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其の十二 丁稚暴行

 寺の敷地は平らかに広く、仏殿の背後には山の緑に阻まれるそのふちまで、舎利殿しゃりでんやちょっとしたいおりがぽつぽつと点在していた。桃次郎ももじろうは男たちをその適当な一角──小さなお堂のとなり──へ埋めようとした。


 なにせ土地はいっぱいあるし、あえて見えるところに墓を作った方がクソジジイへの嫌がらせになる。男たちも少しは浮かばれるだろう──そう思って土を掘り返していると、「やめろ、やめろ!」と怒鳴りながら和尚が駆けてきた。


「──なにがいけない? 死体を何とかしろと言ったのはアンタだ」


「たしかに言った。が、この弁天堂べんてんどうの近くはイカン。今後ここへの立ち入りは禁ずる。それから私のことは和尚と呼ぶのじゃ。つぎアンタなどと言ったら──()()()?」


 仕方なく、北側の木立の先まで遺体を運び、そこへ埋めた。土の上には辺りに転がっていた岩を載せ、簡単な墓標にする。二つ並んだ岩の前、さすがに手を合わせて祈りはしなかった。ただ、絶対ジジイに責任を取らせる──そう誓った。



  *



 数日が過ぎた。少しずつだが、色々なことが解ってきた。

 初めはクソジジイがたった一人で管理していると思われた大寺院。実はしっかりと下人げにんの男女が数名おり、掃除や飯炊きに雇われていた。もっとも実際には賃金などもらっておらず、()()()()()()()()()()()()、が本当のところだろう。


 というのは彼らの中にときおり洗脳が解けそうになる者がおり、そういった場合、仏殿で長い再洗脳が行われるのを見たからである。


 いまだによく解らぬことは、子供だ。

 和尚は言っていた。「珍しい童を集めている」。

 その割に境内や寺の住居である方丈ほうじょうの中に、子供の姿は見当たらない。目的はまったく解らぬし、もちろん本人も話そうとはせぬ。


 対照的に、人買いからの取引の申し出は日々あった。

 桃次郎ももじろうの仕事は日がな一日山門へ詰め、見張りに立つことと、やってきた人買いたちを案内することだ。


 括袴くくりばかま髭面ひげづらの同類にしか見えぬ連中に縄を曳かれ、山門をくぐるたくさんの子供たち。桃次郎と同じか、ずいぶんと若い。そんな彼らの姿を見ていると、かつての自分、あるいは現状の自分かのようで気分が悪くなる。


 それでもこちらの知る範囲で、取引が成立することはなかった。

 考えてみればとうぜんだ。桃次郎のような珍しい童が、そうそう簡単に見つかるはずがない。人買いたちの多くは、最初から普通の子供を特別だと偽り、大金をせしめようという腹だったのである。



  *


 

「さっさと立ち去れ。私の目は節穴ではない!」


 仏殿の板間に怒声が響く。例によって子供が偽物と解り、和尚が人買いの二人を一喝したのだ。彼らの間に挟まれて座るわらべは、その迫力にもう半べそをかいている。


 桃次郎ももじろうは和尚の隣に腕を組んで立ち、彼らが騒ぎを起こさず出て行ってくれることを願っていた。「──何か問題が起こったら、お前の出番じゃぞ?」。そう言い付けられていた。


「──おい。いくらなんでも、そんな言い方はねえだろ?」

 願いに反し、向かって右に座っていた大男が立ち上がった。

「俺たちは苦労してここまで来たんだ。買わねえとしても、感謝の言葉くらいあってもいいだろ?」


「そのとおりだぜ」

 向かって左に座っていた痩せっぽちの男も立ち上がる。

「せめて手間賃──あと、慰謝料も払ってもらわねえとなあ?」


 まったくの無表情で、和尚がこちらをじっと見た。

 ──クソッ。

 心の中で悪態をつきつつ、桃次郎ももじろうは二人の前に進み出る。


「おいガキ。どういうつもりだ? 俺たちとやり合おうってか?」と大男。

「お前、そのジジイに騙されてるぜ?」と痩せっぽち。「──俺たちと一緒に来ねえか。ここよりマシな奉公先を紹介するぞ?」


 ──実に有難い申し出。


 しかし、そうはできぬ事情がある。

 こちらが退かぬことを悟ると、大男はふっと息を吐き、突進しながら殴りかかってきた。

 桃次郎の二倍の腕。岩のようなゲンコツ。しかし、そのスピードは遅い。

 こちらへと向かってくる力を利用して腕を払うと、相手はそのまま体勢を崩す。倒れ込んだところで頭を蹴り──死なぬよう手加減して──、大男はもう行動不能。


 すかさず、痩せっぽちが飛びかかってきた。

 ガードした腕に、相手の上段蹴りが命中する。なかなか痛い。

 ステップで距離を取る。どうやら蹴りに自信があるらしい。


 ならば、脚を狙うまで!


 絶妙な間合いから、利き足の太ももに蹴りを打つ。

 なんとか耐え抜いたようだが、ダメージは相当だ。動きが遅くなっている。

 時間をかけて、まったく同じ箇所に二発目、三発目を打ち込んだ。ついに動きが止まり、へなへなと崩れ落ちる。そこで頭を蹴れば──これまた行動不能。


 目の前で繰り広げられた暴力に、童の泣き声はいっそう激しくなっている。

 これでこの子も晴れて自由の身──であったなら、どんなに良かったろうか。


 飄々とした声で、和尚が告げる。


「──()()()()()()()()()()()()()

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