1
さびれてしまった人生。
歩く歩く 歩く 歩く 歩く。
動かない。
もう どうしたら良いのか。
失った。
この傷はなんの為についたのか、一生背負って行く、形も分からないのに。信じた物や大事な物を、居場所を失い。悔やんでも悔やんでも、間違いは何処で罪の形は。どのような姿であるべきなのか。
あの日の悲劇はなんだったのか、この痛みはなにを、もう……分からなくなった。
それは私のなんだ。
生き残ったのは、たった1つの刀への道、血の滴り、戻らない過去、未来、現在、二人はきっと一緒にいるべきだったのに。
しかし1人。
明けていく。
朝日は低く唸りを上げて照らして来る、逆風という言葉があるならば逆陽。正しかった、憎い、方法はなかった、だけど恨めしい、後悔や色褪せた世界は、……取り返したい。
まこと そうして しんり。
全てを消しさるように光が。
見えずとも、歩き続けなければならない。だってそれは聞こえているから、だから一人でも。雲間は切れたんだ――雲外蒼天――ゼッタイ絶やせない刀への誇り。
震えた足が。
それはいつしか勇者――幾人もの仲間を持ちて、それでも孤高の才となりはて、揺るがぬ剣の伝説となるまでは。
そう、最期の剣は、キミが。
その路傍に添えられた唇は震えながらも、笑顔のように、泣いているように見え「どこまでも一緒に……、でも、だけど異世界に来ても2人はやっぱり―――――――――――」
光を目指して、二人は道だけを望んでやって来たと。この剣が2人を別つまで、同じそれは――異路同帰――違う道だったがやっぱり同じ帰り道だったよな。
同床異夢――でも見てた夢は違ったの、ごめんなさい ごめんなさい。同じヤイバに映る2人の終わり。最後。
ねぇ本当にそうなのか――。
閃いた――憧れはもう、最期の輝きは残酷で。奪われた、その深い傷を撫でて俺は、あぁ……、うん。そう。春。
その光を手で遮ってて赤い皮膚の輪郭。
制服へと手を伸ばすんだ、繊維の音。今はただただ規律をまとって形を成し、崩れて揺らぎそうな心をすくい上げながらまた歩きだす。それは4月の終わり。
新学期を超え、外を漂う空気はある種を通り越して匂いをまとい、花だろうが樹木だろうが、それは春という記号よりも現実的であり不作法なる虫達による害をなして来る。
神社らしいガラガラと扉。
勢いある羽虫を手で煽りながら俺は、太陽もが質量を増して来るので陰鬱にしかめていた。光がじりじりとハダをこの服を、そうして網膜にも存在感なす様なってきてて。強い物が作りあげる姿へと溜め息を吐くだけ。滲みのない深み、腕へとそよ風。
活発な鹿を見ると嫌悪感しか湧かないんだ、人間を舐めてるからだ。ひたすらに突進が来ないか警戒しながら道を行く。山ザワめく田舎から文明の力にて出でて、少しの都会に辿りついて、そうしてまた田舎に戻って行く電車。
駅から出れば角ばったデザインも結構見納め。草が茂って道にハミ出してきているのを超えた、もうここには学生たちはほとんどいない、いても足が遅いのは走っているから。
「あぁ……、山田さんは今回のは良いなぁ……」家庭菜園をぼーっと眺める。
特に物珍しいものは出てはいないが、知らない家の一番害の無さそうな物を、風景を、そうしてコンビニを見つめているだけ。あぁ少し遅いだろうな、あの子のアレは、いつまでもダッシュが下手な……。
「オォイ山塔のヤツら遅刻だぞーーーっ!」そうしてやっと門の軋む音が響き始めた、定時だ。日課の訪れでダッシュをかける。
ちょっとぉ、はぁ……はぁ……眠たいんだってぇ――。朝飯食えねえのコノせいだからなっ……。ウ――吐きそ……っ。もう時代遅れだってぇぇ。後ろから不満げな言葉が聞こえてくる、俺も……あまり走る理由を見出せなかったが。なんとか数名と乗り越えて。
肩で息を吐く、愚痴のような投げ出したいような。今日は天罰日和ではなかったらしいと、そうだ……嫌味なアノ天罰が無くてよかったよ。
ただその時、鬱屈を切るよう桜を思わす繊細な髪が舞ったんだ、セーラー服揺れて「あぁ……あのユウ、勇さん見つけました、やっと見つけましたよ!」
「あぁいやコウロ――」
うん………――、コウロ……さん?
