第84話 ダンジョンお嬢様(三)
「つまりですね、わたくし、本日はギルマスと新入りギルメンの三人で、静岡のダンジョンに潜っておりましたところ、縦断型モンスターと遭遇いたしまして、クソめんどくせぇですわと思いつつ他のダイバー様方に恩を売るため討伐に挑みましたの。そうしたら、急に縦断型モンスターの胃から腸壁? だかなんだかが魔術的な暴走を始めまして、こりゃいかんですわーと【黒い羊】で抑えにかかりましたら、視界がグルングルンして、気づいたらここに飛ばされておりましたの」
【黒い羊】を解除したヴィクトリカによると、そういう事情らしい。
おそらく、こちらのダンジョンから繋いでいた逃亡先がその静岡のダンジョンで、そこにいた縦断型モンスターの異界障壁に干渉した……のだろうか。詳しいことはダンジョン公社の解析を待つとしよう。
「なるほど。それは災難だったな」
「ええ、混乱のあまり、ついマン・ゴーシュの峰を向けてしまいましたけれど、故意でもなければ殺意も御座いませんでしたので、推定無罪ですわよね?」
「思い切り刃を向けられたように記憶しているし、【黒い羊】からは殺意以外の何も感じなかったが」
「あれは仕様! スキルの仕様ですの! ゆえに無罪!! 【黒い羊】は約70%の確率でわたくしを、残り30%の確率で周囲のモンスターなどを狙いますの」
「など?」
ヴィクトリカは額に浮いた冷や汗を袖でぐいっと拭って、脇にいた鷹崎兄の方を向いた。
「この忍者ボーイ、人を追い詰めるのがお上手ですわねぇ。率直に言って、興奮しますの♥ わたくしィ、けっこう虐められるのとか好きですしィ……♥」
「あの、彼は未成年なんで、そういうのはやめてあげてくださいね……?」
『法律にもBANされそうな女』
『俺の段蔵くんに近づくんじゃねえ!!』
『ひめこ:私の段蔵ですが!?!?』
あんまるが俺の腕を引いて抱き、ジト目で言う。
「ヴィクトリカお嬢様、段蔵くんはダメだかんねー?」
「あら、もうお手つきでしたの。高校生が。普通にうらやましくてキレそう」
「それは僕もわかりますねぇ、はっはっは」
おっぱいが肘に当たる。ふむ。ほう。
「あと、段蔵くん、押しに弱いから、どっちかっていうとMかもね」
「押しに弱いつもりはないが」
「姫虎ちゃんに無理矢理遊びに付き合わされるの、嫌いじゃなかったんでしょ?」
「それはそうだが」
腕を、さらに、ぎゅー、と強く抱き寄せられる。なるほどな。装備越しだが、そうか、うむ。
「あと色仕掛けにも弱いよね」
「そんなことはないが」
「ちなみに最近大きくなったけど」
「あんまる、あまりそういうことを配信で言わない方が良いと思うぞ」
苦言を呈すると、あんまるが、にやーっと笑った。
「段蔵くーん? 何が大きくなったと思ったのかなー?」
「む」
それはもちろんおっぱいだが、どうやら嵌められたらしい。
「いや、話している場合ではないな。闇ギルドの構成員は全員縛り上げたが、ダンジョンが閉じず、あの穴も消えない。それらの調査を進めなければならん」
「話逸らすの下手すぎじゃん?」
あんまるがケラケラ笑って、腕から離れていった。残念だ。いや別に全然残念ではないが。
そこで、ヴィクトリカが「それじゃ」と片手を挙げた。
「わたくしアッチに戻りますので。それではまた~」
「え、あの穴に飛び込む気なの?」
「おー、まつこ、おばか」
「お馬鹿で結構! ギルマスとギルメンを向こうに残してきたのです、戻らないわけにはいかないでしょう? 縦断型もおりましたし、おそらく戦闘に不慣れであろう新人っぽいダイバーもおりましたし、助けに行きませんと」
「新人っぽいダイバー? 結構なピンチじゃないの、それ」
鷹崎妹の指摘に、ええ、とヴィクトリカが頷く。
「なんか小学生くらいのガキ――じゃなくて、女の子のダイバーと、仕立ての良いスーツを着たヤクザみたいなダイバーと、紋付き袴を着たおじいちゃんダイバーがおりましたの。最近は幅広いですわよねぇ」
「あの、ダイバーの免許って、十六歳以上じゃないと取れないんですけど……」
ヴィクトリカは「そうでしたっけ?」と首を傾げた。
「合法ロリなんじゃないですの? 小学生とは思えないくらい、丁寧な挨拶をしてくれましたわよ? 軒下が三十三間堂だとか、両国国技館がどうとか、ステーキ屋の一人娘だとか」
俺はあんまると顔を見合わせた。俺は忍者不動術のおかげで真顔だが、あんまるは頬を引き攣らせている。同じ想像をしているに違いない。
「ヴィクトリカ嬢。それはもしや、軒下三尺三寸、生国が日本、テキ屋の一人娘……という流れの挨拶じゃなかったか。名前は蘆花村清次郎――違うか?」
「あー、まあそんな感じでしたわね。長すぎてどれが名前かもよくわかりませんでしたけれども……」
まずい。事情は分からないが、もしも、その縦断型モンスターの前にいるのが、俺達が想像する通りの少女であれば――正真正銘の、小学五年生である。
『ろかむら?』
『蘆花村って、まさかあの蘆花村組か!?』
『昭和の大ヤクザじゃねえか!』
その彼女がダンジョンにいるということは、まず間違いなく事故か、あるいは彼女の生家が絡む犯罪だろう。
だったら。
「あんまる、判断は」
「行くに決まってるでしょ!」
「心得た、ギルドマスター。鷹崎兄、すまないが、後はよろしく頼む」
「あっ、はい。よく分かりませんけど、なんとかしておきます」
トラブルに慣れすぎている感のある鷹崎兄に全てを任せて、俺とあんまるはワープゲートに飛び込んだ。
【迷宮見廻りバズ・ニンジャ】発売いたしました!!
Web掲載版から大幅に加筆修正し、話の流れや設定がやや変わっております。
大枠のストーリーはそのままですが、既読の方も是非お読み頂ければと思います!
●公式サイト
https://bnovel.bushiroad-works.com/novel/775/
●Amazonリンク
https://amzn.asia/d/05Qs8VdX
●特典SS詳細
・メロンブックス様
「杏奈と姫虎の楽しい女子会」
タイトル通りのお話です。
・ゲーマーズ様
「本当の名前」
姫虎が段蔵くんの本名を知ったときの話を姫虎視点で。
・書泉・芳林堂書店様
「荻谷さんの退職に伴う有給消化」
荻谷さんが退職するときの左慈支局長との一幕。
・応援店様
「段翁、左慈と会う」
爺さんのところに左慈がご挨拶に来るお話。
・アンケートSS
「迷宮見廻組の楽しい社会見学」
ダンジョンコアを燃やしてお湯を沸かしてタービンを回す新時代の発電所の見学。




