第15話 YOUは何しにダンジョンへ?(二/四)
『惜しかった』
『いきなり牛鬼の前に放り出すとかスパルタすぎんか』
『それにつけても段蔵くんの安心感よ』
『いまのは悔しいわ、首に届けば倒せてた』
コメント欄が、あんまるの健闘を称える声で染まる。俺も同意見だ。もう一息で牛鬼を倒せただろう。
「狙いは悪くなかった。ただ、角ごと脳天まで切り裂く威力がなかったな。さらに威力を上げるか、あるいは一太刀めは首ではなく膝あたりにして姿勢を崩し、返す刀で首か胴……、という組み立てを狙うのもアリだろう」
『ガチ指導じゃん』
『師匠と弟子みたいになってきた』
あんまるは「ふんふん」とうなずいて、どこかから取り出した手帳とストラップ付きのペンで助言を記し始めた。手帳にはべたべたとシールが張られ、色とりどりの線が引かれている。表紙には『ダンジョン攻略帳』のタイトル。
自作の、ダンジョン用のメモ帳らしい。
「回避も考えるべきだ。たとえば……、そうだな。妖刀鮫丸の顕現を解除した場合は、どうなるんだ?」
「消えるケド? ……あー、そっか。角にめり込んだとき、鮫丸から手を離して攻撃を避けて、それから再顕現すればよかったんだ。……でも、強化構築もやり直しになるから、マジチャ注いだ後に消すの、もったいないかなって思わん?」
「命よりは安い」
「うっ。おっしゃる通りです……」
しょぼんとするあんまる。直情的すぎるきらいもあるが、行動力があって素直で、他者の言葉を真正面から受け止められるし、疑問があればすぐに聞く……、好感を持てるギャルだ。
同級生から、さぞかしモテモテだろう。
「さて。次は、どうする? 俺がやるか?」
「もちろん、アタシがやる! 次は勝つっての! あ、でも危なくなったら、また助けてくれん……?」
「当たり前だ。いつでも助けてやる」
「えっへっへ、あざーっす☆」
『かっけー』
『ナチュラルにそういうセリフ吐けるタイプの人か』
『これで黒ずくめで覆面の不審者でなけりゃなー』
うるさい。忍者装束はカッコいいだろうが。
ともあれ、それから第五階層に至るまでの数十分で、あんまるは六度の牛鬼戦を担当した。そのうち二度は、俺の介入なしで牛鬼に勝利した。見事な成長である。
第五階層の奥に、セーフゾーンがある。
シャボン玉の膜に囲まれた、小さな社だ。
「今日はここまでにするとしよう。少し休憩したら引き返すぞ」
「え? アタシ、まだまだ元気だよ?」
「六階層は中ボスだ。メインの土蜘蛛に加えて、取り巻きで牛鬼が六体出る。あんまるにはまだ早い」
『中ボスにしては殺意が高すぎる』
『幻想深度10000やばすぎでしょ』
『てか詳しいな』
『ダンジョンの内容知ってるってことはダイブ経験あるリポップダンジョンか』
『ここ、どこのダンジョンなの?』
ふむ。ダンジョンについては、開示してもいいか。
「私有ダンジョンだ。うちの家が持っている。田舎にあるし、周りに爺さん婆さんが住んでいるからな。一般公開はしていないんだ。場所は言えない、すまん」
「そーそー。すごいよねー、ダンジョン持ちの実家なんてさ」
『実家?』
『てことは、あんまるちゃんは段蔵くんの実家に行ったってこと!?』
おっと? コメント欄の流れが変な方向に変わってないか?
『実家でご挨拶!?』
『ご報告動画!?』
案の定だ。
「待て。変な勘ぐりをするな。あんまるは謝礼のために訪問したんだ、他意はない」
『あんまる、ちゃんとご両親に挨拶したか?』
『初対面の印象が大事だからな』
『黒染めはしといたほうが良かったんじゃないのか』
あんまるがにやーっと笑った。
「いんや、ご両親は不在だった☆ 実家で二人っきりだったよん☆」
「あんまるも、ネタに乗るんじゃない」
『乗るな、あんまる! 戻れ!』
『取り消せよ、いまのネタ……!』
『実家で二人っきり!? 段蔵くん大丈夫!? 変なことされなかった!?』
「ちょっと! アタシがする側かよ! ウケる」
爆笑するあんまる。俺はというと、ただただ驚いていた。カルチャーショックというやつだ。
「……あんまるのファンは、なんだか不思議だな。俺の知っているダイバーのファンは、もっとこう、男の影がちらつくだけで嫌がる人が多かったんだが」
具体的には姫虎のファンだ。
「あー……。まあ、そういう人もいないわけじゃないけど、アタシ自身がソレを売りにしてないから、すぐに離れていっちゃうんだよね。勝手に『信じてたのに』とか『失望しました』とか言ってさー」
『あんまるリスナーはアホを見に来ている』
『ズバズバ言いすぎるときも多いけど、こういうスタンスが好き』
なるほどな。姫虎とは根本的に視聴者層が違うのか。
でもお前ら、あんまるがクラスメイトだったら好きになるだろう……、わざわざ言いはしないが。
「あと、休憩して戻るだけ? そんじゃ、今日は配信もここまでにしよっかな。段蔵くん、本当にありがとーっ! こないだ助けてくれたのも、今日一緒にダイブやってくれたのも、めちゃくちゃ嬉しかったよ!」
「こちらこそ、新鮮な経験が出来た」
締めの流れに入ったらしい。『目玉くん』に向かって、あんまるは上下逆さまにしたピースを向ける。俺もとりあえず両手で真似しておく。
「いやノリよっ!」
「せっかくだからな。やっておかないと、もったいない――だろ?」
互いににやりと微笑み合う。
「んふふ、さすが段蔵くんだ。それじゃ、明るく楽しい、あんまるのダンジョン配信でしたっ! みんなー、今日もご視聴ありがとねーっ☆」
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