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「さぁ、どうです? この威風堂々たる姿。ここがアナタが通う場所であり、そうして王のお膝元、カインブラ」
森の木々が置いてかれている、その車の揺れを抑えながらも外へと向けてほほ肉が風で広がり「世界に冠たる大帝国を治めており、ラートヤード皇国の王であり、また、アナタの引き受け人となってもらえる男の学び舎ですよォ!」
とてもとても優秀で、そうして自分には現実味のないその馬が辿った道は遠く、険しく。そうしてそこで迎えたのは大きな建物だった。
夕暮れの空。
全寮制で最大級というが、まぁ町かしら……。城塞とも言える程に大きな建物は言うなれば学校というよりかは収容所というべき。むしろ貴族用というには質素で。
目を引く大きな時計塔は何か妙に近代的で機械仕掛け。広がるグラウンドは見果てぬほど広大であり、そこには選ばれし者だけが門をくぐれる、そういうレリックがあるらしい。全体的に茶色っぽい出で立ちなので大学にも見えるかもって思う。
そうして出迎える者達の姿はいかにも中世貴族であり、この国では最も優秀である教師だというし。馬車から降りるその私を――王の客人で勇者を見ている、笑顔で。
良かったな、小娘よ、「世界でこれ程幸せな事はないんだよネェ、異世界なんてものから召喚されて良かった良かったぁ~――」ふふふ。
開口一番、出迎えた優男は目を細め。妙にその筋肉のあるサスペンダー、私はなるだけ顔色を変えず。それが校内へと案内を申し出るから。
イヤな雰囲気。
それで付けてくれた――潜入なのかなって、何人かの山塔生徒で歩いていけばすぐに見えるのがシワクチャ。それは自画像だったから、恐らくはアレが王だろう。齢は恐らく60歳前後だろうか。立つのも難しそうな姿で剣を持ち。
「絵でこれなら……」
恐らくはかなり厳しいだろう。激しい動機がする。
「そうです、アナタはあの剣となるのですよー、光栄でしょう? 名はヴァイダリッチ・ヨハベ・ラートマン。ラート王さまですネェ。世界では誰もが知る有名な剣の名手だったのだ、いや今もそうだぞ、その燦然と輝くはぁ――」
ほんの数日前……、たった3日前までこの心を砕いていたのは幼馴染の事。無二の親友としてか、それとも……。それは苦しいけれど、何か妙にほろ苦くて。
心臓を締め付けていて、でも今は軋むから、それがまだまだ遊びだったと知る無力。
「あの、すいませーん。なんか……でも、思ってたより継ぎ接ぎ多くないですか。学校のカーペットとかがすごい適当なの」「あぁそりゃネェ、当然? これは当校の生徒の物だからねぇ――」
そのサスペンダー筋肉の癖に、妙にカオだけが細く優男なサスペンダーが笑う。金髪センター分けをなびかせて妙にシロメ見切れる笑顔を上げて。
どうやら話を聞くにこれは全部モンスターなのだそうで、確かに王都を守る為のダンジョン警備も兼ねているとは聞いたけれど。長い旅路でもう腐るほど聞かされてて、ただ、思った以上にそこは。
「だってこれからこの街を防衛しながら腕を磨いてネェ。大変だぞ……、くくく。実戦形式だし死傷者も普通に出ますから」
それらは部屋にはもちろん道にも小物が異様に多いの、石像や彫像はもあるけどもモンスターのはく製が至る所にあり。色んな……。
「これ本気で全部……、生徒が狩ったんですか?」
「えぇ、飾られる栄誉はその中でも優秀な物のみだが。そうして全ての武器や防具、または解体の仕方まで覚えなければならないんだネェ、これもその一環さ。貴族として最も大変な時期ともいわれてる程だネェ。じゃあだ、まずはね……、キミ達はそうだぁ」
じゃらら、っとクサリの連なった音がし「キミ達は今ココで跪いてもらうかなぁ、そうして全員の前でこの首輪をつけなさいねぇ……」
それを取り出したると共に顔を歪める雫たち。何せ生徒たちが集まるのだ、方々から、それは正に監視する為に。
ざっざっざっざと無数に四方八方から――「さぁ身も心も王に仕え給えようネェ、そうして善行を為すという姿を見届けましょうか、これはあの王に与えられる栄誉であるともさぁ――」
