決起(1)
神崎修司 東都新聞記者(主人公)
森本亮太 東都新聞記者(後輩)
堀田部長 東都新聞部長 (上司)
桂木道隆 桂ホールディングス会長
鬼塚剛 ハゲ解放同盟代表
相馬隆之 東央科学大学生命工学部・微生物資源研究室 教授
朝倉美咲 東央科学大学生命工学部・微生物資源研究室 助教
都心へ向かう電車は、休日とは思えないほど混んでいた。
巻いた横断幕を抱えた男。手書きのプラカードを持つ女性。頭髪維持税への反対を示すステッカーを鞄に貼った会社員。
駅前広場では、ハゲ解放同盟による抗議集会が予定されている。広場の周囲にはすでに警察車両が止まり、テレビ局の中継車も集まっていた。
前夜、東都新聞は、桂につながる複数の企業が三年間で総額四億二千万円分の政治資金パーティー券を購入していたと報じた。
記事が公開されると、与党は政策への影響を否定し、桂ホールディングスも適法な企業活動だとする声明を出した。
だが、法案によって利益を得る企業から、法案を進める政治家へ金が流れていた。
その事実が、画面の中にいた人々を街へ出した。
神崎は、広場へ向かう人の流れを改札脇から見ていた。
朝倉美咲の監禁動画が届いてから、二日あまりが経っている。
動画は、まだ公表していない。
朝倉を車へ押し込んだ男たちの身元は分からず、映っていた車両も、桂の関係先で使われているものと似ているというだけだった。
相馬教授の転落も、警察では事故として扱われている。
世間が知っているのは、桂と政界をつないだ金の流れまでだ。
しかし神崎は、記事にできていない事実を握っていた。
桂は相馬たちの発毛研究を手に入れようとしていた。
契約に反対していた朝倉が姿を消した。
監禁動画には、桂との関係を疑わせる車両が映っていた。
その直後、相馬が階段から転落した。
非通知で電話をかけてくる男は、朝倉の失踪を知っていた。
偶然として片づけるには、出来事が続きすぎている。
次に必要なのは、朝倉の失踪に誰が関与しているのかを示す証拠だった。
「神崎さん」
森本が人波をかき分けてやってきた。
「もうすぐ集会が始まります。鬼塚が最初に三つの要求を発表するそうです」
「三つ?」
「法案審議の停止。桂と政界の資金関係の調査。それから、朝倉助教の失踪についての徹底捜査です」
どれも、すでに公になっている事実をもとにした要求だった。
だが、抗議運動の焦点は明らかに変わっている。
薄毛の人間へ負担を求める制度への反対から、その制度を誰が作り、誰が金を出し、誰が利益を得るのかという追及へ移り始めていた。
「参加者の人数は?」
「主催者の予想を超えています。広場に入りきれない人が、駅前まであふれています」
神崎は取材用の録音機を取り出した。
広場から、マイクを通した鬼塚の声が聞こえた。
「俺たちも、行くぞ」
二人は、集会へ向かう人の流れに加わった。




