42
「あぁ……、わるぃあァ……、俺の方が加島よりも強いんダぁ、舐めるなよぉぉ――」
頭を抑えてる、まだ耳がおかしい。ただ発汗が変わっていた、目の色が変わるって事だろうな。足元では耳から裂かれて頬へと切られた弓使いくんがナ、苦しみながらSOSを出すんだ。俺はウデを回しながらゆっくりと。
「五月蠅いっえ~、あえぇ……、くそ、面倒だなァ――」「おぅ……、へ、へへ。素人が、何人いても――」
だがその様子が変わってる、明らかに警戒の目だよ。息を荒く吐き……。
「オッサン……、俺は人を殺したことがあるんだぜ、フヒヒヒ――、作戦ミスだよぉ、俺の剣術を舐めるんじゃねぇヨぉ――」
その時火を取り出すんだ、火の剣と呼ばれる物を発動。
それは上段の構えで、そこからのすぐの一撃。言い訳もいらん、話も聞かん。剣道上段ならば先手を取れるし何より左手だけで一本取りにいける。
痛む腕を必死に我慢しながらも一閃!
「ぐぃい!? コイツ、半端じゃねぇな――」
「小手、コテ、コテぇええ!」
そして執拗なるコテ打ち、指が砕け落ち、とてもじゃないが握ってられないまでだ。打つ、打つ、打ち据える。ただ予想外か、もう一人が突っ込もうとしてくるが、その殺気に明らかに腰が引けているし。
オラ来い、そう挑発するとやっぱり突っ込んでくるな、フヒヒヒ。
ひょっとな、オレは柄の方を先端にして「がふぅう!?」鎧の隙間を、顔面をえぐる一撃を、あメぇよクソが。
そこから異様なまでの剣戟に舌打ちしてるけども、何せ近接をここまで得意としているなんて思わなかったからだ。久しぶりに打ち込むその対人の剣は――。
「なんだコイツの、なんだ……っ。相当慣れてやがる、何人粉みじんにしてきたよォ―――」
だって上段の構えは見た事がないはずだな? 剣道が存在しないから。構えたらほとんどガラ空きの体に、それでいてその滅茶苦茶長い射程はな。得られるのは射程と速度だけで。その割にニンゲンの喉や足が、腹が、全てが無防備。イラつくだろうな、だからまた防具を頼み顔も抑えて突進で――。
「そういう奴は馬鹿なんだよぉ!」
あり得ないほど柔らかい手首で、クビの横からすべるようにメンを入れ、その頭が歪むほど押し込んでやる。完全なコントロールに。
「スゴイ――」目を見張る。自分なんかよりも遥かに習熟してる、そうして磨き抜かれた一本への道標。彼の動きは確かにあの構呂木 雫を彷彿とさせるものであり、そうしてそれと対となった全く違う動きで、私。
「ヴァーカ、お前も挟まれてんだよ、おぃ後ろだお前ぇ!」
「うらぁあ! 勇、行けえ、やっちまえよぉ!」「ちぃ!? コイツ卑怯だぞぉ――!?」
言い訳なぞ聞かず、そのまま柄でしばいて取れかけの鼻をえぐってやった。
あっという間に消えてしまった仲間、たった一人残って劣勢になり。
「加島! 一人は討ち取れヨ、今で慣れておけ!」はぁ……、はぁ……、「はい……っ、デやぁあ! 私も、アナタ達には容赦はしないです、かかってきなさい!」
その男へと斬りかかる加島は、モンスター以外との戦闘も大事である。特に超絶劣勢で、相手が堅くて一撃死を撃って来るヤツへは対処法を考えるべき。
俺が、その見本がやったように外から何度も入れて上手にコントロールを試みるから。
「もっと下から揺らせ、もっとだ! あと手元は必ず前に突き出すんだよコイツら、ならそこを狙えよ、足は常に動かし続けろ!」
一撃当たれば良いさ、それで逆転がいつでもできる。そう認識した甘えこそが足を止めるんだぜ、そこに左右の揺らしで、そうして崩しでの面倒な外打ちを。
外打ち外打ち、内を狙うとみせかけての……!
「ぎゃひ!? ちぃい!? 足かよ……クソ……、クソがぁ! もう知ったこっちゃねえんだよっ、死ねぇえ!」
突っ込み癖が出てしまうな、そこを胴を射貫く、剣道みたいに受け流してから抜かなくて良いのでラクショウ。相手の軸をずらす強打でコッチは横へと抜けると同時、後頭部狙いの一撃!
そうしてその男を転がして……!