彼は堂々と私の顔を肖像画へ向かせてきて、下賤なカオを。そうして周りの眼はそれは……そうだ、あのジジイに捧げられていくのを、そうしてその勇気が分配されるという、勇者のブレイブのおこぼれを永遠に受けられる。
だけどもね……幼いのは、それよりも今から振る舞われる物を楽しみにする。
「では、花嫁修業の始まりだネェッ? 今から彼女は王と結婚するんですよ刮目して見よ! それは委ねるのだよ、身も心も、誰がどー見てもこの勇たるは王の為だという! そうしてソレは貴族を守るんだぞ、しかしてそれは民にも振る舞われるっ、これも王の采配であるぞっ! あぁ……なんと美しい心根を以て、王はカノジョを分配下さる予定で――」
その言葉に唇を噛み震えるの。
同じ学校の者達も苦々しい顔で、だってあのギアスは本当は結婚までが規定された、そういうものだったから。
今正に全てを捧げさせられる。女として、剣として。女子高生は。
「さぁっ……では必ず、民を救う優しさと勇気を見せろよ、外敵から守るという正義の意思を示せ、見よ、これは勇者である、王だけの剣であるゾ! これは間違いなく我らを救いに来たんだぞッッ!」
石造りの世界で響く声が。全員の前で所有物とされるのだ、ブレイブ。その正しき救済の始まりを告げる儀式。
婚姻たるギアスが掲げられる、拍手だ、拍手が湧き上がる。
勇…………。
繋がれるクサリが。彼らには弾けんばかりの祝福が、今平和がもたらされようとしている。
その首輪が儀式を一段階上げて「あぁ見なさい……、しっかりと。おこがましさを捨てたのです。異世界などという、そんな者が……それが我らを救ってやる等という、そんな薄汚い物から生まれ変わったッ! では挫けてはならぬぞぉォ……振り返ってはならぬぅっ。王が、我々貴族がッ、そうして何より神々の使徒がそうしたんだ、そうした――ッ」
何よりも響く鐘、響く。
召喚によりこの世界は満たされる、この秩序はまた永らえるだろう。王と貴族と宗教者とその他は同じである、維持される、民もずっとひざまずく、平和が続く。
「フゥ……フゥ……」助けて、誰か――。
それを喜んで受けねばならない。黒髪は平服させられる、あの男へと、未来の旦那様へと。
悔しいのは、世界を知らず政治を知らず、自分の道をも知らず。だが鎖を受けて、そして……繋がれたのだ。
「よろしいッッ!」「勇者ーー、行けーー!」「勇者ヨ、勇者たれー!」「我々を守るチカラたれよ、コウロ・ギー・しずぅく!」拍手万雷、神のイカヅチ鳴り響く。
「ではでは貞淑に、静粛に!」
すると何かが運ばれて来るから、何かは分からないけれど全員の空気が。この……嫌な感じが、ジリッと指先を焼いた。そのサスペンダー筋肉が白目を剥いて優しく、手を伸ばし。
「そうして慎ましく、王の元へと。何せアナタは勇者で妻であり、アナタは今からこの国へと捧げられ」
ビジジ――ッ! その瞬間に強い電流が流れるのだ、意識が……飛んで。
次の静かな目覚めは部屋だった。そうして張られていたのは『貞淑さを忘れるなかれ、今回は合格だが、もし背けばあの者達を処分する』。
雫は、自分の体を触れる、まさか―――。悔しさに唇を噛む、泣き崩れ、迎えに来た少女に必死で抱かれて……。
「それでぇ~? 何故かネェ? ボクの授業でそんな気品のない服装をどうして」
「いえ……、それは」
そのサスペンダーを見やる、涼しいカオで見下げているが、どうにもイヤラシイ顔つきだ。クラスメイトも何かやはり――「ですけれど……、申し訳ないけど私はまだあの学園の人間ですので。私は今も山塔よ……、山塔学園2年11組なの」
私が持ちこめたのは少なくて、まだ臭いが残ってるもの。
その袖へと隠すように縮まった。
それにどう見ても相手の方が粗末で、見ている限りウール100%だけれどすごく発色が悪い。でも笑っている生徒たちは、異物を見る目で。
「どうでも良いどうでも良い……っ、すぐにネェ、着替えて来いよぉ」
「いえ……、だけども私の心は動かないです。だって必ずあの学園に還るから、それに契約の日は遠いハズですよね――」
「でもアナタは~……ぁ? 忘れてませんかねぇ? 私達へと身を捧げるために来たのですよ。デボータープリンセス(挺身姫)殿。良いですか……? あの者達の事などもう考える暇ありませんよぉ、アナタがどうあろうと知らないんだ、全部全部知らないんですネェ」
それが召喚でしょう?