声が聞こえて咄嗟にその名を呼んでしまい、隠して、そうして眼の前に来たのから目を逸らすから。揺れる桜の美しさ、均一にならないよう洗練されて揃えられた前髪、そこから見いだす瞳は琥珀のようで潤み、輝き、内向きへの流れを持ったその後れ毛は揺れて優美に誘う。小さな体で未だ竹刀を抱きしめている彼女は、それは蘇る記憶が。
非常に苦しい立ち位置は今も苛む、足が動かない、もう変わってしまったから。
「あの、はぁ……、はぁ……、それで、考えてくれましたか……? 私がするって事、今こそ見返すんですよ、もう一度始めましょう、私と剣道を!」
それは、その少女は。
控え目な様子で喋り方も丁寧だが、何より強い気持ちと共に見つめてきてて俺には歯痒さと苦しみを積み重ねた言葉でもって寄って来る。
その過去をほじくり返しても良い事はないというのに――しかし双眸――しっかりと見据えて来て。
世界が後悔させる少女を作り上げたと言うなら納得しようか、桜色とセーラー服の親和性、柔らかな雰囲気の美少女。
その彼女はやはりもう一度剣道と言った。
俺は彼女がどんな心境でソレを待ち望むのかは考えたくはない、だって正直あまり芳しくなるような気がしないんだ。
その純真な笑顔を向けてくるから取り留めのない悲しみが。大きく動く瞳で訴えかけて希望をムネへと秘めていた。
それは……疼く姿、罪を問う形。
美しい光を遮り、だが揺れれば影を突き破るように光が現れ木々がカサカサと鳴って……。まるで声でも聞こえるような。
行くぞー、コウロぉ! うん、ユウ! そのざわめく木々は神聖とも……そうして何か不気味にも揺られ、問いかけているようで。
でもそこは綺麗なんだよ、誰もが敬って尊敬して、そうして愛している場所。片田舎においてその森は別格の聖域。神社の森。
「すっげぇなぁ……、やっぱ奥はちょーぜつ深いんだわ~~……」
高い高い木々を見上げて歩く、行っても行っても終わらない森。低い蒼の轍を踏み鳴らして、それは二人でよく遊びにいったんだよ。庭みたいな物で。
だけどもそこは本当は深くて暗くて薄淀んでいて、静か過ぎで、木々が織りなす影は鬱蒼と暗い。訳の分からない鳥がギャギャギャ――と飛んで行った。
子供なんだ、奥は止められていた。ただそれでも少しでも奥に行きたいと思うのは当然だったが。怖いという気持ちを持てなかったのがその2人の。
「よっし、じゃあコウロぉ、もうすぐだぜ……。なんせ父さんも母さんもいない、あの五月蠅い爺ちゃんもいないから、この隙だ、行こうぜ行こう!」「うんうん、行こうよユウ! わあぁ……、でもすっごいすっごい、奥~~~」
その黒髪でぷっくり頬っぺの少女は一張羅の勝負着をまとって見上げた、それは剣の道へと続く姿であり身の丈に合わないエモノも持って進むんだ、大地へ時折こする。でもそれって同じで2人ともが真っ直ぐで。
「でも本当にそんなのあったんだ~、ねぇユウ、剣道強くするん?本当にぃ? ホントーに表の神様よりすんごい神様いるんねぇ」
「違うって、神さんじゃねえよコウロぉ、これ仏だよぉ!」「なんで仏ぇ? 仏様って神様~?」「うん、そうじゃね? 強いから神様になったんだよきっと!」
笑顔で竹刀ぶんぶん。珍しい事にこの神社という形にしてその赤い鳥居と屋根瓦、そうして白をまとった神域の更に向こう側には、仏がいた。
しかし例えそれは親と一緒でも入れない場所であって未だ俺も入れなかったんだ、すぐそこでも駄目、祭りでも駄目、まだ小さいからと。でも今はどうしても必要があるから。あると思ってたんだ。
「ウチは武道の強い加護があるからな~、奥だときっとすごいぞ~っ、フヒヒヒ。それはもう絶対勝てる様になるんだってぇッ、神様の力でぇ、アレはきっとそのラスボスなんだぜぇ!」
「すっご~~いっ、ラスボス~。ゼッタイ強いよねぇ~、んふフっ」
一緒に剣を振り回す、湿っぽい、非常に水水とした森の中を突っ切り探検してまい進する小さな影たち。じゃりじゃりと水を抱いたような砂の噛む音がしていて、ふと、大きな木に登ろうとしてみたり、目に入った白い大きな岩が綺麗で登頂して見せては。
えいや! どうだ足跡を残す。笑う、響く。 消える。
まだ遠い黒の大地を進んでいて「でもそれって ふぇあ なのかなぁ?」
その言葉に眉根すら上がる事もない、だって神様、偉い、人じゃないから良い!「もっとも~っと強くなってカッコ良くなるんだよ、今度おれさぁ、防具を新調してもらえるんだぜっ、だってもう小学生チャンピオンだしぃ!」「良いなぁ良いなぁ、私は2位なのに何も貰えないよ、良いなぁ~~~っ」
やっぱりかなり小さい少女に、手を貸す事もなく。その頃は男女なんてなかったから、なんならコイツに泣かされることもあったし。特にこの剣道は2人にとって平等だったんだ。
俺は小手が大の得意だ、アイツは抜きメンしてくるんだ、大嫌いだ。少し浅黒い二人、小学5年生。黒の美しい髪をまといて躍動させて剣の道に熱中しているだけで。
「じゃあ叶えてくれるならコウロぉ、お前は何強くなりたい? 俺さぁ~、やっぱ必殺技が欲しいなぁ、絶対に絶対に避けれない胴でッ!」ズばぁああ―……ってさァ!
