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「この腕は……、俺のウデが治る事は――」
どうやらこの腕の方がかなり問題だったらしい。
亀裂が入っていた、あの退けた木に俺も巻き込まれていたんだ、神経をやってたらしいとされ。地面に着地の時ウデが妙に痺れたのだけは覚えているから。横揺れするような違和感がキバを剥きウデの中で暴れてクネり肩までも突いた事。
それが全てを奪ってしまった。それはもちろん競技を、心を、そうして距離だけを――。
「今は無理なんだ、すまないな」
「あぁあの……、待って下さい……待って! アナタは嫌、なんですよね、きっと。でもだけど諦めたくないんですよ、私と話くらいはして欲しいです、1週間も避けなくて良いんじゃ……、勇さん!」
そうして彼女は今も運動には自信があるというのだ、だが胸を締め付けられてしまう。小さな体と、その……。ソレに言葉が出なかった、震えるその右手では――。
今もこの右腕を白い隆起が走ってる、場違いなほどに白く、それは枝分かれしながら正に亀裂の様になり。
俺はソデで隠して。
「私はアナタの剣を信じたいんです、信じたいっ……、まだやり直せるって思ってますから! だからお願いです剣を捨てないで、アナタは輝いてもう一度」「いや……、あの、ごめん。関係ないだろう。悪いけどさ。いつまでもいつまでも付きまとわないでくれ」
「いえ…… でも、ねぇ、幼馴染ですよ。あまりに苦し過ぎます、言われっぱなしじゃないですか。悔しいんです私、ホントは誰よりも強かったはずなのにっ――!」
「でも腕が、もう、戦えないんだよ」「だったら私がッ……、アナタにもあの頃の情熱はきっと残ってますから、今からならまだ間に合う、勇さんと私」
だが近づいてカノジョが覗いたその眼には、それは……、その光は「えと―――――。ごめんなさい。それでも私は……、はぁ……、はぁ……、それだけじゃないって思ってます、絶対にアナタはこれで終わるべきではない―――」
その本気に胸がつまる。遠ざけるべきではないとは思ってはいるけれども、それはでも彼女を傷つけることにもなりかねない。痛む右手、もう普通に接するのも辛いのになんでこんな時にって。
この加島 虹炉は。
それでも……私は本気です、ゼッタイ勝つ気なんです! 何より女同士です、だからこそ私が。聞こえた所で振り切る俺は、耳を塞ぐ。なんとか振り切って校舎に入って、階段を上がって上がって、上がってだ、そして苦しくなって。
「あぁ……、ハァ……ハァ……それもこれも、あの日が無ければな――」
俺は、何から逃げてるのだろう。
壁に手をつくのも苦しい。これを洗い流す事はもうできない、右手は元には戻らないんだ。俺とコウロと剣の道も、全てこの亀裂と同じでもう――。
「……」
静かにドアを開けて教室へと入る、でも一気に場の空気が悪くなったから。
仲良さそうに話していたのが一人、また一人といなくなり。とりあえずクラスの女子からはかなり受けが悪い、障害者枠が来た……、そう言って。
「じゃあねぇ雫~、まぁ……、ホントご愁傷様で」「アンタ ホント頑張ってねぇ、誰かさんと違って有望なんだからぁ」
あんなのの妨害に負けないで ネ?
その悪意の視線をかいくぐるよう一人、席へと座る俺は。2年生になってこれが日課になってきてて、このクラスが始まって10日かそこらだが非常に……。
唇を噛む、言いたい事はある。でも彼女は俺とは話さないだろうし、なおかつすべてに悪い。それは迂闊だったか。絡み合った糸は非常に難解な、まるで幾何学をもって。
「もう昔みたいじゃないんだよ。そうだよな」
その見やる目の前のは何かと清楚と話題。
黒髪は艶めきフワっと柔らかく、その繊細さは触れたらシルクの如くで、顔も整って小さいのだが身長はもう167近くと非常に恵まれた姿で。
それは人か精霊かと言われれば人なのだろう、だってこんな儚さや憂いがあるかと、世界崩壊以外で神の使徒たるが見せるわけがない。
こんな男が振り返るほどの幽愁、輝く白い肌だって透き通って視界に残滓を成すほど凄艶で。その口数は少なく静かに流れる水のよう、そんな訳でもないのだが――。
「ふん、知ってるか……、アイツまぁたコウロって感じで会ってたらしいぜ」「ヤダヤダ、もうまじで諦めりゃあ良いのに、他の女に復讐を頼むとか、しかも名前が同じってのがキモいポイント増すよなぁ?」
「幼馴染ってのを使って近寄りたいんだろ~? もう相手しなきゃ良いのに、アイツ全く動かないらしいじゃん、絶対無理って聞いたわ」
あんなのになんで――。
唇を噛んだ。それは今や学校1だなんていう、そんな厚かましい言葉は各人に依存しても。だけども美人列挙という、そんな分かりやすい物でなら誰一人疑わず、各機会に目をつけ入る。それで特筆すべきは、なんと一年生にして剣道インターハイを征した怪物という事。まさか同じクラスになるだなんて。
構呂木 雫。
そうだ、名前も似ていて剣が好きでアイツも同じ女だって事も。俺は片手で数えるような指を、そうだよ……列挙する間に入るんだよ。あの少女も。
男が総スカンを与えてくるのもそれで。
憂鬱が2つに増えてて、でもだけど俺はこの日は特に見てしまっていて。だってコウロが……、この俺に戦えというのだから。
だからいち早くその気配に不審がる彼女の眼に怯えるべきか、毅然とするべきか。もうそろそろハッキリさせるべきだとは思っていたから。
「いやいや……、あんさぁ? キモイんだっつうのアンタ。ネェ? 見てんなよって気持ち悪い――」
そぞろな視界にもわざわざ入り込んで睨んでくる少女、そうしてもう一人男が近づく、それは175センチで少しだけ見下ろして「なぁ? まだ文句あんのかよ、まともに喧嘩も売れねぇ雑魚が。こんなのは強けりゃいいんだよ、何事もそうだろうが……っ。お前はもう終わったんだろうに? 役目はねえんだよ――」
比較的、男は胡乱な雰囲気っぽいのに交戦的すぎて、首を掴んで来るから、そのまま「ネェ、ヤメてよ……、良いから。私は気にしてないよ……」
だが雫が、しかしギャルが更に突っかかって俺に「えぇ? でもこいつのせいじゃん、こんなクラスなって、しかも宣戦布告とかァ――」
その言葉には勇と同じく雫も引け目を感じる、実際に宣戦を布告した訳ではないが人の口に戸は立てられぬとは「大体アンタいると空気悪くなんのよ。おんなじ名前の女とかさ、新学年早々、もうクラスから出てってくれないっ? 一緒にいると気ぃ使うんよ……大事な学校生活一人で台無しにしてんじゃん、ねぇってッ!」
あぁ……、うん。いや、そうか。俺は乗るのか……あの言葉は本気で――。
「聞いてんのって、ネェ!? それで色々あることない事言われてさぁ、マジ、雫さん傷つくじゃん。ネェ、あんた」
あの女操作してるんでしょ。ねぇ、マジで迷惑なんだってェ――。
でもだけど、コウロは身長を伸ばしたがっていたなと、立ち上がったソレにそんな思いを巡らせる。あの頃とは違う、ほんの数年でも遠く老けたような感覚。
居場所がない。
異性ならばとりあえずいない者としたがり、相手が同性ならば上である事を誇示したがる。あの黒髪にもすっかりといない事にされているのだろうし。
このクラスではそうだ。するとソノ右手を掴まれかけ――。




