もののけオールスター大戦争
「──このお話は、
桃次郎が未だ桃源郷へ辿り着いておらず、
ゆえに兄弟と戦う前の出来事として、
聞かねばなりません──」
──古の語り部の言
「──突然のことで申し訳ございません!
それでもどうか、話だけでも聞いて頂きたいのです──!」
開けた山道を進んでいたら、林の奥からタヌキのもののけが現れた。
桃次郎は刀を抜き、さっそく斬り殺そうとしたが──途中で止めた。
なにせ相手は土下座をし、
神妙に「お願いがございます」などと言うのである。
さすがに頭を低くされたままではどうにも居心地が悪い。
とりあえず刀をしまって、面をあげるように言う。
タヌキは喜び、かつ用件を語り出した。
「お願いというのは端的に申して『父の敵討ち』です。
貴方様に、代理の決闘者として戦っていただきたいのです。
私の父は先頃、ある性悪ウサギの手に掛かって謀殺されました。
火傷を負わされ、毒の軟膏を塗られ、果ては水攻めによって──
このままでは八百八いる我らの眷属に示しがつきません。
──何卒、力添えを願えませんでしょうか?」
「うーむ」
近くにあった木の切株──
その上に腰かけて桃次郎は続ける。
「お前みたいな若いタヌキが親の敵を討とうなんてぇのは、まあ見上げたモンだ。純粋に褒めてやる。──が、正直ちょっと腑に落ちねえ。
どうして俺がそんなことをしなければならん?
お前の一族の問題なのだから、お前がやればいい。
あるいはたくさんの仲間たちと一緒に。──違うか?」
「仰ることはごもっとも。しかし、事情があるのです。
件のウサギ──背後に強い後ろ盾があるのです」
──強い後ろ盾。
その言葉を聞いた桃次郎は、とっさに宿敵・桃太郎を想像した。
けれども話が続くと、どうやら人違いであると解った。
「因幡の白兎。──ご存じでしょうか?
サメのもののけを騙そうとして毛を抜かれ、躰が襤褸になっていたところ、通りかかった神の一柱に助けられ元の姿に戻ったという──
実を申せば父を亡き者にしたのは、この同じ白兎なのです。
──いったい、いつの頃からでしょうか。
奴めは自分も八百万の神々の一柱だと嘯くようになり、もし逆らえば天罰が下るとまで言い出す始末。権威を笠に着て無償の労働や高い年貢まで要求し、我々タヌキだけでなく、その他多くのもののけたちも大変に迷惑しておったのです。
父はそんな奴めのやり方に我慢がならず、抗議のために出かけて行ったところ、あんなことに──
一生のお願いでございます。どうか、どうかお力を──!」
「──気に入らねえッ!」
桃次郎は右手のみを鬼化させ、タヌキの首をぎゅうぎゅうと締め上げる。
「いざ殺ったとき、バックに上位の神がついていて、そいつ等が出張ってきたら怖い。だから、俺にやらせて全責任をおっ被せよう。──魂胆が見え見えなんだよクソがッ!」
飛び出さんばかりに目を剥き、ぶくぶくと泡を吹く若ダヌキ。
このまま絞め殺そうとした矢先、その懐からぽとりと何かが転がり落ちる。
見やると、それは書状であった。
人間の文字すら怪しい桃次郎であるから、ましてタヌキ文字で書かれたものは余計に解らぬ。が、円状に文字が連なり、また幾つもの手形で押印までされている。よくは知らぬが──何かの証文であろうか?
興味を引かれ、とりあえず放してやる。
激しい咳と深呼吸のあと、タヌキが言う。
「──これは、連判状にございます。私が声掛けをしておるのは、貴方様だけではない。森や山、空や川など、多くのもののけたちと同盟し、いざ戦となれば皆で立ち上がる。──そういった手筈になっております。ただどうしても、神のごとき力を宿すウサギを滅するには役不足。ゆえ、貴方様に白羽の矢を──」
──神のごとき力を宿したウサギ。
なるほど。
その肝の力、ちょっと面白いかもしれぬ──
桃次郎はタヌキの話に一旦乗ってやることにした。