「私は私はぁっ、やっぱり背が伸びないとな~って、それをお願いに行くの。やぁっと130センチ超えたばっかだもん、クラスでも一番小さいんだも~ん。でももっと大きくなる、きっと強くなるよ、叶うよねぇ!」
「そうだな、そうだよ」だがしかし……、その場所へはやはり行くべきではなかった。気づくべきだ、気付いて欲しい……、何も叶わないと。ただただ彼女のカラダに突き刺さった物は鋭く……、これからを。
「ねぇ勇、じゃあね。2人はきっとどんなになっても戦うんよ、2人だけはずぅっとフェアに」
――――――――――――――。
その為に、顔を背けた、俺は見ないふりして「でもさ……コウロぉ? 剣道にはさ、背なんて関係ないだろ。きっと……あのさ、あの、おま」「ア ぎゃあ…アぁぁァアアーー!?」
ドスン―――「ウ……――――」
うぅぅうウウゥゥ
「助……けて 助け――― 勇ゥううぅぅウウウウウウウウウウウウウウウ」
「エ、あ!?エ――――――」
もう声とは言えない声が、オトと化した悲鳴が突然。気配もなかったし今どうなってるか、振り返った目の前には茶色が……なんだこれ、なんだ――。なんなんだよッ。
コケとか緑の葉があって、どこに手をつければ良い……っ、どこにコウロ「痛い痛いイタイぃいィいいイ―――!? イタイよぉおオオオ」
必死に彼女を助けようとするが木が重いんだ、木だったんだよ、木だッ。でもなんとか持ち上げたから、その拍子にコイツこっちに倒れて来る、木が、木が。でもなんとかだ、なんとかそれでもコウロを「いたぁい……、痛い……いたぁぁぁあアアアアア!?」
声に動転する俺、転んだ、叫ぶ声は痛みと衝撃で高く揺らめいて。
必死でその腐ったのをのける、一瞬でも――だけどその洞に入ったヒナをも落としてしまい。鳴いている、大変な状態だ、泥まみれでカオや髪にも黒粒がへばりついてて、地面に小刻みにノタウチ痙攣するソレは。
「うぅ……ヴぅゥ!? ヒィ………っヒ―― ひぃィィぃい」「あぁ大丈夫か、大丈夫かコウロぉオ! どうすれば……、ナァどうすれば良い!? ナァ――ッ」
苦悶止まらぬその鳴き声に、俺は、オレ……、自分でなんとかしなければならない、だって秘密で来たんだから。でも駄目でウロウロ……うろうろと。
あぁ肺か腹か、子供には分からない。大変だ、大変なんだ、その数秒でももう駄目で、1分経っても幼稚な「あぁ……そうだ、あの水ならきっと……っ、あの神様ならきっとォ――」
何度も何度も洗った、神がご利益を下さるというその水で。俺は必死に何度でも、溢れ出る赤は……、でも薄まらないんだ、漏れ出していく。まるで濃い赤の絵の具が、固い固い赤があるように血の細い脈が出て、ときおり太いのを見せる。
その神の水まで染まってしまうまで。
「痛い……、イタイイタイぃい、うぐぅう……うぅぅゥゥ――――、 はぁ……はぁ……ハァ… ウ―――――― 」
「コウロっ?コウロぉ!? あぁ待ってろ、そうだ……やっぱオレ、母さん呼んで来る!母さん……っ」お母さーーん!?
息が荒いのから、ゆっくりと細い何かに変わってってる、子供でも分かるから。なんとか救う為だけに立ち上がって走る事だけに集中して走った。
山の中一人、いつもの巨大な岩や邪魔な草フェンスを転がし、千切り。手の平には大量の血の感触が。
「これは……、でも、ゼッタイに行ける―――ッ」何か自信があった、足が動く、しっかりと全部を避けれる。不思議な事に一度たりともぶつかるとは思わなかった。
まるで全てを――。
そうだ道を示されているかのように、その時、普段飛べない段々を思いっきり跳んだ、足に痛みがない、でも知らなかったんだ。その日消えることのない後悔を負った事を。その傷はもう塞がらない。




