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他がために、禿げはなる  作者: 南 春


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真実の値段(2)

 小会議室には三人が待っていた。

 堀田部長。経済部デスクの須藤。そして、法務担当の片瀬弁護士。

 机の中央には、一つの茶封筒と、そこから取り出された書類が並べられていた。


「何があったんです」


 神崎が席に着くと、須藤が一枚の資料を滑らせた。


「今朝、経済部に届いた。差出人は不明だ」


 政治資金パーティー券の購入記録だった。

 一年分ではない。三年間にわたる複数のパーティーについて、購入した企業名、金額、振込日が一覧にまとめられている。

 神崎は上から順に目を通した。


 桂ホールディングス。


 東亜メディカル開発。


 ライフアーク・パートナーズ。


 セントラル・イノベーション。


「桂だけじゃないんですね」


 森本が言った。


「いや、全部実は桂関連だ」


 須藤は別の資料を取り出し、机の上に広げた。


「東亜メディカル開発は、桂ホールディングスの完全子会社。ライフアーク・パートナーズは桂木会長の資産管理会社。セントラル・イノベーションも、役員の半数が桂の元幹部なんだよ」


「名前を変えて、分けて買っていた?」


「少なくとも、表面上は別々の企業から金が出たように見える」


 神崎は一覧へ目を戻した。

 異なる会社の名前が並んでいる。

 だが、金の出どころをたどれば、すべて桂ホールディングスへ行き着いていた。


「合計は?」


 神崎が尋ねた。


「四億二千万」


 須藤が答えた。


「三年間でだ」


 森本が息を呑んだ。

 購入先には、与党の有力議員や政策責任者、厚生労働分野に強い議員の名前が並んでいる。

 その中には、外見政策の策定に関わった者もいた。


「本物ですか。これ」


 神崎が片瀬へ目を向けた。


「記載されている一部は、公開されている政治資金収支報告書と一致しています。ただし、この一覧そのものの作成者は分かりません。振込記録や領収書まで確認しないかぎり、全体を本物とは断定できません」


「だとしたら、これだけでは記事にできないですね」


 神崎が言った。


「だから、お前を呼んだ」


 堀田が机の上の資料を指で叩いた。


「経済部は桂グループの資金を追う。政治部は受け取った側を確認する。片瀬先生には、パーティー券購入と政治資金規正法上の扱いを見てもらう」


「俺たちは?」


「法案が動いた時期と、金が動いた時期を重ねろ。日本印象力推進会議と東邦コミュニケーションズにも、同じ金が流れていないか調べる」


 森本が神崎を見た。

 新幹線の中で、神崎が追うしかないと言ったものが、目の前に置かれている。


「これが本物なら、動画とは別の柱になりますね」


「ああ、そうだな」


 神崎は購入記録の最初の一枚を手に取った。


「だが、また差出人不明だ。俺たちが欲しがっているものを、誰かが都合よく差し出してきた」


 堀田が眉を寄せた。


「どう思う?罠だと思うか」


「分かりません」


 神崎は一覧に並ぶ金額を見つめた。


「だからこそ、一つずつ裏を取るしかないですね」


     *


 その日の午後、神崎は電話をかけ続けた。

 内部資料に記された金額と日付を、一つずつ確かめるためだった。

 森本は公開されている政治資金収支報告書を調べ、須藤たちは桂と三社の資本関係や役員構成を洗っている。


 一件目は、厚労省の古い情報源だった。


「審議会の原案は、最初からあの内容だったのか」


「いや。最初は、治療を希望する人への助成が中心だった」


「治療を受けない人への追加負担は?」


「あとから入った」


「誰の要望だ」


「議員側だよ。省内から出た案じゃない」


「どの議員だ」


「そこまでは言えん」


「桂から金を受け取っていた議員か?」


 相手はしばらく黙った。


「金が動いた時期と、原案が変わった時期を比べてみろ」


 それだけ言って、電話は切れた。

 神崎は内部資料の日付へ目を戻した。

 複数の関連会社がパーティー券を購入した直後、法案の原案に追加負担の項目が加えられている。

 時期は重なる。

 だが、それだけで金によって政策が変えられたとは書けない。


 二件目は、以前に名刺を交換した東邦コミュニケーションズ勤務の女性だった。


「日本印象力推進会議の案件について聞きたい」


「私から話せることはありません」


「発注元は、本当に推進会議だけですか」


 電話の向こうで、息を呑む気配がした。


「どういう意味ですか」


「同じ案件の費用が、別の企業へ分けて請求されていないか確認している」


 しばらく沈黙が続いた。


「……私の名前は出さないでください」


「それは、約束する」


「表向きの発注元は、日本印象力推進会議です。でも、実際の請求先は一つではありません」


「どこに振り分けてる」


「東亜メディカル開発と、ライフアーク・パートナーズです」


 どちらも、先ほどの購入記録にあった桂の関連会社だった。


「業務の内容は?」


「識者の手配、SNSの傾向分析、反対派の投稿監視。それから、過激な発言を取り上げるための候補選定です」


「ということ炎上を作ったのということか」


「作ったわけではありません。すでにある言葉の中から、広がりやすいものを選んだだけです」


「それを世論形成と呼んでいた?」


「社内では、そう呼ばれていました」


 女性は、同じ管理番号が記された発注記録と請求書の一部を送ると言った。

 ただし、それだけでは記事にできない。

 神崎は東邦コミュニケーションズ、日本印象力推進会議、東亜メディカル開発、ライフアーク・パートナーズの四者へ質問状を送った。


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