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「わぁ~……、見て下さい勇さん、これ可愛いですねぇこのストラップぅ、ねぇ」どうでしょう勇さん。フフフ。
翻るスカート。地味だが何気に彩りある彼女は。
アメーバめいたそれは可愛いのだろうか、男にはよくわからない姿だ。楽しそうに見てる姿にあまり返せず、あんまり二人っきりもなんかなって。駅前の商店が並ぶ場所、田舎なので大した事無く。電車の音が時折聞こえる木々の隙間を。
「なぁ……、あの、加島。なんでそんな剣道なんてしようと思ったんだ。別に他の競技で良かったんじゃないのか、お前ならまぁまぁやれるよ」
話を持ち込まれた時に渋々ながらも一度は見ていたその実力、反射神経は悪くない。ただ剣の質感は正直……だったし「あんなものは正直疲れるだけだ。全身防具被ってるから見てても全部同じだし、世界とかもないんだ。ひっそりと日本でだけって感じの競技なのに、なぁ、これって笑っちまうが相撲よりも注目されないんだぜ?」
「あぁ、あの……、それは確かにそうですけど、私、ご迷惑をおかけしているのは知ってます。だけどでもアナタがもう決めねばならない刻だと思うんですよ」
その言葉に、その真剣な目に一瞬たじろぐ、時折あるんだよこの少女は「ゼッタイゼッタイ……腐らすべきじゃないと。そうしてどんなものが犠牲になっても私ならやります、私はやれるから」
情熱だけが――。それは……。時が過ぎゆく事で、この頃体力も落ちて来ていると実感し始めていた頃合い。
剣はもう何年も握っていない、でもどうしてもなのだ「どう見てもな……」あの慟哭するような剣には劣る、それが振り払えない。その表情を見ても少女は真剣な。
「私が見た中でアナタが本当の一番でしたよ……。アナタなんです。あの日見た光景が忘れられない、あの剣のしなやかさ、そうして声が……叫びが、そのまま全てが、人生が力になるって感触。それは正に剣聖であって美しくて迷いがなく」
一撃。それは、その姿は小学生であることを忘れた、あまりに強い剣への姿勢、そうして誰も寄せ付けない強さと孤高、しかも彼にはその持ち合わせた黄金の才をも超える探求心が見えて。オーラが来た。
「でもだけどたった数年、まさか知りませんでしたよ、アナタの腕がこんな……――。そうしてあの輝きにはもう暗雲が差してたなんて……、一体どうして」
まるで自分事のように体を震わせ悔し気な顔で唇を噛む。
中学に入ってから知ったその現実を。早くしなければならない、必ず彼を自分がもう一度。
その竹刀を強く抱くから「だったら私が継ぎたいんです、アナタの全てを……っ。どうかお願いします、私の運命なんです、貴方を継ぎますからっ。そうしてあの構呂木 雫を超えたいんだ、ゼッタイゼッタイ超えなきゃなんだって……っ」
深く刺さるから。理解するような瞳に、俺の中にある戸惑いを全て全て。
でもだけど踏み出せない。あの太陽はもう沈まない、俺の夕日はきっとこのまま闇に変わり。首を振った。
「勇さん、いいえ師匠、お願いします、この私の2年では足りませんかっ……!?」
「2年、か」眉根を深く寄せる、長いようで短いそれは。俺は5歳から剣道を始めて6年もをかけて、そうしていま5年間を棒に振った。
だが踏み出せれば、もしかしたら。知ってるさ、最初が弱い事くらい。真摯な瞳を見やる、あのひは戻らなくても「……――」その難しそうな顔をみて、幼い彼女はふっと……笑うのだ、不思議な感覚のする妖精のような。
「でもどうあってもですね、その2年間はきっと、楽しくなれますよ……」
妙に大人っぽくて驚く、夕日に染まる街並みは彼女の頬を染めた。
「だって私はですね……、私、ずっとアナタの剣を信じていきますから、私は貴方の剣となる――」
アナタはずっと戦える。
その言葉に、その視線に戸惑うしかない。自分は信じられるだろうか、この先彼女のホドを見守れるだろうか。
