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頬の油カスを拭いておっとり顔の。授業を2、3と続けていく。そして4時間目が終われば昼休みの時に「ねぇ勇、私ね……。私、何度でも良いんだよ、その手術の費用は私が出すから……」
そう言って、それでも彼が首を振るのが見えたの。その鏡に問いかける、そうして深く深くため息を漏らす。
何度望んでも彼が首を振るから。じゃあそれなら、もう戻らないのだろうか、彼のあの剣は、あの笑顔は。
「あなたは本当はどうしたい。諦めてない……私はでも……」
部活をしながらも秘密でアルバイトを始めて。1回では無理と言われてる、全部やっても戻らないそう。でも意味はあるから、全てを貯め切るまでは絶対に私は屈しない、いつかきっと……。
「その剣に残った物は何よ。復讐でもなんでも良いんだよ、ねぇ……勇……――」
そうして私はトイレから出て。でも見えた顔にはそっぽを向くから、最近は本当に距離が近くて。意気地なし……。すれ違う、だけどこの頃はこらえきれず。
「ねぇ……ゅ……――。あの子って何がしたいのかな……。手術しないのならね、他人になんて言わないで、諦めてよ――」
「あぁ……、うん。悪い、邪魔はする気はないから」
――。
―――――――――。
昔は、同じところにいれた。
どんな喧嘩も剣道があれば。
今の俺の腕はアレから4割程度の力しか出ていない。痛みは残り、そうしているべき場所は別たれた。竹刀の感覚はもうだいぶ前の事……俺はもう分からないんだ。
でもきっとその彼女は今日も忙しいだろう、その手指のマメは日々を重ねながら気迫を増していて、自分が口を出す場面はもうなくて。順風満帆。傷のない姿を見て思う。
それを問うべきかすら分からぬまま、2人別れてもう。
「ねぇ……」―――――「ねぇあのね、もし1度でも私達が付き合ってれば、こんな変な事にならなくて済んだのかな……」
「お、俺はそんなの望んでないんだっ……そんなのいらねぇってっ!」
その大声にとっさに抑えるから、でも「べ、別にな……1度とか……っ、見返りとか、そんなの望んでる訳じゃない、俺の剣は良い、気にすんなよコウロ……」いや雫――。
その言葉に雫がいたたまれない顔をする。だけど俺はもう何も持ち合わせてはいない、その2年11組、勉強だけを頑張る所存のオレの航路を、特進クラスが揺れるのを見やる。
やっぱり別れるしかないから、同じ船でも違う目標の先、どこまで行っても一人。
ねぇ……、でも私は結構考えてるよ勇、あの日、あの時からを。
アレが来た時は、それは突然大きな物に横から来られてた。倒れて来たのに押し倒された後はもう、ひたすらに熱かったよ。
すぐに背中が濡れ始めて突き刺さる痛みに震えてて、でも、だけども痛みはもう少し我慢できたのではないかってその傷に、いや……、無理だ。アノ焼けるようなのが一瞬で背中に入り、体をくねってもくねっても熱い。
痛い、ヒトの奥まで痛いから。引きつりそうな程に弓なりになってて、かがみ込みたいけど逸らさないと命の危機を感じる、重くて苦しくて、息ができなくて。
自分の事を悔やみきれなかった、まさか……、こんな事になるなんて。音、その遠ざかる背中はただただ寂しかったな、その感情は今も。
その残滓を今も視る、その手は彼との―――。
「あぁ……、あんなの行かなきゃ良かったよな……」
「私達はなぜ、あんな仏か神かなんて、下らないのになんで……」
そして夕日が沈む。1人で下駄箱へ。
その美しい黒は残滓も残さず消えて行くから、俺は靴を用意して落とし、だがその時だった。
「オィ、近づくんじゃねえよ、俺の雫によぉ――」
大柄で人1倍の喧嘩魂を持ちながらも、その大きな体躯と存在感をも消しているという、少し相反する所作の。肩を強引に掴み睨んで来る男。それは眼光鋭く誰よりも殺気立っており苛立ち続ける。
木祖田 ゼント(ぎそだ ぜんと)。
「木祖田、お前は……、そんなにアイツが気に入ったかよ、でもお前じゃ無理だと思うがな……。何せお前は苦手な部類だよ、むしろ隣の」「何言ってんだ、ちげーよ、ヘヘヘ――。俺は強い奴が好きだ、それは男でも女でも良いんだぜ。お前ももし全盛期並みに強かったらなぁ、むしろ好都合だぜぇ。それと戦えるならなんでもする、なんならキスして良いぜ。雫なんてどうでも良い」
その静かの眼に異様に怖くなる、ウソなんて言ってない、コイツはただソレだけしか考えてないと。眼の奥であの剣聖に本気で血を見ている、おぞましくて手が震えた。だから俺はその扉を。
「で、でも女だろう……、勝ち負けとかそんなの気にする事か、手も足も出ないさ――」
「ふん……、まぁなァ―――。そう……、そうなんだよ。でも強いだけで十分だよ、とにもかくにも俺は雫を強くすんだわ。その時にいっちばんいらねぇのはお前だ……っ」
その言葉に目を逸らす、だってあんまり分からないのだ、俺はもう、彼女を知らない。いらないのかさえ分からないから、むしろお前は知ってるのかという。するとその握力が際限なく、狂犬の怒りが上昇する、為す事もかける言葉もなく俺は。
「この頃アイツの剣が鈍ってるよ、せっかく色々戦いが始まってもっと燃えるかと思ったのに。どうやっててもな……やっぱお前は最高の才能を弱くする……、近づくな、学校を変えちまえよっ……!」
ただ、その言葉と共に微笑むから。オレを放し、もしオマエが手術して最高になったら教えろよ~、その時は土下座してでも戦おうぜ――。
スゴイ力だったな、明らかに場違いだ。アレがあいつの本気だとして、なぜ雫は近くにおいて――。あぁいや。
しかし空気が戻ったな。鼻を鳴らすんだ、剣道でもこんなに間合いを気にしたのは滅多といない。更に後ろから気配。
「あぁ、勇さん……? 勇さん奇遇です、どうかしましたか?」「あぁうん、お前か。加島……」
その竹刀を抱く少女の登場にうなずく。引っかき回される結果を作った少女だ、その加島 虹炉が。
ただただ彼女は突然やってきたんだ、しかも彼女は何故か剣道部員ではないのだから。
靴箱を開けて笑顔で「あぁ、あのぉ……、それで。もし良ければ一緒に帰りませんか。それで弟子入りについてもお話しましょう、是非是非!」「あぁ……、うん」弟子入りなぁ……。
それでも本気らしいこともな。
彼女と出会って初めて言われた言葉は今もオレの心に疼いてる。
でも周りの目が気になるんだ、なんせ彼女が弟子入り志願しているのは公然となっており。こんな年頃の女子が、しかも顔立ち良く胸のすこぶるデカい――。