「挺身です――、まずはアナタは染まりなさい。そうしてまずはこの国を統治する者を斉唱しなさいな、神に選ばれし王の名前を呼ぶのですネェ。何せ全ての生殺与奪の権利は彼らにあるのだから……民も勇者も全てがあの方のモノだ!」
「フゥ……フゥ……、下劣な……。私の正義にはない……、そんな言葉には乗りはしないわ。私の剣にそれはならないから―――」
だが無表情に見ているだけだ、何を考えているの、いえ恐らくそのまんまなのだろう。
そうして挺身だ。それは自ら望み、自ら進んで身を捧げる者とする、捧げさせてやるのだ。いつの間にかそういう蔑称がつけられていたの、早い物だという「また、されたいのか。訳が分からない。じゃあ誰か良からぬ虫に刺されたのかもしれないですからネェ~」
「ハァ……ハァ……!? うぐぅゥ……」
少しの電撃に怯える、その言葉に震え屈するしかないのか。それを間近に見せられては「わ、私はこの国を守り……、そうして王として民の統治に励みます。ですけど……、はぁ……はぁ……、この制服は脱がない、契約までは脱ぐ必要はない」
「ふぅぅ――。そうかぁい?」
――。
――――――――――。
「ま、とりあえずキミは精進しぃ、この世界を救うための力を手に入れる事だネェ、正に尽くすのだよ。挺身姫、倒れる事はならない、今も苦しんでいる民の為に ネ――ッ」クフフフ。
顔を上げて。それは見た事のない影で空が陰る、彼らはこれを普通としている。きっとこれも普通なのだ、勇者が世界を救えば世界は元通りになるから。
「ではコウロく~ん? さぁ身につけなさいネェ……、何より気品が必要なのは王の為。異世界などという猿であってはならない、キミは死ぬほどに強く、そして王たる者の従順な力であるべく振る舞うべし」
勇者は救わねばならない、転生・転移させられた場所の民を。勇者は王にかしづかねばならない、その世界に生きる為に、無用な争いを避けるのだ。振り返る事はならず。
「フゥ……フゥ……、ただでも、一つだけ聞きたいです……。世界の問題がその王ではないという確証は……それがその失策でないとい」
その瞬間に重いバツが下る――「ぐぅううウウ!?」
ギアスとともに電撃を発動され、動けなくなる雫。ヒク付き、苦しみ。終わらないのでは……、このままでは終わらない可能性が。
「勇者失格、デスねぇ――。この世界を救わない者など必要ないのだよ、だから」変えてやろう、存分にな。
降ってくる。
異世界の勇者なんて必要ない。
だがただ一つ、譲歩はできる。
譲歩しよう。
かの者がきちんと全ての生活感や常識、礼儀をまるで己の事として深く感激し、自分たちと同じ宗教を信じて同じ価値観を持ち、一目見たソレを共通の敵だと思い命をかけ続ける。
辛くとも、誰も恨まず泣き言も言わず、以前の世界と比べる事も無く批判もなくて、悪を打ち倒し、そうしてその功績をおごる事なく目の前から消える、もしくは最期は一人で死んでくれなければならない。
とてもとても常識的な事だ。この世界の政治を変える等とはもっての外だ、だってそうだろう。
だって……、異世界から勇者を呼ぶと、そう発表したらどうなる。
言葉を話せたとしてそれは普通に法を守るのか、普通の良識はあるのか、それが暴走したらどうなるのか、保証できるのか、誰が責任をもって監督するのか、そもそも強いという保証はあるのか、あと何より民主的なのか――。
市民という主権者に普通の概念を持ち、人を愛し誰も彼もを敬い謙虚で多大な要求をせず、普通でいられるのか。酒を飲んでも暴れないのか、妙な宗教は持ち込まないのか。例え命懸けの作戦とは言え、それでも住民の意見を存分に聞いて配慮し、弱者でも邪険に扱わないのか。暴言を吐かないか。
たった一人のジジババを救わせておいて作戦を駄目にしても、真摯に頭を下げれるか。市民の気持ちを傷つけないだろうか。
そんな事を平気で口にするだろう、例えば警察へ対してだ。
だから彼らは実行した、ただただ実行しただけ。
「フゥ……フゥ……、フぅゥゥ……」
剣の先には10キロの重り、400の素振りはするから。それを毎日するとしたのよ、汗が滴り止まらない。だってそれはでも。
「普通の世界だったの……。はぁ……、はぁ……、昔のお侍さん達はそれをやっていた、私ができないのは弱いから、やっと……やっと……」
剣を目指すのならば小学生からでもそれができて当たり前。今まさにそういう世界が来ているの、強くならねばならない。
「だから思い描くのよ、最強を――」
何もかもが崩れ落ちた。もう温かいお風呂にワンボタンで入る事も、ネットをつぶやく事も。父も母もいない、そして……。
代わりに翻る剣閃が、こうやって外で必死に剣を振るうって、何か全てを振り払ったような感覚。
目指すのも悪くない、消えていた侍という姿が今ここに蘇る、必ず自分がそうなるから。貴方もそうでしょう?
でもね、だけど本当は、本当は私……。
「フゥ……フゥ……」
剣を握る。その影が自分より大きくならないように。