「あぁ、ウゥ、ハァ……ハァ……悪かったよ、悪かった――」「そ、そうだ……。もうひない、分かった……何もひないんだァあ!」
命惜しさに苦笑いして引きつり怯え、荷物を捨てたんだ。口を裂かれて血みどろの男含めて、すぐに逃げていこうと「オィ、ちょっと待てよぉ……っ。もうちょっと謝罪ってもんがあるだろうに」足へと直撃の【ショック】。無詠唱は逃さない、奴らを牛耳る。でも、やっぱり凄いんだなって、そういうイメージ。学校なんかでも必死に詠唱してたから気になってた、召喚はどうやらそこをカットできるらしい。
「じゃあお前ら、その防具を頂こうか?」
「ひぃい!?」「そうだよなぁ? おかしいと思ったわ、俺っちもそう思うぜ」「頼む……。それじゃ俺らが生きていけねえよぉ」「奇遇だな? 俺らも実は飢え死にしそうな仲間がいてさ、看破して欲しいんよ……」
そうだよな? 学校の奴らは無理だろう、向こうは50人の部隊がやってる、だから女子に手出しする事もできないが……。
そうして全ての装備を放り出させるのだ、武器も当然だがアイテムも全部。結構魔石が多いし何より「これだ、武器屋にあったな……これ、魔石を加工した物――栄光――グレイスなんだ」
この世界にはグレイスが、要はマテリアみたいなのがあって効果を発揮してくる。魔法を打ち消したのはコイツだな? 泣きながら虫についばまれて逃げて行くのを見送りながら。
【随に消ゆるグレイス(小~極小)】を手に入れた。
「よっしよっしぃ、じゃあ鎧が手に入ったようだな……。これで少しは防御力が期待できるぞ、どうだ加島に和樹も」
「はい、やっとですね勇さんっ。なんとかこれで……、えぇ、 なんとかこれなら」ウ――。ただし臭い。長年使われてきたお下がりなので結構辛い、一時中断で川で流しても取れない臭いで。
ただ皮の装備と少々のグレイスが手に入ったので上々だよ、何よりやっと駆け出し勇者のパーティーらしくなったか。
「皮の鎧ってまぁ、こんなんなんだなぁ。マジものすっげぇわ……、な~んか夢みたいだわ~~」
「確かに皮だと思って舐めてたな。もし服屋で買ったら多分……これ、50万は下らないって思うなぁ? ふっといわ」「分かる分かるー、アメフトの防具よりつよつよって感じよ~」
いや~、テンション上がるな~、男達はおおはしゃぎ「ただ、まぁ、継ぎ目が邪魔で慣れないとか分厚くて熱いとか臭いとか、少々は我慢だがな……」「でもハゲないよなぁ?」
笑う。これで和樹と加島は少しは固くなった、俺も一応左手用の籠手と軽いのだけは手に入ったし。すると更に人影が湧いて来てしまい……。
「ニンゲン、ニンゲン、お前たち、カードをするナ?」「我らが長がカードがしたいと申し出ている、来い!」
「あぁ、スライムの次はゴブリンか、定番だな」フフフ。
だが疼く、うなずく。それらの要求に耳を傾ける。
「わ、我らのリーダーが会いたがっている。我らは女、その可愛ーぃメスが欲しいぃぃー」
その言葉に青筋を立てた。うん、定番過ぎたな、脂汗が噴き出して。
「はぁ……、はぁ……!? あの……、ええと。さ、さっきもそうですよ、私は勝てると信じてますよ、ハイ――」えぇ。えぇ。
「いや、今回はやめとこう、なんか大変な事になりそうだ」脂汗がしたたる加島にうなずく。
「でもでも、女の子以外はないのか~い、ゴブリンちゃんさ? やっぱ女だけが人生なのかよぉ、なーんか他を見つめようとかさ~思わんのぉ? 寂しいよぉ俺っちはぁ」
「そんな事はないっ、ワレらは万能、万能だぁ!」「だったらその男でも良いゾ、ソレにタネをつけよう。呪いも欲しいと言っていたァァ」
へ――――――
「い、いや男だが、俺は男ッ」「だからなんだ?」「オスぅう?」「オスぅ――!」
――異世界よ、あぁ異世界ヨ、異世界よ マジで言ってんのか、コレ。
「やりまショウ―――! 頑張りましょうよ、勇さん!」「このアマ……」「良かった……、悲惨な事にならないんだな!? おっし行こかぁ、ほならどんどん行こうっ」カードカードぉ~~。
非常に怖くなった、生命の危機よりなんなら怖いんだが?
お尻、お尻からどうやって……っ。
万能とは。




