第81話 『鷹崎家』(六/六)
無邪気な掛け声とともに発射された蜘蛛の巣。
透明化して潜んでいたヤクザが蜘蛛の巣状の網に捕らえられ、桟橋の上に転がった。もがいているが、糸が桟橋にくっついているのか、まるで脱出できそうな雰囲気はない。
「アリアの能力は――説明が必要ですか?」
と、鷹崎兄が言う。
「日本のダイバーで知らない者はいないだろう。糸に関する複数のスキルを複合的に使用可能な神話の存在、【魔迷宮の蜘蛛姫】。種族名がそのままスキル名で……つまり、現代に蘇った神話であると」
もがくヤクザの頬をつつきまくっている鷹崎アリアを、俺は忍者鑑定眼で観測する。
「身体強度も、やはり人間の比では無いな」
「格闘戦は面倒くさがってやりませんけど、まあ人間よりはモンスターに近いですからね。……ちなみに忍者とどちらが強いです?」
鷹崎兄が、にやりと笑って問うてきた。
『おお、踏み込むな……』
『まあ先輩側から踏み込まないと聞けないしな』
『気になっていたんだよな、規格外同士の強弱……』
酷なことを聞く、と苦笑する。規格外と言っても、俺は人間であり、鷹崎アリアはアリアドネだ。
「……経験と技術込みの格闘限定戦なら、負ける気は無い。が、スキル有りの何でもありなら、よくて二十分耐えられるかどうか、というところか。勝てるビジョンが湧かないな」
「アリア相手に二十分も保つの、日本だと五人もいませんよ。……ああ、もちろん俺は三分も保たないけど」
鷹崎兄が笑って言う。
……あえて言わないが、仮に鷹崎アリアと敵対することになったら、鷹崎兄を集中攻撃するのが最適解だろう。鷹崎アリアへマジチャを供給しているのが召喚者の彼である以上、そこを狙わない選択肢はない。
彼もまた鍛え上げられた優秀なダイバーで、多種多様な魔道具を使いこなす知恵者ではあるが、鷹崎アリアに比べれば勝ち筋が見える。
ともあれ、半魚人を黒い塵に変え、ヤクザをサクサク捕縛しながら、ダンジョンを進む。
「それにしても、ヤクザって思いのほかいっぱいいるんだねー」
鷹崎妹が棒をくるくる回しながら言った。
「闇ギルドは複数の母体からなる。ヤクザ、半グレ、テロリスト、海外の犯罪組織、それから宗教組織も絡んでいたりするが、奴らが集合したことで、相互に人員が交流、交換されているらしい」
「闇ギルド構成員ってくくりなら、相当多いらしいよー」
桟橋は何度か分岐していたが、
「択一式占術魔道具『路傍倒棒』。これ、分かれ道に立てて手を離すと、進むべき方向に倒れる――っていうダンジョンでは大助かりな道具なんですよ」
「反則的だな……!」
「分岐路が多すぎたり、そもそも分かれ道じゃないタイプのダンジョンだと、うまく機能しないんだけどね。こういうところだと超便利」
鷹崎兄が魔道具で道を探るため、迷うことはない。
そして、俺達は開けた場所に辿り着いた。
円形に組まれた木製の広場で、その中央では巨大な生き物が胡座をかいて座り込んでいる。
「大型の半魚人――かなりの魔力量があります……!」
鷹崎兄が警戒の声を上げる。鷹崎妹、鷹崎アリアが戦闘態勢を取り、あんまると俺も油断なく武器を構えた。
『でっか』
『なんだあれ』
『なんかいっぱいくっついてんな、ヤクザもいるし』
その巨大な生き物は、体中に様々な大きさの管が突き刺されている。そして、その周囲にはパソコンなどの機械から陰陽術の式盤まで、様々な道具が設置されていた。
道具の周辺には人影がいくつか。その誰もが――白衣をまとった研究者と思しき者でさえ――一目で堅気では無いとわかる危険な雰囲気をまとっている。
その中の、ストライプ柄の高級そうなスーツを着込んだ中年の男が、頬をつり上げて笑った。
「来よったなァ、公社の犬どもォ!」
「段蔵くん、あの人、タブレットに顔写真ある?」
「――確認した。『我導會』の幹部、三宅シンタだな? 貴様には複数の魔導犯罪の容疑がかかっている。大人しく投降する気は――」
「アホ抜かせ! てめぇらはここで死ぬんじゃ! ウチのマータイタンは縦断型とボスを融合させた特別製、貴様らなんぞ片手で捻り潰せるわい!」
微動だにしなかった巨大半魚人……マータイタンが、丸い魚眼をぎょろりと動かして、俺達を見た。
木製の床を軋ませながら立ち上がる。管が剥がれ、床に落下する。
「門開けぇ! とんずらじゃア!!」
三宅が指示すると、マータイタンの背後に黒い穴が開いた。あれは――。
「もしかして、ダンジョン間ワープ!? そんなん出来るの!?」
「がはは! 『呪詛組』の新技術じゃ! ほな、せいぜい頑張りやァ!」
言って、穴に入ろうとした三宅に、
「いや逃がさんが」
「ぐえっ」
俺は忍者瞬歩術で接近し、背後から首に手刀をトンして気絶させておいた。
「うわぁ、あのおじさんかっこつけたのにかわいそう……」
「段蔵くんがカッコいいからいいんっすよ。えへん」
なぜあんまるがドヤる……?
【迷宮見廻りバズ・ニンジャ】発売いたしました!!
Web掲載版から大幅に加筆修正し、話の流れや設定がやや変わっております。
大枠のストーリーはそのままですが、既読の方も是非お読み頂ければと思います!
●公式サイト
https://bnovel.bushiroad-works.com/novel/775/
●Amazonリンク
https://amzn.asia/d/05Qs8VdX
●特典SS詳細
・メロンブックス様
「杏奈と姫虎の楽しい女子会」
タイトル通りのお話です。
・ゲーマーズ様
「本当の名前」
姫虎が段蔵くんの本名を知ったときの話を姫虎視点で。
・書泉・芳林堂書店様
「荻谷さんの退職に伴う有給消化」
荻谷さんが退職するときの左慈支局長との一幕。
・応援店様
「段翁、左慈と会う」
爺さんのところに左慈がご挨拶に来るお話。
・アンケートSS
「迷宮見廻組の楽しい社会見学」
ダンジョンコアを燃やしてお湯を沸かしてタービンを回す新時代の発電所の見学。




