第83話 ダンジョンお嬢様(二)
異変が三つあった。
一つは、マータイタンが撃破されたのに、ダンジョンが消えないこと。
リポップダンジョンだとしても、ボスを倒せば一定時間ダンジョンが消え、俺達はダンジョン外に排出されるはずだ。
二つ目は、
「あーらあらあら! ちょこまかと! 逃げるのをおやめなさいな!」
「落ち着いて話を聞け」
「ごめんあそばせ! わたくし、知らない人の話は聞いちゃいけないって幼稚園で言われ育ちましたものですから!」
俺に向かって両のマン・ゴーシュで斬りかかってくる、縦ロールのお嬢様。
そして、三つ目が、
『メス悪魔つえー!』
『あの連撃避け捌きながら戦闘してる二人、何?』
『松子せめて【黒い羊】は解除しろよ!』
俺とお嬢様に向かってガンガン鉤爪付きの両手で攻撃してくる、巨大なメス悪魔である。攻撃がダイナミックすぎて、周囲の闇ギルド構成員達も巻き込まれて逃げ惑っている。気絶させた奴らは――あんまる達が大急ぎで回収し、退避させてくれていた。ありがたい。
お嬢様はドレスの裾を翻してメス悪魔の鉤爪を回避しつつ、マン・ゴーシュの連撃で俺の腕や足の腱を狙ってくる。正確で素早く、それでいて剣先や柄、肘や蹴りなども織り交ぜてくるスタイル――
「――我流か」
「本能のままに戦うのが野獣のたしなみでございますわーッ!」
【風魔流忍法:呑牛之術】で取り出した長クナイを両手に一本ずつ、逆手で持って松子なるお嬢様と鍔競り合う。こちらに鍔はないが。
ともあれ、
「勘違いをしている。俺達はダイバーで、悪人ではない」
説得しようとしたところで、悪魔の腕が降ってきた。互いに互いの得物を弾き合って、距離を取る。衝撃。豪腕が床を砕き、悪魔が吠える。追撃は――松子の方だ。
爆発的に飛散する床材の欠片を全てマン・ゴーシュで打ち落としながら、松子がうっとりとした顔で唇を舐めた。
「ああッ……生の実感ッ……♥ 自分のダンジョンスキルに殺されそうになるのが一番クセになりますの……♥」
「……そうか」
特殊な……その……なんか特殊な人らしい。自分のダンジョンスキルに殺されそうになるってどういうことだろう。
『段蔵くんが……ちょっと引いてる!!』
『忍者不動術が揺らぐとは……変態は幼馴染みで見慣れてるはずなのに……』
『ひめこ:すみません、今誰か私のこと変態扱いしましたか?』
「待て。ひめこは変態ではない。心優しいんだ。最近は『もっとあんまると仲良くしているところを動画で見せて欲しい』と裏で連絡を――おっと」
悪魔の攻撃がこっちに来たので回避する。
しかし、参った。あれはダンジョンスキルで、しかもどうやらオート型の使い魔のようなものらしい。であれば、術者を気絶させて解決というわけにはいかないかもしれない。オートで暴れ続けたら厄介だ。
というか、
「普通に強いな。特にパリィと回避は一級品、忍者で言うなら上忍レベルだ。しかも悪魔までいる。気絶させるのは難しそうだ」
『忍者で言われるとよくわかんねえよ』
『松子が評価されてる……』
『全年齢チャンネルをBANされた成人向けダイバーだけど、実力はマジであるんだよな』
成人向け? どういうことだ? 詳しく説明――ではない。
なんとか説得したいが、しかし俺の話を聞いてくれないのでは……。
「――まつこ! こっち見ろ!」
ふいに、鷹崎アリアが叫んだ。
「ヴィクトリカお嬢様とお呼びなさいッ、蜘蛛娘! ……って、あ、あら?」
松子――ヴィクトリカ? ――が、そちらに視線を向ける。
「あらあらあら! 鷹崎ンとこのガキじゃありませんの! お久しぶりですわー! お兄様もいらっしゃる? まだ独身? わたくしと結婚する気はある? ――おッ♥ やべっ♥ 死ぬ死ぬ♥」
悪魔の攻撃をまた捌く。情報量が多い。なんなんだ、この人は。
鷹崎兄が、やはり疲れた顔で俺の横にやってきた。
「ヴィクトリカさん、一旦、【黒い羊】を解除してください。……段蔵くん、彼女はヴィクトリカさん。ギルドは『カフェ・ド・リリィ』という有名なところです。聞いたことない?」
「浅学で申し訳ない。有名どころは勉強しているつもりだったが……」
「あー、まあ、ちょっと過激で……成人向けのチャンネルで活動しているダイバーでね……」
言いよどむ。俺と鷹崎兄の間に、あんまるがひょこっと顔を出した。
「段蔵くん、知らんの!? ヴィクトリカお嬢様、配信切るの忘れたまま、ギルドマスターの百合子さんとその、セーフゾーンで、女の子同士で――あー……イチャイチャし始めたんだよね」
イチャイチャ? ……垢BANされて成人向けじゃないと再建できないレベルの……イチャイチャ……?
「あんまる。後学のために、どういう動画か確認したいんだが、アーカイブを見ることが出来ないのだろうか」
「BANされたっつったじゃん。てか見せねえし」
無念だ。本当に勉強したいだけなのだが。
「で、成人向けのチャンネルに移行してからはもう開き直っててさぁ、すっごいんだよ。最近なんて……と、あんまり言うと私もBANされちゃうか」
『ひめこ:ええ、まさかダンジョンであんな……破廉恥な……』
『ん? こいつら詳しいな』
『あんまるも上杉も一旦冷静になった方が良いんじゃないか』
……ふむ。
「あんまるは最近の活動も知っているんだな」
「もち☆ ダイバーオタクだからね」
「R18なんじゃないのか」
あんまるが口を「あ」の形にして、五秒固まった。
それから、顔を真っ赤にして両手をぶんぶん振り回す。
「……待って! 見てない! 見てません! 見てまーせーんー!」
『草』
『ふーんえっちじゃん』
『ひめこ:あーらあらあら、あんまるさんったら、はしたなーい!』
『上杉こいつさっきのコメント消しやがった!!』
『一番はしたないのはお前定期』
【迷宮見廻りバズ・ニンジャ】発売いたしました!!
Web掲載版から大幅に加筆修正し、話の流れや設定がやや変わっております。
大枠のストーリーはそのままですが、既読の方も是非お読み頂ければと思います!
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●特典SS詳細
・メロンブックス様
「杏奈と姫虎の楽しい女子会」
タイトル通りのお話です。
・ゲーマーズ様
「本当の名前」
姫虎が段蔵くんの本名を知ったときの話を姫虎視点で。
・書泉・芳林堂書店様
「荻谷さんの退職に伴う有給消化」
荻谷さんが退職するときの左慈支局長との一幕。
・応援店様
「段翁、左慈と会う」
爺さんのところに左慈がご挨拶に来るお話。
・アンケートSS
「迷宮見廻組の楽しい社会見学」
ダンジョンコアを燃やしてお湯を沸かしてタービンを回す新時代の発電所の見学。




