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第16話 YOUは何しにダンジョンへ?(三/四)



 社の縁側に座って、用意してきた握り飯と、水筒入りの麦茶を取り出す。ラップで包んだ握り飯を手渡すと、あんまる――出雲杏奈が首をかしげながら隣に座った。


「段蔵くんさー。武器とか握り飯とか、どっから出してんの?」

「忍者装束は、見た目より物を入れる場所が多い」

「うわ便利。でも、ダイバーの外見としては失格だよね。もっとこう、段蔵くんの良さを活かしたいかも」

「俺は忍者装束が好きだが」


 飯を食うため、頭巾と覆面を外す。出雲杏奈は俺の顔をじっと見た。


「や、カッコいいのは、わかるけどね? わかるんだけど、黒一色なのがね……。あと顔出ししてないのもナシ。段蔵くん、いい顔してるのに、もったいないよ」

「いい顔? 姫虎には"辛気臭い"だの"陰気"だのと言われていたが」

「それは表情の話でしょ。彫りが深くて印象に残るし、整ってるほう……、ていうか、ちゃんと天パ手入れして、眉剃って、表情出すトレーニングすれば、絶対イケメンになれると思うけど。あ、コレ中身なに?」


 表情筋も鍛えてはいるのだが。忍者変装術ニンジャ・マスカレイドスキル修行の一環として。

 しかし、変装ではない自分自身の感情をとっさに出すのは、たしかに苦手である。


「梅のはちみつ漬けだ。……嫌いだったか?」

「いや、大好き。むしろ甘くない梅干しが食べられん。あざー☆」


 出雲杏奈は大口を開けて、豪快にかぶりついた。


「てかさ、このダンジョン、訓練で使ってたんでしょ? ダンジョンスキルなし、配信マジチャなしで。どれくらいで攻略できるもんなの?」

「個人記録は三十二分だ。他の走者はもっと速いぞ」

「そんなRTAみたいな。他の走者って、忍者?」

「そうだ。先代の加藤段蔵が十五分、先々代なら二十五分。俺は未熟だ」

「もうご家族全員でダンジョン配信やれよ。死ぬほどバズんべ」


 爺さんなら、面白がってやるかもしれんが。いや、あの人は見る側か。昨日も「最近はヴィクトリカお嬢様がアツいんじゃ」とか言っていたし。父さんは……、やらんだろうな。あの人は目立つのが嫌いだ。


 水筒のフタに麦茶を注いで渡してやると、うまそうに喉を鳴らして飲む。食わせがいのある女だな、こいつ。


「そういやさー、段蔵くん、なんでひめこちゃんの裏方やってたん? 付き合ってたとか?」


 そして、次々と話題が変わる。会話に物おじしないと、こういうコミュニケーションの取り方になるんだな。


「アイツの我が儘に付き合っていただけで、男女の付き合いではない。住む場所は遠いが、幼馴染なんだ。昔々は、加藤家そのものが姫虎の家系の家来だったらしくてな。その関係が、今まで続いている」

「へー。忍者は家業?」

「忍者は家業というより、伝統だな。継ぐ者がいる限りは、継がれ続ける。俺は継ぎたいと思った」

「んじゃ、加藤段蔵を継ごうと思った理由は?」

「……くだらん理由だぞ」

「話してみてよ」


 出雲杏奈は瞳を輝かせた。興味津々だな。


「……加藤段蔵という忍者は実在する。軍記物語や仮名草子、浮世草子などで紹介されていたし、実際に俺が十八代目を継いでいる」

「うん。それが?」

「だが、世の人が加藤段蔵と呼ぶ場合、それは初代だけを指す。戦国武将に仕えた、ただ一人をな」


 それ以降の段蔵は、歴史に名を残した初代段蔵の名を継いでいるだけ。


「俺は忍者に、加藤段蔵になりたいんだ。初代を超えたい。……カッコいいじゃないか。忍者って。小さいころから、憧れていたんだ」


 同じことを父さんに言ったことがある。十七代目の加藤段蔵に。

 父さんは俺の夢を聞くなり『馬鹿なことを言うな』と一蹴した。


『忍者なんて過去の遺物だ。真面目に勉強して、普通に働きなさい』


 実際、父さんはそうやって俺を育ててくれている。日本全国を飛び回る監査職だとかで、しっかり稼いで金を家に入れてくれているから、俺は学校に通えている。

 だが、俺は悔しかった。忍者のカッコよさを否定されたみたいで。

 だから俺は先々代、つまり十六代目の加藤段蔵たるじいちゃんに教えを請い、忍術の腕を磨いた。父さんへの反発だ。


「馬鹿な夢だと思うだろう。カッコいいから忍者になりたい、だなんて」

「え? なんで? カッコいいじゃん、忍者」



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