第82話 ダンジョンお嬢様(一)
三宅をトンしたことで、周囲の闇ギルド構成員達が慌てて穴に飛び込んで逃げようとするが、
「させん」
彼らもトンしていく。
あと数人、というところで、不意に頭上に影が差した。
「――と」
気絶させた闇ギルド構成員を抱えたまま横に飛んで、マータイタンの振り下ろした拳を回避――、……いや、回避する必要はなかったかもしれない。
その拳は中空で軌道を変え、マータイタン自身の肉体を殴りつけたからだ。どう、と音を立ててマータイタンが倒れる。
「さすがだ、鷹崎アリア」
「ぶい」
忍者の眼でようやく視認できる細さの糸が拳を巻き取り、食い込み、それらが拳の軌道を強引に変更したのだ。
「モンスターは任せるぞ、アリア」
鷹崎兄がそう言って笑いながら、古びた縄――おそらく何らかの魔道具――を投げた。蛇のようにのたうちながら縄がひとりでに動き、闇ギルド構成員を三人まとめて縛り上げる。いいな、あれ。
「よっしゃ! アタシもボスの方に――」
あんまるが鮫丸を担ぎ直して言いかけたそのとき、俺の忍者超感覚が警報を鳴らした。
「あんまる、待て!」
「りょ! 待つ!」
『素直で草』
『理由とか聞かないんだね』
『これが揺るぎなき信頼って言うんだぞ、見てるか上杉』
警戒態勢を取った直後、ワープゲートの前で倒れていたマータイタンが起き上がり、怒りの咆哮を上げ――、そして、その頭部が砕け散った。
「うわグッロ」
「おー! すぷらった!」
鷹崎妹と鷹崎アリアが顔をしかめる。
マータイタンの頭部を粉砕したのは、ワープゲートから出てきたあるものだ。
それは、
「黒い腕……?」
黒くて巨大な腕だ。鋭い爪を備えたそれが、マータイタンの頭を握りつぶしたのだ。驚いたことに、服を着ているらしく、スーツの袖のような物も見えている。
「――闇ギルドのみんな! あれナニ!?」
あんまるの問いに、気絶していなかった闇ギルド構成員達が首を横にぶんぶん振った。知らないらしい。
『……悪魔系の腕っぽいな、スーツ着てるけど』
『ぶっとい』
『あれ、なんか見たことある気が……』
直後、そいつが穴からずるりと体を引き出して、全容が見えた。
そいつはミノタウロス以上の巨体に、羊の頭と黒い巻き角を持ち、豊満な女性型の肉体を執事服に詰め込んでいて……と要素が多く、端的に表すのは難しそうだ。
「うっわ! 海外のケモナーがめちゃくちゃ好きそうなメス悪魔じゃん!」
あんまるが端的に表した。
「女性型の悪魔系モンスターか。マータイタンよりも厄介そうだ――」
「いや、段蔵くん。あれは敵ではないよ……」
なぜだか、すごく疲れた顔で、鷹崎兄が言った。
「知り合いか? あの悪魔と」
「まあ、顔見知りではあるね……」
ワープゲートから、加えてもう一つ、影が沸いて出た。
それはフリルのたっぷり付いた紫色のダイブドレスに身を包んだ、金髪縦ロールの女性だ。両手には剣が一本ずつ握られている。柄のガードが大きいタイプ……補助用防護短剣の二刀流とはまた、奇妙な構成だ。
その女性ダイバーは、キョロキョロと周りを見回して、口を丸くした。
「な、何ですの!? どこですのココ!?」
なるほど、迷子か。
……迷子か? ワープ先から、偶然紛れ込んできた……のか?
『え、あいつまさか』
『松子!?』
『ええ!? ヴィクトリカお嬢様!?』
そこで、間の悪いことに、俺に抱えられていた闇ギルド構成員が目を覚まし、俺の顔を見上げた。
「うわあニンジャだ! ニンジャコワイ! 誰か助けてくれ!」
「失礼な奴だな……。もう一度黙らせるか。せい」
首トン二回目。
だが、そのやりとりで、女性ダイバーが俺達を認識した。
「何がなんだかわかりませんけれど――今あなた、助けを求める人間の首に……打撃を……?」
「ああ、気絶させた」
「あらまあ悪びれもせず! その悪行、お嬢様として見過ごせませんの!」
両手のマン・ゴーシュの切っ先が、俺を向く。
「成・敗! いたしますわ!」
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荻谷さんが退職するときの左慈支局長との一幕。
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爺さんのところに左慈がご挨拶に来るお話。
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ダンジョンコアを燃やしてお湯を沸かしてタービンを回す新時代の発電所の見学。




