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第24話 ギルド認定試験(六/六)



 ただでさえ大きい体格に、二本の斧。ミノタウロスのリーチは長い。

 戦う姿はまさしく暴力の化身――だが、その大きさが、俺にとっては利点となる。


 斧をかいくぐり、飛び越え、身を捻って回避する。

 大きい(・・・)がゆえに、俺にはすり抜ける隙間だらけだ。至近距離で回避しながら、タゲを取り続けるのが仕事。こういう役割を回避タンクと呼ぶらしい。


 回避を続けながら、肌を撫でるように長クナイを滑らせる。


「やはり通らないか」


 撫で斬りとはいえ、研ぎあげた刃物。すぱり(・・・)と斬れてもおかしくはないが、傷ひとつついていない。


 『異界障壁、めちゃくちゃ分厚いからね』

 『解説動画によると、表皮から一ミリ足らずの空間に十メートル弱の異界を圧縮して防御障壁にしてるらしい』

 『純粋物理火力で抜くなら十トン級の圧力が必要になる』


「……なるほど、届かないわけだ」


 長クナイでは、絶対にダメージを与えられないだろう。無駄な攻撃だ。それでも、斬り続ける。

 ミノタウロスと視線をあわせながら、挑発するように。


 『長クナイじゃ意味ないよ、なにしてんの』

 『攻撃行動でタゲ維持してるんでしょ』

 『斧に気を付けて! 当たると反転した異界の反発力でダンジョンのどこかに吹き飛ばされちゃう!』


「心得た。忠告感謝する」


 返事をしつつ、ミノタウロスの目を狙って、連続で手裏剣を投擲する。薄くて分厚い圧縮異界の層に遮られて、手裏剣がからからと地面に落ちた。ミノタウロスは嫌そうに目の前で腕を振る。ふむ。


「鮫丸、魔力充填。切れ味強化(かさね)、さらに(かさね)、もいっちょ(かさね)――」


 コロシアムの端で、あんまるの強化が始まる。鮫丸を腰だめに構えて、精神を集中している姿が、視界の端に映った。


「すまんが、俺へのマジチャは控え目にして、あんまるの枠に頼む。可能な限り、強化を重ねさせたい」


 『りょーかい!』

 『今日の魔力、もう段蔵に入れちゃった。ごめん』

 『ミノタウロス相手に喋りながら回避タンクとか、余裕ありすぎでしょ』


「謝る必要はない。ありがとう、感謝する。あと、余裕はあまりない。長時間の戦闘は避けたいところだ。……いちおう試しておくか」


 両斧を避けながら、ミノタウロスの足のあいだに滑り込み、術式を励起する。


「――沈め、【風魔流忍法:吞牛之術ジャック・イン・ザ・ボックス】」


 ミノタウロスの姿勢が、崩れた。だが。


「重いな。異界障壁は無理か」


 その表皮の異界障壁を、ほんの少し呑んだところで、止まる。

 重量制限(・・・・)だ。


 『もしかして、異界障壁だけで一トン以上ある!?』

 『そら、ちっちゃいダンジョンみたいなモンですから』

 『牛の癖に呑牛で呑めないのずるい』


 踏み潰そうとしてくる足を転がって回避し、跳ねるように起き上がる。ついでに回転しながら足に長クナイで攻撃を加えておく。無意味だが。


「鮫丸、魔力充填。波刃霧(かさね)(かさね)、最後にもう一回(かさね)――」


 『あんまるちゃん、今まで見たことないくらい強化してる』

 『やべー』

 『鮫丸ギラギラだぞ』


 ふいに、ミノタウロスがあんまるを見た。

 あんまるの構える妖刀鮫丸から、蒼い波の魔力が溢れ出ている。もはや、纏うという段階ではない。さすがに気づかれたか。限界だな。


「あんまる、いけるか?」

「わかんない! ミノタウロス斬ったことないもん! でも、いまのアタシが強化出来る限界までは重ねられた! マジチャ四十万ポイント注ぎ込んでるよ!」

「上々だ」


 鮫丸の魔力を危険視したのだろう。ミノタウロスが咆哮しながら、あんまるに向かって突撃を開始した。


「わっ、こっち来た!?」

「そのまま構えていろ」

「――わかった! 腰、引かないかんねっ!」


 ミノタウロスを忍者瞬歩術ニンジャ・マニューバスキルで追い越して、跳躍。やつの目の前まで跳びあがり、間髪入れずに長クナイ二本を両目に突き立てる。それは当然、異界障壁に阻まれて届かない。だが。


「嫌なんだろう? 視界に対する攻撃は。たとえ、食らわないとしても」


 ミノタウロスが怒りの咆哮を上げ、両斧を左右から叩きつけてくる。

 金属同士がぶつかる交通事故みたいな激音。

 かち合った両斧が、反動で大きく弾きあって――、ミノタウロスが、両腕を開いた体勢になる。


「段蔵くんっ!?」


 『潰れた!?』

 『ぐちゃぐちゃ!?』


「潰れてないしぐちゃぐちゃでもない! あんまるっ、隙を逃すなッ!」


 叫ぶ。俺は、ミノタウロスの足元に跳んでいた。両斧がかち合う寸前に、斧を蹴って地面に着地――もとい墜落したのだ。受け身は取ったが、勢いがありすぎて背中が痛い。

 あんまるは返事をせず、腰だめに構えた妖刀鮫丸を、即座に振り抜いた。


「必殺の~っ☆ 鮫丸斬撃波(サメマルインパクト)ッ!!」


 蒼い魔力で作られた飛ぶ斬撃(・・・・)が、嵐波のような荒々しさと勢いを以て、ミノタウロスの頭に迫る――、ばぎんっ!(・・・・・) と音を立てて、なにかが砕けた。

 それは、黒い魔力の残滓を残して、空気に溶けていく。


「――しくじった!」


 割れたのは、異界障壁だ。本体には、届かなかった。あれほどの一撃でも。

 ミノタウロスが吠え、開いた両腕の斧であんまるを狙う。

 あんまるは妖刀鮫丸を振り抜いた体勢。回避は間に合わない。その状況からなら、ミノタウロスの攻撃のほうが、速い。万事休す、絶体絶命のピンチではある。

 だが。


「障壁が無ければ、貴様は牛鬼と大して変わらないだろう。【風魔流忍法:吞牛之術ジャック・イン・ザ・ボックス】――」


 だが、当然ながら(ニンジャ)のほうが速い。


「――おまえの足を呑んだ。(こうべ)を垂れるがいい」


 牛鬼と同じだ。がくんっ、とミノタウロスの体勢が崩れる。それは、両足首を影に呑まれ、割断されたがゆえの結果であり。

 それゆえに俺は呟く。


「では、これにて……」


 空ぶった両斧は、まるで見当違いな地面に突き刺さり、ミノタウロスは前のめりに倒れ込んで――。


「……ゴメン☆」


 ――正面で待ち構えていた白ギャルのサムライが、俺の呟きを引き継いだ。


 蒼の斬撃を飛ばしてなお、有り余る魔力を帯びた鮫丸が、ミノタウロスの首を斬り飛ばす。

 決着である。



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