悪徳商人、奇跡を起こす
魔導砲撃が始まって、しばらく経った頃に事件が起きた。王国軍の司令部から緊急通信が入る。
「苛烈王の部隊がここへ迫ってきているだと? 何故、こんなに早くここへ来る?」
『情報封鎖はしていたが、魔導砲撃が始まって敗北に感づいたのだろう。退却路が抑えられた事も気付いたはずだ。今後を思えば、奴は逃がしたくない。援軍を急いで送るから足止めをしてくれ!』
通信が終わると、隊長は状況と激励を隊員に伝えた。怯える者もいたが、これが王国の未来を決める決戦と覚悟を決めて武器を握りしめる。急いで防御陣地が建てられ、罠が張り巡らされた。
「来たな――魔導砲、撃て!」
一帯に響く轟音を立て、敵兵の悲鳴が聞こえる。だが、目がくらむほどの一瞬の光が満ちると、数個の砲弾が弾けて鋭い破片が降り注ぐ。何が起きたのか誰も理解できない状況の中、苛烈王の部隊が防御陣地へ突撃をする。
「ここを突破すれば、国へ帰れるぞ。全員、倒せ!」
剣を振り下ろし、叫ぶのは苛烈王。顔へ斜めに走る傷跡は、激戦を乗り越えて来た証明だ。苛烈王から放たれた雷撃が、味方を焦がす。獰猛な剣捌きに、強力な魔法。この圧倒的な強さによる恐怖で国を征服し、支配して来た。王国軍の兵士は次々と倒れ恐怖した。あの化け物に誰が勝てると叫び怯える。だが、そんな王国軍兵士の間を縫うように風が走った。
「――苛烈王!」
戦場に響き渡る叫び。ユリウスの、渾身の一撃を剣で受け止めた苛烈王は冷や汗を流した。本能が危険を察知して防げたのだ。
「純白の鎧に、突風の如き速さ――純白騎士ユリウスか!」
「そうだ。かつて、お前に故郷を焼かれ、お前の軍に家族を奪われた男。そして今、僕の大切な人達が暮らす国を脅かす、お前を倒す男の名だ!」
ユリウスは風をまとい苛烈王に襲い掛かる。しかし、苛烈王は目に見えない速さと強力な熱が特徴の雷魔法の使い手。ユリウスの速さを上回る。
初めて、自身より速い存在を知ったユリウスは動揺する。寸前の所で剣を避けるが、髪の先が焦げた。
「速さに驚いたか? 所詮は、小さき世界で生きて来た小僧よ。確かに強いが、世界を見ればお前程度いくらでもおるわ。そして、そいつらを屠って来たのが、ワシだ!」
迸る稲妻。空気が割れたかのような音。瞬きが許されない一瞬。苛烈王は純白の鎧に傷を付けた。しかし、二人はそれぞれの理由で驚いた。ユリウスは今まで感じた事の無い、苛烈王の強さに。苛烈王は、ユリウスを袈裟斬りするつもりで振るった剣が、鎧に傷を付けた程度だった事に。
接近戦では不利と判断した二人は魔法の撃ち合いを始める。ユリウスの滅びの風と、苛烈王の光線。強大な魔力が込められた二つの魔法は、鍔迫り合いを始めた。体から魔力が抜けていく感覚に汗が噴き出る。魔力が尽きた時、自分は死んでしまう。
一進一退から、徐々に苛烈王が優勢へと進む。
「いくら強いと言っても、まだまだ若いな。魔力の練り上げが未熟だ!」
ユリウスの苦悶の表情を見て、苛烈王は一気に勝負に出る。光線の勢いは増す。
(父様、何も言わずに家出してごめんなさい。たくさん、ありがとうって言いたかったのに)
迫って来る白い光線を目の前に、トラビィオと過ごした日々が思考に通り過ぎて行く。死を覚悟して心は挫けた。
『諦めないで! まだ、諦めちゃダメだ!』
突然、側から声が聞こえた。ユリウスに周りを見る余裕はないが、その存在は近くに感じる。段々と温かくなる体から、声は鎧から聞こえていると気付いた。
『この妖精の鎧に込められた、君のお父さんの願いを叶えよう。僕が守るから魔法を切るんだ。そして、君が持つ魔法剣の力を目覚めさせよう。さぁ、今だ!』
ユリウスはトラビィオの願いと言う言葉を信じて、自分の魔法を止めた。苛烈王は勝利の笑みを浮かべる。ユリウスは眩い光に包まれた。
「……何だと?」
しかし、光線はユリウスを焼き尽くさない。苛烈王は淡く輝く純白の鎧に気付き、もう一度、魔法を放とうとする。
「父様、守ってくれてありがとう――剣よ、かの者の魔を払え!」
トラビィオへの感謝と、頭に思い浮かんだ動きへ従うように、トラビィオから貰った剣を苛烈王へ突き出す。剣は輝き、剣先から吹き出した風は苛烈王の魔法と魔力を消した。突然の魔力喪失に戸惑う苛烈王へ、ユリウスは風に乗り、目にも留まらない速さで迫る。
「終わりだ――苛烈王!」
遂に、苛烈王は地に伏せた。そして、王国の勝利が決まった。
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