第23話 ギルド認定試験(五/六)
「わっ!?」
「ほう」
「あれは――」
それは、牛の頭を持つ二足歩行のモンスターだった。
牛鬼に似ているが、より威圧感が強く、筋骨隆々としていて、両手に斧を一本ずつ持っている。大きさは三メートルほど。
「――ミノタウロス!? そんな、階層縦断型が渋谷で出るはずがありません!」
『ミノタウロス!?』
『とんでもないのが出た』
『逃げて!』
荻谷さんが顔を引き攣らせ、あんまるはデコったノートを開いた。
「階層縦断型、メモした気がするー……。あった、ええと『階層間移動ができる特殊なモンスターのこと』ね。へー、珍しいんだ、アレ」
「厄介だぞ。異界に関する特殊能力持ちでな。タゲを取った相手がダンジョンを出るまで、ひたすら追いかけ続けてくる」
ダンジョンで、ごくまれに発生する災害のようなものだ。生半な実力では歯が立たないほど強力なくせに、倒してもろくなアイテムをドロップしない。
だが、ターゲットした人間を、執念深く、いつまでも追ってくるから、ダイバーからは蛇蝎のごとく嫌われている。
姫虎の配信で、一度だけ相まみえたことがあった。姫虎はすぐに逃げられたが、タゲの対象が俺だったため、俺だけダンジョンに残って戦ったのだ。
「試験中止です、即刻退避を――!」
「待ってください、荻谷さん」
だから、あの牛巨人のことは、それなりに知っているつもりではある。
「俺、地方在住なんです。試験のためにまた上京するのは、面倒くさいです。続けましょう」
『なに言ってんだ』
『段蔵くん、空気読めないときあるよね』
『はよ逃げろ』
「続けるって、倒すべきティタノマキアもいないのに、なにを……!?」
「ボスが死んだらダンジョンが閉じて、俺達は外に排出されるはずです。でも、そうなっていません」
「……あ」
荻谷さんが、ミノタウロスを凝視する。やつは渦巻く黒い霧を、少しずつ吸引していた。
「まさか、ボスの座が移った……!? 人工管理ダンジョンで、そんなイレギュラー起こるはずが……!」
「現に起こっています。というわけで、試験の手順通り、ボス戦に移ります。あんまる、行けるか?」
「え、アレ倒すの!? "出会っちゃったら逃げましょう"系のモンスターってことでしょ!?」
「どちらにせよ、ダンジョン内に俺達しかいない以上、ミノタウロスは俺達を追撃してくるはずだ。広いボスフロアのほうが鮫丸を振りやすいだろう。あんまるがやる気なら、勝てる相手だ」
「……段蔵くんがそう言うなら、勝機はあるんだね。りょーかいっ、任せといて!」
「なら、鮫丸を最大まで研いでおけ。……俺がタゲを取り、隙を作る」
言って、俺はコロシアムに飛び出した。
「待ちなさい、加藤さん! 認められませんよ!」
「ごめんね、荻谷さん。あとで二人纏めて怒られるから、ちょっと待ってて!」
続いて、あんまるもフロアに降り立つ。
『無茶だろ』
『こわいって』
『でも、牛鬼とミノタウロスって同格なんでしょ? 段蔵くんなら倒せるんじゃないの?』
『フィジカルだけなら同格ってだけで、本当に同格なわけじゃない』
『異様なタフネスと異様な破壊力が厄介なんだよ』
『全身を異界障壁で覆っているから非魔術系の攻撃の通りが極端に悪いし、魔術的防御に干渉しながら殴ってくるからダイブドレスの防御機構の効きも悪い』
『さすがに段蔵くんと言えど厳しいだろ』
そう、俺でも厳しい。
結局、姫虎のときは倒し切れなかった。クナイと手裏剣を異界障壁に潰されてしまい、仕方なく逃げたのだ。苦い思い出だが……、今日はあのときと違う。
今日は、共闘する仲間がいる。
ミノタウロスの前に飛び出して、身をかがめて影に触れる。
「【風魔流忍法:吞牛之術】――」
影の中から、長クナイを取り出す。伊賀の奥里ダンジョンで収納してきた、追加の忍具だ。二本の長クナイを逆手で持って、構える。
牽制して、隙を作って、
ぎろりと、ミノタウロスの瞳が俺を睨んだ。
「――さて、リベンジマッチをさせてもらおうか」
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