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悪徳商人、覚悟を決める

 魔法剣事件の後、トラビィオ商会の者は長期休暇に入っていた。材料を買い集めるべく、連日徹夜の上に外国にも行った。休まないと過労死してしまう。たっぷりの贅肉を蓄えていたトラビィオも、見るからに痩せた。大いびきをかきながら、熟睡しているトラビィオをドアのノック音が起こす。


「旦那様、ジーオルです。入りますよ」


 頬が瘦せこけ、目の隈が酷いジーオルはトラビィオを起こす。


「……うわっ。誰だ、貴様!?」

「ジーオルです。構う元気が無いので用件言いますよ。王宮からの使者が来ました。近々、併合した元苛烈王の国へ視察に行ってほしいと。理由は――」

「ええい、今は寝かせろ。大した用事ではないだろう!」

「……まぁ、そうですね。それじゃあ、おやすみなさい」


 屍同然のジーオルがドアを閉めた後、トラビィオは舌打ちをする。


「何故、ワシがあの地域の視察など。暇な官僚にでも行かせれば良いだろうに!」


 そして、出発日が近づくまで眠りに落ちた。

 トラビィオは知る由もなかった。この時、しっかりと目覚めて自分で店の状況や、視察の理由を確かめなかった後悔が襲って来る事を。


 出発日二日前。体や思考が働くようになったトラビィオは店に向かう。店内はユリウスの宣伝効果で武具などの売上が大きい。帳簿を見て、ニヤニヤと笑う。


「……この出金は何だ?」


 多額の金が、『援助金』や『復興支援金』という身に覚えのない名目で出金がされていた。その総額に嫌な汗が流れる。


「まさか!」


 トラビィオは、少し軽くなった体を走らせ宝物庫に行った。


「何だ、これは……!」


 魔法剣事件で半分に減ったとは言え、それでも莫大な財宝が積み上がっていた宝物庫が空になっていた。金貨一枚も残っていない。事情を聞こうとジーオルを探すが先発して視察地に向かっていた。他の従業員に聞けば、ユリウスが王国軍に引き渡し視察地へ持って行ったと話す。そして、謎の尊敬の眼差しが向けられる。


 トラビィオは、予定を前倒しにして視察に向かう。そこは戦争で荒廃した、かつては苛烈王が支配した国。戦争の激しさと、苛烈王の圧政が見られた。


「何故、身なりが良いんだ。それに……」


 町を歩く人達は綺麗に整えられた服を着て、もうすぐやって来る厳冬に備え防寒服も着ている。しかし、一番の違和感は表情だった。圧政に苦しみ戦争にも巻き込まれたはずなのに、顔色は良く表情が明るい。子供も外で遊んでいる。

 トラビィオは、復興に派遣された王国軍と文官に歓迎を受ける。


「無事にお越しになられて良かったです。さあ、天幕を用意しておりますのでこちらへ!」

「お気遣い、感謝いたします。えっと、王宮から復興地の視察へと命じられまして。こちらで、何かご入用がございますか?」


 衛兵付きの温かい豪華な天幕に入り、文官に用件を尋ねた。ここまで歓迎されるからには、どんな要求が来るのかと身構える。


(頼むから、無茶な依頼は出さないでくれよ。今、店には金が無いのだ。くそ、ユーリはどこに居るんだ!)


 商人らしい人当たりの良い笑顔の下では、店の財産を丸々持って行った息子を、煮て焼いて食ってやると決意するトラビィオだった。


「実は、視察と言うのはトラビィオ殿を王都から離す名目なのです」


 文官の雰囲気は急に変わり、冷徹なものを感じさせた。修羅場を潜り抜けて来たトラビィオの直感が危険を知らせる。


「先の戦争で、軍官僚が重大な汚職をしていた事が発覚したのです。その内容は、この地に隠されていた苛烈王の財産を盗み、とある人物達の元に運んだと」


 身に覚えがあり過ぎるトラビィオは青ざめて体が震える。きっと、天幕を警備していた衛兵が乗り込んで来て、自分を縛り上げると確信した。何より、告発したであろうユリウスに裏切られた事へショックを受けていた。


「おや、顔色が優れませんな。飲み物をご用意いたしましょう」


 差し出されたカップには、なみなみとワインが満たされる。


(毒杯か。――何故だ。何故、ワシを裏切ったんだ。全てはお前を守る為だったのに! 何故なんだ、ユーリ!)


 逃げ場無しと覚悟を決めて、カップを飲み干した。やがて襲うであろう苦しみを待つ間、閉じられた瞳にはユリウスとの思い出が走馬灯のように映る。


(……あぁ、ワシには悪事など向かなかったんだな。ユーリ、散々利用してすまなかった。決して、口にはできぬが愛しておるぞ。幸せになれ!)

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