からいくつか我儘を言わせてください。もし不快に思われたら立ち去って頂いて構いませんので。」
ならば自分も、共に成長せねば。そう決意した時雨はゆっくり体を話すと寝具の上で向き合って座り直す。
「うん?いいよ。何でも言ってみて!」
「ありがとうございます。ではまず、私の中に誕生したという子供を消してください。」
「ええっ?!ど、どうして?!」
「これは私の望む結果ではございません。ヴァッツ様、他の方はわかりませんが私は痛み以上にヴァッツ様を感じたいのです。体を重ねて、お互いの心が通じ合うのを。」
彼も良かれと思って取った行動だった為に、時雨がわざわざ痛みを伴う方法を望んだ事に驚きを隠せないらしい。
だがこれは生き物として当然なのだ。新たな命を生み出すのに何の痛みも伴わないなど逆に不自然が過ぎる。
「お願いします。ヴァッツ様、それからもう一度、私と子供を作って下さい。もちろん貴方の力を使わず、人間として、生き物としての方法で。」
流石に我儘が過ぎたか。いつの間にかハーラー以上に直接的な物言いをしてしまっていたがヴァッツは誰よりも人の心を機敏に捉える事が出来るのだ。
「・・・わかった。それじゃ教えて貰った通りにしてみるよ。うまくいかなかったらごめんね?」
「大丈夫です。ヴァッツ様の為なら何でも受け入れて御覧に見せます。」
夢に描いていたような雰囲気は望めそうもない。それでも妙な緊張感の中、時雨は想像以上の安らぎと満足感から快楽にも身を委ねていくのだった。
いつもご愛読いただきありがとうございます。
本作品への質問、誤字などございましたらお気軽にご連絡下さい。
あと登場人物を描いて上げたりしています。
よろしければ一度覗いてみて下さい。↓(´・ω・`)
https://twitter.com/@yoshioka_garyu




