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隠居生活のためのギルド設立〜怪しいやつばっかり仲間になるせいで各所から悪の帝国としてマークされてるんだが〜  作者: 歩く魚


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デス・カイザーと忍

 一歩、二歩と怪我人に近づく。


「おい、大丈夫か?」


 そう声をかけると、倒れていた人影の肩がびくりと跳ねた。


「————ッ!」


 次の瞬間、信じられない速さでその身体が起きる。

 手傷を負っているはずなのに、まるで痛みを感じていないかのような身のこなし。

 黒い影が地を蹴り、俺の喉元めがけて細い刃が一閃した——が。


「……っ」


 刃は俺の喉の寸前でぴたりと止まっていた。

 正確には、止められていた。

 レイラの短剣がいつの間にか割り込んでいる。


「お、惜しかったようだな」


 俺に反応できる速度ではなかったが、あえて避けなかったふうを装っておく。


「デス様に、触らないで」


 氷のように冷たい声だった。

 刃を交えたまま、二つの影が至近距離で睨み合う。


 刺客——襲ってきた娘はまだ若かった。

 年の頃はレイラと変わらないくらいか。


 乱れた黒髪、勝ち気そうな目。

 額には脂汗が浮き、明らかに限界が近い。


 それでも刃を引かずに俺を——いや、レイラの背後にいる俺を、じっと見据えている。


「……邪魔を、するな。あたしは奴隷なんかに……」


 彼女の言葉を聞き、俺は完全に理解した。

 この子は異国の奴隷商か何かに追われ、逃げてきたのだ。

 俺をその一派だと思っている。誤解を解けば戦う必要もないわけだ。


「実力のある忍かと思ったが、その目は節穴か? よもや、目玉だけを変わり身で置いてきたわけではないだろう」


 自分でも何を言っているか怪しい所だが、雰囲気は伝わるだろう。

 事実、娘の動きがぴたりと止まった。


「……仲間では、ないと言うのか」


 刃の切っ先がわずかに揺れる。


「この俺が、人を鎖で繋いで売り買いするような小物に見えるか。重ねて言うが、その目は節穴のようだな」


 心底どうでもよさそうに、吐き捨ててやる。

 実際には仲間に奴隷商はいるが、ボズは例外みたいなものだろう。


 俺が言ってしまった言葉に傷ついていないか横目で確認したが、むしろ嬉しそうにしている。なんでだよ。


「……信じられない。あたしは里に捨てられた……手を差し伸べると言って近づいた者は、皆あたしを値踏みして、売ろうとした。優しい顔の裏で、品定めを……っ」


 悲しみや悔しさがぐちゃぐちゃに混じった声。

 勝ち気な目の奥に、隠しきれない疲れと警戒の色がある。

 ずっと誰も信じられないまま、たった一人で逃げ続けてきたのだ。


「だから、俺もお前を油断させて捕らえるつもりだと?」

「……当然の警戒だ」

「ならば聞くが……」


 俺は腕を組み、努めて尊大に見下ろした。


「先ほど、お前は俺の喉元へ刃を突き込んだな。あの間合い、手負いとはいえ、お前の刃は確かに俺を捉えていた」


 もちろん、捉えられていたのは事実だ。

 レイラが止めなければ、今ごろ俺の喉は風通しが良くなっていただろう。

 

 だが、それをあえて俺の側が許してやったかのように言う。


「あの刃を、なぜ俺は避けなかったと思う」

「……っ、それ、は……」

「避ける必要がなかったからだ」


 本当は避けられなかっただけである。

 しかし俺の口調が尊大なせいで、それはまるで「貴様ごときの刃など止めるまでもなかった」とでも言うように響く。


 娘の喉がごくりと鳴った。


「お前が本気で殺しに来た一撃を、俺は眉ひとつ動かさず受けた。その俺が、今さらお前を欲しがって、わざわざ鎖になど繋ぐと思うか? 欲しければ、とうにそうしている」


 言うだけ言って、俺は背を向けた。

 正直、問答が長引くのも面倒だったのだ。

 俺はただ、道端で血を流している人間を見過ごせなかっただけだし、早く坑道の仕事を片付けて帰りたいし。

 

「俺はお前を売らん。そこの騎士から治療を受けろ。傷が塞がったら好きなところへ行け。それだけだ」


 すると背後で——刃が地に落ちる音がした。

 振り返ると、娘がその場に膝をついていた。

 今度は襲うための構えではない。深く、深く、頭を垂れている。


「……あたしは、シュカ」


 絞り出すような声だった。


「里を追われ、行く当てもなく、誰の手も取れずに逃げてきた女だ。……あなたは、そんなあたしの刃を真正面から受け止めて、値踏みもせず、見返りも求めず、ただ去れと言った」


 顔を上げたシュカの目は、もう警戒の色をしていなかった。

 代わりに、何かに縋りつくような、純粋で真っ直ぐな光が宿っている。


「初めてでした。あたしを、利用する道具としてではなく……斬りかかった敵としてすら扱わず、対等な、一人の人間として見てくれた人は」

「い、いや……そんな深いことは考えてないんだが」


 これは良くない兆候だ。

 俺は必死に軌道修正しようとするが——


「この刃も、命も、すべてあなたに捧げます。だからどうか、お傍に置いていただけませんか」


 仕えろなんて、これっぽっちも言っていないぞ。


「命は誰かのために捧げるものではない。自分のために使え」

「で、ですが……!」

「私はデス様のために魂を捧げていますけどねぇ?」

「俺もだ」

「お前達は黙っていろ!」


 せっかく断れそうな空気だったのに、ボズとクレイドのせいで遠慮か何かに聞こえてしまう。

 シュカは膝をついたまま俺に迫り、涙目で足にしがみつく。


「お願いじまずうぅぅぅぅぅぅ!」

「えぇ……」

 

 泣かれても困るんだが……。

 だが、ずっと一人で逃げてきた娘が、初めて誰かに向けたその必死な目を突き放すのかと考えると、躊躇ってしまう。


「はぁ……気が済んだら学校とか通って、普通の人生を送るんだぞ」

「……ッ! ありがとうございます! 潜入任務ですね、承知しました!」

 

「このように人々が集っていく……まさしく理想的な王の姿!」

「完璧な男だと言わざるを得ない。一体、何なら持っていないのか」

 

 こうしてまた一人、頼んでもいないのに、俺のギルドの仲間が増えてしまったのである。


仲間も増えたことですし評価ポイントをいただけるととても嬉しいので、お手数ですがよろしくお願いいたします!

作品作りにご協力いただけると幸いです!


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