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他がために、禿げはなる  作者: 南 春


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11/20

ハゲ解放同盟(1)

神崎修司 東都新聞記者(主人公)

森本亮太 東都新聞記者(後輩)

堀田部長 東都新聞部長 (上司)

日曜日の正午、駅前広場に奇妙な一団が現れた。


 人数は十人ほど。スーツ姿の会社員もいれば、作業着の男や、帽子を目深にかぶった学生らしい若者もいる。年齢も服装もばらばらだったが、彼らには一つだけ共通点があった。


 誰も、髪を隠していなかった。


 先頭に立つ男が合図を送ると、二人の男性が折り畳んでいた白い布を左右に広げた。赤い文字が、駅前を行き交う人々の前に現れる。


 ――ハゲ解放同盟 ここに結成。


 その下には、少し小さな文字でこう続いていた。


 ――髪がなくても、納税しています。


 一瞬の静寂のあと、通行人の間から笑いが起きた。


「何あれ、面白い」

「名前が強すぎるだろ」

「写真撮っていいのかな」


 次々とスマートフォンが向けられる。それでも、横断幕の前に立つ男たちは頭を隠さなかった。笑われることには慣れている。ただ今日は、自分たちから笑われに来たわけではない。


 代表らしい男が拡声器を握った。


「我々は、髪を生やすことに反対しているのではありません!」


 思いのほかよく通る声に、足を止める人が増えた。


「治したい人が治療を受けられる。それは必要なことです。ですが、髪を生やさない人間に罰を与える制度は、支援ではありません!」


 笑っていた者たちの何人かが、スマートフォンを下ろした。


「髪があるかないかで、人間の価値も、社会への貢献も変わらない。国に生き方を決められる理由もない。私たちは、その当たり前を訴えるために集まりました!」


 仲間たちが一斉にプラカードを掲げた。


「髪で人を測るな」

「薄毛は罪じゃない」

「遺伝に課税するな」

「そのうち全員こっち側」


 最後の一枚で、再び笑いが起きた。


 だが、今度の笑いは先ほどまでとは少し違っていた。


 物珍しさから向けられていたカメラが、男たちの言葉を記録し始める。通り過ぎるはずだった人々も足を止め、広場の周囲には少しずつ人の輪ができていった。


 その日の午後、「ハゲ解放同盟」はSNSのトレンドに入った。夜の情報番組も、彼らを“ユーモアあふれる抗議団体”として取り上げた。


 世間はまだ笑っていた。


 深刻な訴えほど、最初は笑い話として消費される。


 しかし、その笑いの中で、彼らの言葉は確実に広がり始めていた。


     *


  三日後、同じ駅前広場には百人を超える人々が集まっていた。


 あの日の映像を見て、自分も声を上げようと決めた者たちだった。会社帰りの男性、帽子を目深にかぶった中年男性、頭を隠すことなく立つ坊主頭の若者。その中には、夫や恋人に付き添ってきた女性だけでなく、自らプラカードを掲げる女性の姿もあった。


 手にしているのは、段ボールや画用紙で作られた即席のプラカードだった。太いマーカーで書かれた文字は不揃いで、中には雨に濡れてインクがにじんだものもある。それでも、そこに書かれた主張は明確だった。


「治療する自由も、しない自由も」

「髪の量で負担を決めるな」

「支援の名で強制するな」

「薄毛は罪ではない」


 最初の抗議にあった笑いは、もう聞こえなかった。


 取材に来ていた神崎は、広場を埋める人々を見渡した。三日前には十人しかいなかった。通行人に面白がられ、情報番組にも冗談のように扱われていた集団が、今では駅前の一角を埋めている。


 彼らをここへ連れてきたのは、今回の法案に対する怒りだけではない。


 髪のことで笑われても、一緒に笑ってやり過ごしてきた。傷ついても、気にしていないふりをしてきた。悩んでいると口にすれば、さらにからかわれる気がして、黙るしかなかった。


 その沈黙を、今度は国が「支援」という言葉で勝手に問題へ変えようとしている。


 そうして長い間のみ込んできた言葉を、彼らは今日、ようやく人前に掲げていた。


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