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悪徳商人、純白騎士をたぶらかす

 王都の大通りでは、熱い歓声と空に響き渡るラッパの音が凱旋する軍団を迎えた。苛烈王の戦死を知った敵軍は降伏。王国軍は反撃に転じ、敵国を占領して王国へと併合した。任務を終えた王国軍は、王都へ帰って来た。


「見ろ、義勇軍だ!」

「ユリウス様ー!」

「純白騎士ユリウス、万歳!」


 義勇軍の列が現れると、歓声はさらに高まった。特に、先頭を進むユリウスには花が投げられる。自分達より歓迎される義勇軍に、正規軍の司令官は顔をしかめる。だが、苛烈王を討ち取ったユリウスを始め、義勇軍の功績は大きい。何より、一緒に戦っていた正規軍の兵士も歓声を上げる始末だ。


 歓声に応えて手を振るユリウスを、高い建物から見下ろす怪しい集団がいた。


「フフフ。まさか、ここまで上手く行くとは思いませんでしたな」

「当然の事だ。あれほどの、我らの陣中見舞いがあって占領できぬ訳がない!」


 ここに集まったのは、この戦争で暗躍した商人達。苛烈王亡き後の王国軍を大勝に導いた者達だ。


「それにしても、トラビィオさんの所の商品は優秀ですな。まさか、苛烈王を討ち取るとは。おかげで、かの国で育てた革命戦士への投資が無駄になったわい!」


 琥珀色の酒を楽しんでいたトラビィオは、窓際に移りユリウスを見ながら大笑いをする。


「お主が、抜け駆けするから痛い目に遭うのだ。しかし、ワシも驚いた。ユーリが苛烈王を倒すなど、想像もしなかったわ。ユーリは、自慢の商品だ!」


 もう一度、高笑いするトラビィオの側でジーオルは小さく溜息をつく。ユリウスと苛烈王の戦闘が始まったと聞いた時、気が動転して短剣を持って戦場へ行こうとしたトラビィオを、ジーオルと周りは必死に止めた。


「ユーリの名前を、何度も泣き叫んでたくせに」

「何か言ったか、ジーオル?」

「いえ、何も……皆さま、戦利品の分配が終わりました。こちらが明細書になります」


 明細書に記載された数字を見て、商人達は口の端から涎を垂らしそうになった。トラビィオが商人達へ協力を求める為に思い付いた、苛烈王の莫大な財宝は王国軍の到着後すぐに発見され移送した。王国首脳部も知らない、秘密の戦利品。戦争に参加した甲斐があったと、誰かが呟く。

 トラビィオは財宝の一部とユリウスの安全を手に入れ、他の商人達は引退を考えてしまう程の財を得た。誰もが満足に終わる結果となった。


 王宮前で始まった論功行賞に挑むユリウスを、いつもの下卑た笑みとは違い、珍しく穏やかな笑顔で見守るトラビィオであった。


「ユーリ、無事で良かった……」


 側に控えるジーオルは、やっと明かしたトラビィオの本音に笑いを堪える。


「しかし、これほどの戦争に魔法剣を大量に用意するとは。トラビィオさんの財力は恐ろしい……」


 若い商人の呟きは、トラビィオとジーオルに届かなかった。


 ◇


 商店に帰ったトラビィオは、宝物庫に運び込まれた戦利品の山を見て、にんまりと笑う。


「ユーリの件や色々と苦労をしたが、この戦利品を見れば疲れなぞ吹っ飛ぶわ!」


 黄金の山に飛び込み、日課である財宝浴を楽しむ。トラビィオの欲望を詰め込んだ宝物庫に、金貨の崩れる音が響く。


「まさか、この宝物庫が手狭に感じる日が来ようとはな……。次は、この国が欲しい!」


 ユリウスを助ける為と計画した『商人の国』は思い付きの物だった。しかし、ユリウスが苛烈王を倒す戦果を挙げた事で近くの脅威がいなくなり、他の商人と協力すれば実現できる財も手に入れた。そして、予想外の出来事がトラビィオの野望を掻き立てた。


「王女がユーリに惚れたとは。あいつも、満更でもない様子だ。婚姻を結めば、王位継承権争いにワシらが介入できる。あいつを王位に就ければ、ワシは外戚として高位貴族にもなれるだろう」


 目を閉じれば思い浮かぶ光景。玉座へ座るユリウスの隣に立つは、豪華な装いをしたトラビィオの姿。


「トラビィオ宰相、か。ユーリは、あの美しい王女と結ばれて国王となり幸せ。ワシは王国宰相並びに商人国家の首領で幸せ。他の奴らも要職に就かせよう。店は、ジーオルに任せるか。うん、これで全員が幸せだ!」


 財宝の山の頂上で、トラビィオは立ち上がる。自分の果てしなく明るい将来と、ユリウスが美しい王女と笑い合う姿を思い描く。


「この財を使い、ユーリを使い。ワシはこの国の、真の王となる。愚かなる苛烈王よ、貴様の財のお陰だぞ。ワッハッハッ!」

「父、様……?」


 宝物庫をユリウスが覗いていた。


「苛烈王の財ってどういう事? あの国には、使えるお金や何も無いから復興が遅くなるって困ってたよ。なのに、何であいつの財がここに。まさか……!」

「ま、待て。違うんだ。この財宝は、お前の為なんだ!」

「僕の、ため?」


 トラビィオの言葉に、ユリウスの悲しみと怒りに歪んだ顔が緩む。その隙を見逃さず、早口になりながら言い訳を話す。


「確かにあの国から運んだ。だがな、これはお前の幸せの為なんだ。王女殿下とお前が婚姻を結ぶ為には、これが必要だ。誰もがユーリを称えても、所詮は孤児だと笑われる。だが、この財宝を使えば黙らせられる。その為に使う財宝だ!」

「でも、苦しむ人達を差し置いてそんな事は出来ない! これは、あいつに苦しめられた人達へ返さないとダメだよ!」

「バカ野郎! 金はな、どんな武力にも勝る力だ。剣で倒せない相手でも、金なら倒せる。ワシは、そんな場面を何度も見て来た。いいか、お前はこれを使って王女殿下と結婚するんだ。そして、幸せになれ。お前が幸せは、全員の幸せに繋がる。これがあれば、ユーリの願いを叶えられるんだ」


 ユリウスの視線は、財宝の山とトラビィオを行き交う。そして、うな垂れた。


「……王女様と結婚する為に必要。分かったよ」

「そうだ、それで良い。忘れるな。お前の幸せの為に、ここへ運んだ財宝だ。全ては、お前の為だ」


 落ち込んだ様子でユリウスは頷き、宝物庫を出た。それを見送り、トラビィオは急いで扉を閉める。


「あっぶなかった! あいつは純粋でバカだからな。怒り狂って殺されるかと思った……」


 シルクのハンカチで顔を拭い、邪悪な笑顔を浮かべる。秘密は知られたが、知られた以上、ユリウスも無関係ではいられない。話せば罪に問われるからだ。胸が痛みつつも、ユリウスが自分から逃げられない理由が出来た事に満足を感じた。

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