影
「それは儂がお教え致そう。」
目の前に現れた男は、酷く静かな嗄れ声だった。
「お前、誰だ?」
「儂は『影』。潜み、伺い、謀り、ひっそりと生き、陰より他人を殺す者。名前はあるにはあるのだが、名乗る必要は無い。儂はただ『影』なるのみ。」
男は目の前にいる、そうわかるのに、どこから発しているのかわからない声で語った。
「御託はいいわ。ライムの事情を知ってるんなら、話してもらおうじゃない。
それとも、人の隠れ家に忍び込んでタダで済むとでも?」
「それには及ばんよ。君達に仇なす者として来た訳では無いのだ。
─それは呪いだ。少女に植え付けられたるは『恐怖の呪い』。恐怖が故に1度植え付けられたら自らの意思で忘れてしまい、自分でも気づかないうちにその命に従ってしまう絶対不滅の呪い。だが─」
「あるんだな、呪いの解き方が。」
男は、自分でも信じられない、という顔で、
「それはもう、解かれている。」
「あのね、こっちは本気よ?デタラメ言ったら殺すわよ?」
「フン、彼我の実力差さえわからぬ愚か者なら、やってみるがよい。」
そのセリフで、ルーアンはたじろいでしまった。
確かにここはこちらのホームだが、この狭くて仄暗い空間は、完全にあちらのテリトリーだと、分かってしまったからだ。
「じゃあ、どうして分かるんだ?呪いだってことも、それが解けてるってことも。」
「初めに言った通りだとも。儂は潜み、伺う者。鈍な貴殿らよりは、人の機微を伺う術に長けておるわ。
先程まで蒼白であったその顔は、もうなくなっておる。今はそこで寝ながら聞き耳を立てている次第であろう。」




