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悪徳商人、純白騎士に泣かされる

「来たんですね、父様――父様!?」

「うっ、うっ。ユーリ?」

 

 天幕にユリウスが駆け込み、嗚咽を抑えながら泣いているトラビィオを見て驚く。近くに居た文官を睨み、魔力を放つ。


「文官さん、父様に何したの?」

「私は、ワインを勧めただけで、何もしておりません!」


 ユリウスの迫力に気圧されて文官は尻餅をつく。酷い動揺ぶりに、トラビィオは違和感を覚えた。裏切り者のユリウスが、何もしていないと怯える文官を威圧する。

 

(この雰囲気は、ワシに毒杯を飲ませた感じではないな!)


 トラビィオは、懐に仕舞っている魔法の眼鏡でカップを見る。結果は、無毒。自分が何か誤解していると確信する。この状況を分析して言い訳を素早く考える。商人は早さが命だ。


「やめなさい、ユーリ。圧政に苦しんだ民衆の財産を奪った、軍の連中の非道を考えると込み上げてくるものがあったのだ! 何と酷い事を!」


 涙を拭い、大仰な手振りで悲しいとアピールする。すると、ユリウスに怯えていた文官の雰囲気が明るく変わった。ユリウスも瞳を輝かせる。


(よし! これが正解みたいだな。王都を離された理由は、おそらく……)


 立ち上がった文官は、王都で起きている事とトラビィオを離した理由を伝える。

 

「王都では、汚職に関わった者達を一斉に逮捕しているのです。摘発の功労者であるユリウス殿とトラビィオ殿が、混乱に巻き込まれないようにここへ視察依頼を出ました」

「……ふむふむ。お心遣い感謝いたします。しかし、その、摘発の証拠となる物はどこから? 管理は厳重にしていたのですが」


 悪徳仲間が捕まっている予想は当たったが、どんな証拠で逮捕されているのかは分からなかった。場合によっては、次こそは毒杯を飲まされる可能性があるのだ。それとユリウスが持ち出した、店の財産の行方も気になった。あれこそが、トラビィオの有罪を証明する証拠の一つになる。


「ハハハ、旦那様。私に命じられたのを忘れられたのですか? まぁ、前代未聞の買い付けで酷く疲労していましたからね」


 まだ、頬が痩せこけているジーオルが天幕に入る。そこには一冊の本が握られていた。


「奴らの長年の違法な商売や、資金の流れを記した裏帳簿を使えって言ってたではありませんか」


 ジーオルはトラビィオにだけ分かるジェスチャーで、『問題なし』と伝えた。そう、悪徳商人トラビィオ・グリモールは一人で店を切り盛りして来た訳ではない。脇が甘くなりがちなトラビィオを支えて来た、悪徳番頭ジーオルがいたからこそ悪事が可能だったのだ。


「トラビィオ殿も人が悪い。早く通報していただければ、王国軍で対応していたのに。いち商人が、深く関わる案件ではなかったでしょう」

「文官殿、この組織は根深いのだと説明したではありませんか。だから、我が主人は危険を顧みず関わって来たのです。公的立場の方々では金銭に目がくらんで取り込まれる可能性もあったでしょう」

 

 この大事件の大きな手柄を取られた文官は、わずかに含ませた嫉妬を向ける。すかさず、ジーオルは皮肉で返した。悔しそうな顔を隠さず、文官は社交辞令を言って天幕から去る。

 

「実際、どれだけの役人が関わっていた事か。それより、遠路はるばるお疲れ様です」

「宝物庫を見て、大急ぎで来たぞ。どうなっているんだ?」


 ジーオルはユリウスを見て頷くと、満面の笑みを浮かべて嬉しそうに事情を話す。宝物庫でトラビィオと話した後、あの財産をどう使えば良いのかジーオルに相談した。そこで引っ掛かりを感じてジーオルに相談した理由を聞く。


「僕と王女様が結婚出来るように、手柄へ繋げる財宝だって言ってましたよね。だから、どうすれば手柄って言える使い方が出来るかジーオル兄さんに相談したんだ。そうしたら、父様達が悪人を捕まえる為のお金だって聞かされて。本当に驚いたよ!」

「あー、ほら。悪人達から怪しまれないように、念のため受け取ったじゃないですか。情報を記して来た裏帳簿と財宝を合わせれば、正確に盗まれた金額が分かるからって。それを使えば、汚職役人は一掃できてユーリの手柄に繋げられるって」


 ジーオルの、状況を教えてくれる言い回しにトラビィオも合わせる。ちなみに、裏帳簿と言うのはユリウスに相談を受けて、状況を察したジーオルが作った偽物である。これで、財産が大きく減った分は納得がいく。しかし、宝物庫が空になっている事には別の理由があった。ユリウスからそれを聞いた時、気絶しそうになる意識を食い止める努力をトラビィオは必死に行う。


 「余った分のお金は、王女様に話て王国に寄付したんだ。そしたら、『トラビィオ様の篤志に叶うよう、戦災地に使いましょう』って。やっぱり、王女様って頭が良いよね。尊敬するよ……」

 

 王女を想い、照れながらユリウスは話す。ユリウスは父と兄に赤くなる顔を見せないように天幕を急いで出た。人の気配が無くなった後、トラビィオは倒れる。それを支えようとジーオルが手を伸ばすが、デブのトラビィオを支えきれず一緒に倒れ込んだ。


「うわぁぁん。なんで、財宝を全部、寄付、してんだよ! バカ、バカ、バカ!」


 床に転げまわり、泣き喚くトラビィオ。元はと言えば、宝物庫の財宝はユリウスの為と言った事が原因だ。


「今回は逃げきれましたけど、悪事から足を洗いましょうよ。また、山で薬草採取でもして薬を作り、旦那様の手作りで評判だった木材家具も売って商売しましょう。従業員も手を貸してくれますって」

「うぅ。そうだな。一からやり直すか。所詮、ワシには悪事など向かなかったんだ。ジーオル、これからも頼むぞ」

「はい、一緒に頑張りましょう!」


 二人は商人人生のやり直しを決意する。

 

 ◇


 「どうして、こうなった?」

 

 ユリウスと王女の結婚後、慎ましく商売をするトラビィオ商会には客が殺到していた。


「この家具は先進的なデザインだな。言い値で買うぞ!」

「奥さん、ここの薬はお肌に良いのよ。ほら、張りが違うでしょ」

「まぁ、私もこれをくださいな」


 本人も忘れていたが、周辺の悪意が邪魔をしただけで、トラビィオの商品はもとから人気だったのだ。

 接客に追われる従業員の背中を見ながら、懐から一枚の思い出の金貨を取り出す。


「結局は、善良な商売が身を救う訳だったか。無駄に遠回りをしたな」

 

 金貨が積もられていく箱へ、若い頃の苦労の象徴だった金貨を投げ込んだ。


「父様、何か言った?」

「いや。これからも一緒に頑張ろうな、ユリウス」

「――うん!」


 純白騎士であり、愛息であるユリウスの笑顔は出会った頃のように輝く。

読んでいただきありがとうございます。これで完結となります。

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