二人で歩いて駅で別れるまで俺は、彼女が抱いた竹刀を見ていた、その一歩を待つだけの彼女を俺。
「だって私は……、アナタと少しでも一緒にいなければならない、もう時間が――」
「ふぅ………。ただいま……」
19時。そのマンションのドアを開ける。今日はいやに疲れた、もう自主練は良いかも。さっさとお風呂に入って横になりたい。
その夜っぽい気迫でせまる春の夕暮れもそうだけど、仲間との付き合い、油物が効いている。
「あら、おかえりぃ~~、どうしたの~雫ぅ? なんかいつもより疲れてるぅ?」「あぁ……、うん。少し練習大変だったから」目ざといな、さすがかな。少し不機嫌になりながらも流す私は。
「えぇ? あんまり無理せずに頑張るのよ、何せ貰ったものだもの~。雫は頑張って来たしぃ、大事にね?」
貰ったもの……。
何を貰ったんだろうか、その境はあの日から分からなくなった。
「あぁ……返信早い――」そのとき光った画面、嬉しい、ただそれだけで。母を前にしてもそのメッセージに集中する、おざなりな言葉を残して自室へ。
私は誰かの為、とりわけ彼の為に、その失った大きさの為に力を尽くした。誰よりも強くなる事を望む。
そうして中学の大会では1年にして優勝し、いの一番に彼に微笑んだつもりだった。
でもその無の表情を見て……、分からなくなった。少しずつ感じていた、もう遊ぶこともなくなっていったし。そうして自分では辞められないキツイ練習はちょうど良かったのかもしれない。前より遥かに身が入っていると言われて、自分らしさを求めていると。それが才能の開花なんだって。
「意味は、あった……――」
ドアを開け、なんとなく汚いけれどベッドへと転がってしまう。
いつでも彼女たちは私を優先してくれるし優しいし、彼は嫌いなのだろうけど、それは……。
それは………。
「 」寝返りを打つ。
誰かが嫌いにしてくれてた方が、良いのかもしれない。
一度ももう来ない二人に唇を噛んだ。流れていく。
時間が、2人が。
俺はコウロと別れ一人考える、歩いて行く。
手術しても8割が限界だと聞いた。その時の気持ちは全て白紙。
俺は……。
俺は英雄になりたかった。女子なんて弱いだろう、見下して何が悪いんだよ、もっともっと強くなるんだ――。
アイツはもうすぐ女子へ行くんだ、女子剣道なんていう弱い場所へ。だから走って行くんだぞ、この先へ一人でも。この先はもう振り返らずにもっと強い奴らと俺は……。
「一人でも……――。そうだよな」
そのまま一人ではケリをつけられぬ思いを抱いて、玄関の引き戸へと手をかける。
―――――――――ン?
「なんだ……、なんだろうか、何かが違う」
見上げた石段の先にある神社、震えた。なんとなくだが何かが違っていたんだ「あらぁ~、勇。おかえりなさいねぇ。すぐ開けるわ、少し待っててぇ」
カギを探してる母親が全く変わりない。見直したらもう収まっている気がするけど、だけど……、うん。いやまぁ学校であんな事があったからか。
首をかしげながらも待ってて、ふとその向こう側が。見えるその森はもう厳重と言うか既に封印である、あの水自体が禁則地になりつつあった。
外の人間の、しかも血で汚してしまった以上は色々としこりができていて。もう打ち捨てられる、こんなしょうがなさを。何代も何代も続いたその地と、家だって神職でさえ難しさがあるこんな状態では。
この神社は好きな方だったが――。
「なぁ……、ねぇ、他のアテはあるの」「ないわよ――」
頭をかく。多分色々と狂ったろう、表面的には頑張らねばならない。そのさざ波は――「アンタもう良いじゃないの、勉強の方に振れば良いのよぉ」「うん――」勉強はします、そう言って。
無口の親父は良いけど母さんは仕方なさげ。俺はそのまま目の前にある無人の剣道場を横切って部屋へと入っておく。勉強道具を広げた。
「そうだよな、そうだ」錆びれていく、ただただ……。




