退避
「ドンレミ軍団長?」
「この一帯を取り仕切る砦の主だ!捕まったら最後、骨の髄まで焼き尽くされるという噂だ!」
「でも僕は─」
何もしてないから逃げなくていいんじゃないか、と言いかけて言葉を呑んだ。
確かに僕は何もしてないが、やってることは彼らの言う通り密入国者と変わらない上反乱軍のアジトにいたという事実に変わりはない。
つくづく、ヴィヴィの警告に従わなかったことを後悔する。
「分かった。逃げよう!」
「こっちだ!」
男Aに促され、秘密の出口へと急ぐ。
「これで一蓮托生だな!よろしくな、えーっと─」
セレーナはしてやったり、といった風で話そうとしたものの、僕がまだ名乗っていないことに気づく。
「僕は...」
しまった。まただ。名前が思い出せない。このままでもなんなので、とりあえずこの前までの名を名乗ろうとしたが─
「ああ、名前は教えなくていい。コードネームでいこう。その方が、何かと便利だろう?」
「え─」
「そうだな...うん、じゃあシャルだ。どうだ?我ながらいい名前だろう!」
「あ、あぁ...そうだな!」
もうなんでもいいや、と受け入れてしまった。
反乱軍が退避した直後。
ドンレミ軍団長とその兵士達が、反乱軍のアジトへ乗り込んだ。
「クソッ、またもぬけの殻か!」
兵士のひとりが腹立たしそうに机を蹴る。
秘密の通路の存在を、少女のような見た目をした監視役兼副官が軍団長に報告した。
「そうか。だが奴らは逃げ足だけは速い。今から追っても遅いだろう。撤収だ!」
軍団長はまた空振りか、といってため息をつく。
「フッ、ところでお前、今日は普通に話すんだな。」
「当然ですとも。今回は仕事でありますゆえ、殿下に敬意を払っているのです。そもそも雰囲気が違うのは殿下のほう─いえ、なんでもございません。」
「ん?私はいつも通りだが、何か問題でも?」
「滅相もございません。失礼いたしました。」
副官は、それは昨日までの貴女でした、という言葉は呑み込むことにした。




