悪徳商人、感傷に耽る
トラビィオ商会の宝物庫。そこへ山のように積まれた金銀財宝の中を、トラビィオは平泳ぎしていた。
「財宝浴は堪らんな!」
ジャラジャラと崩れ落ちる金貨の音、魅惑的な輝きを見せなが転がる宝石。鈍い音と煌びやかな見た目に体を埋めるのは、トラビィオにとって最高の癒しとなる。
「闘技場が塵になった時は泣きそうになったが、賭けで手に入れた鉱山を売って何とかしのげた……あれは、肝が冷えたわい」
そんな肝を冷やしたトラビィオが上機嫌な理由。それは、剣闘士【疾風のユリウス】がもたらした宣伝効果だ。先の戦争で、戦地に放棄された自国や敵国の武具などを回収して、加工し直して商品に変えた。それをユリウスに持たせて戦わせた。
「一度戦争が起きれば、しばらくは休養期間に入る。戦争特需が生まれないなら、別の需要を起こさせれば良い。王国軍の、正規装備に採用されてしまえば良いのだ!」
戦後の王国軍は、兵士だけではなく物資も不足していた。特に装備の劣化が激しい。そんな中、ユリウスの戦いぶりで、装備の良質さを示す事が出来た。トラビィオは王国軍の御用達商人となり、軍需物資の面で独占契約を結ぶ。王国の五指に数えられる大商人となる。
「むふふ。この宝物庫から財産が溢れる日も遠くはないじゃろうて……」
懐の革袋から一枚の金貨を取り出して見つめる。感慨に耽りながら、人生を振り返った。近隣の暴君に故郷を追われる前のトラビィオは、両親の経営する道具屋の跡取りとして仕事に励んでいた。村で錬金術を学べば薬草を薬に変え、相場を学べば他所の村との交易を行う。そんな努力の結果、初めて金貨を稼いだ。それを今も大切に持っている。穏やかに過ぎていく田舎の道具屋としての人生は、暴君の襲来で変わった。
逃れた先である王国で知識や経験を活かし商売を始める。順風満帆に進む商人としての人生は、またもや挫かれる。儲ける者に対する嫉妬や妬みは社会の闇を呼び寄せ、真面目に生きて来たトラヴィオを苦しめた。やがて、善良さでは生きていけないと悟り、社会の闇側に行った。
「真っ当に商売などしていてわ、これほどの財は手に入らなかった。やはり、悪事こそ儲けの秘訣よ。ワッハッハッ!」
宝物庫にこだまする笑い声は、トラビィオの脳裏に浮かんだ、無邪気な笑顔を向ける青年の姿と、わずかに感じた胸の痛みを掻き消した。
数か月後、店の倉庫からは次々と武具が運び出される。同時に、引き取りに来た軍部の使者は、金貨で膨れ上がった袋をたくさん従業員へ渡した。しばらくの平和も虚しく、新たな戦争が起きたのだ。
「王国軍の再建前に、戦争をしてくるとはな。誰か商人が関わっているのか?」
「今回は商人ではなく、苛烈王が指導したと報告を受けています」
執務室でジーオルの報告を聞き、トラビィオは眉を寄せる。暴虐な圧政を行う苛烈王は残虐さも有名だった。すでに国境は突破され、周囲の村や町を焼き滅ぼしている。
「王都も、大混乱だな……」
外を見れば、苛烈王が迫って来ると知った民衆が、逃げ出す準備で走っていた。
「あの、旦那様。大丈夫ですか?」
ジーオルの心配気な尋ねに笑顔で返す。彼は店が大丈夫なのか知りたいのではなく、トラビィオの故郷を滅ぼした苛烈王の話を聞いて大丈夫なのか心配したのだ。そう。トラビィオの故郷を襲った暴君とは苛烈王の事である。
「数十年も前の昔話だ。暮らした町の名前もとっくに忘れたわ!」
大笑いをしながら、トラビィオは懐の一枚の金貨を握った。
今後の計画をジーオルと相談していると、執務室のドアが勢いよく開かれる。息を切らしながらユリウスがやって来た。
「おぉ、ユリウス。丁度良い所に来た。戦争前の国威発揚にと、闘技場で御前試合が開かれる。お前も――」
「父様。僕、義勇軍に行きたいです!」
「……は?」
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