其の二十八 五色の軍団
「ようこそ、ようこそ」
中途半端に開いた門扉の隙間へ、次々と進んで行く避難者たち。
それを出迎えるのは、伊勢の大通りに居並ぶたくさんの町人だ。道の左右に分かれて列を為し、顔面にはとろけるような甘い笑みを貼り付けている。
「ようこそ、ようこそ」
先頭集団が、通りの奥深くまで入り込んだ瞬間、
「ようこそ。人間の──最期の砦へ」
──ぐううるうるるるうううううう!
町人たちは一斉に正体を現し、避難者へと襲い掛かった。
青鬼が太い爪の先で男を幾重にも裂き、こま切れにする。
緑鬼は大口を開けると、たった一口で泣き叫ぶ赤子を丸飲みにした。
黒鬼の黒光りする金棒がうなり、巻き込まれた五人は挽肉と化す。
黄鬼の拳は立ち竦む女を捉え、打ち砕かれた躰は霧を噴いて飛び散った。
伊勢の通りに響き渡る、割れんばかりの悲鳴と絶叫。
色とりどりの鬼の群れから逃れようと、生き残った人々はくぐったばかりの大門へ殺到する。それを見計らったかのように、扉の隙間が急速に狭まり始めた。
未だ門の外側にいた桃次郎。
飛びついて、両の腕を無理矢理にねじ込む。たかが丸太と思いきや、神通力によって動かされているらしい。どんどん閉まってゆく。扉の縁をつかむと、腰を落として前傾姿勢。それでも足りぬ筋力は熊の呪言で増強する。
「走れ! とにかく走れッ!」
その呼びかけに、応える者はなかった。
桃次郎の見ている前で最後の一人が、ぐしゃり、と踏み潰される。
躰の芯から、激しい怒りが湧いた。
人間を好きかと問われれば、「然り」とは言えぬ。
だから彼らの代表を──守護者を気取るつもりはない。
それでも──
鬼の蛮行を、
桃太郎の狂気を、
白月を傷つける者を、
許すことはできぬ!
──ぐううるるうるるるうるるるうううううう!
肥大化する手の中で、丸太がメリメリと音を立てて潰れ、木っ端が散る。力いっぱいに引っ張ると門扉は肘金から抜け、地響きをあげて地面に倒れ込んだ。
連結された丸太の一本を剥ぎ取ると、肩に抱えて街へと躍り込む。
すぐさま行く手を塞ぐ、カラフルな鬼、鬼、鬼──
体勢を下げ、腰のひねりを利用しながら、長い丸太をめいっぱいに振り抜ける。
赤い果実が潰れるように、次々と弾ける鬼の顔──
五つ吹き飛ばしたところで、根元からボキンとへし折れた。
手元に残った破片をぶん投げて、桃次郎は辺りを一瞥する。
鬼と人の血に染まった赤い通りには、果たして良い物が幾つも落ちている。
丸太より少し細い、トゲのついた金棒だ。桃次郎の身の丈よりわずかに短い。
素早く二つを拾って二刀に構え、向かい来る鬼を順番に打ち据える。
まるで太鼓のようなリズムの連打。
肉を潰し、骨を砕き、それでも残った躰を弾き飛ばす。
ふり返って櫓を見やるが、誰の姿もない。
「白月ッ! どこだ? どこにいる!」
怒鳴りながら金棒を振るい、通りを突き進むと──見えた!
鬼の群れの向こう──
たしか伊勢氏という名の侍に手を引かれる白月の姿がある。
酷く虚ろで──抜け殻が歩いているかのよう。
「退け退け! クソ鬼共ッ!!」
無心に金棒を叩きつけ、突破口を開く。
棒がねじくれ曲がり始めているのに気付かぬほどであった。




