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「雫……、雫ぅウ!」
走って行く、ひたすらに、こんな苦しい事があるのかと。もしかしたらあの時「そうだ俺が……、俺さえあの時に剣を取ってれば、腕を直してさえいれば――ッ」
代わりになれたはずだ、せめてピンチになんかならなかった。あの殺戮の戦端を開いたのは自分で。もっともっと上手くやれたはずで。
今もあの時のようで、右腕を奪われたあの時を俺は、必死で助けようと走った森のようで。でも今の雫はその時とは比べものにならない、何故神はこうも、神はぁ――ッ。
「ねぇちょっとアンタ……っ、アンタ雫さん探してるん!? じゃあコッチへ、コッチだってっ! 逃げる方法探してヨ――」
すると泣きそうな顔で見知った顔がやってくるから、そうして連れられて……。
ねぇ……、アンタ上手くやんなよ、承知しないから。雫たんはゼッタイ――。唇を噛んだ、そのままドアを開け放つのだ。
「はぁ……はぁ……、待て……、待つんだよ雫っ!」
その登場に困ったように目を逸らす。
それでも静かにたたずむ、満開の如し黄金のオーラを見ても俺は近づくんだ。今は道着姿のカノジョは髪を結い、美しい出で立ち。凛とした剣道少女に、少し……見とれた。
それで雫は触らせもせずに一人、立ち上がってしまうんだ、その薄紅は。
「ううん、もうすぐ……、私は行くから――」
だから。
そういうと剣を構えてくるのだ、真剣な瞳に対し、俺も同じく。その動かない右腕にヤミを灯す。二人でその決闘場へともつれ込む。
歩く途中からその黒翼を、その封じるように貼られていた3枚の札がよじれて、それでも負けじと包むように繋がり、連帯し包帯と化すのだ。空で浮かび続けなんとか現界への顕現を阻止して。
黄金のオーラと対峙し。
異世界でも体育館とはなんとも場違いだが、それでもその剣は本物、そして思いも本物で。
剣道の流儀を貫いて蹲踞、そして一礼。剣を構える。気の利いた者が掛け声をし。
「始め!」「てぇエエエい!」「エヤァあああッ!」
握るは真剣。お互いに間合いを測る、それはもう本気で、その切っ先を向け。
「なぁ、ずっと追い続けてきた……、この剣の道。だけどもう一本とかルールもなくなったんだよな雫」「えぇ、そんな世界に来てしまった……。そうね、でも私達死ぬまで……」
その言葉と共に眼の色が変わる、そして――。
「めぇぇエエエ!」「コテぇええ!」
もうそんな悠長な言葉を、竹刀を以て人を殺さず、全てを防具が受けるゆえひたすら美しい打撃を。心技体、完成の一本をなんて言ってられない。
それでも2人の事だ、それで良い。剣が弾けるとツバぜりあいもなく直ぐ退いた。剣道と実戦では勝手が違っていて、それでも彼らは間合いをすぐに理解して。
「ねぇ………――、どうして治さなかったのかな、治って……欲しかったよ――」
「これで……良かったんだよ。分かってくれよ雫、俺はこれで良いんだ」「そんな訳ない――。ねぇ………っ、ねぇ! 私に背負って欲しいって、そういう事なら言ってくれれば良いのに、なんで……ッ」
「違う、これは俺なりのさよならだ、行け……、お前は好きに生きろよ。俺はそこまでは行けなかった、でもなっ……それでもまだ―――っ」
黒の羽が翻る、納得していないカオ。涙を浮かべた。
その黒の一撃は禍々しく、刃先90センチ程もあって、本当に鳥の羽か人食いサメの角のようだ。分厚くて堅い、そうして危険極まる。すさまじい威力で裂き散らし、通っただけで嗚咽するほどの瘴気を放つ羽を!
「普通の剣じゃ……全然歯が立たない位、ねぇ……、これがそうなの、本当にアナタの剣なの、ねぇ勇!?」
禍々し過ぎるのよ、でも、だけども確かに昔見ていたあの姿。
彼と戦って戦って戦い抜いて来たもの、何年もを私、だからこそ「ぐぅ!? 思ったより柔軟……はぁ……はぁ……、強い、強いね……、確かに強いよ、昔と同じ。でもね――」
目の色が変わる。黄金が溢れ「申し訳ないけれど、勇、だからアナタにはがっかりしたよ――」
「ぐぅ!? これで押し返された、だと」「それに弟子なんて100年早いよって――」
俺が得意な縦の一閃を簡単に。黄金はその黒翼を物ともせず押し返していく、あっさりと的確に受けた、返した。そうしてその瞳には――これで歯を食いしばる俺の事を……。
でも確かに彼女は見事なのだ、正に水を得た魚。剣聖たるが整ったブレイブ、異世界に転生した勇者の力。それが握った時点でナマクラでは決してなくて全てが進化していると。
「ぐぅう!? こんな……簡単に、こんなに差が出る」「5年は……長かったよ……、きっとその、5年が長すぎたの」
それだけだよきっと――。
手が震える。だって見て来なかったから、だからきっと――。
その剣閃は正に理想だった、俺が夢見て……、俺達が夢見ていた剣。腕に巻かれた包帯が軋む、抑えきれない程に膨張させているのに俺は。今も必死に黒の一閃で斬りはらうが紙一重、すぐに突きが飛んできて。
「ほら、反応できてないよ。あの夜の動きではね……、あれでは全然だもの」首を振る、彼女は振り払うように、手加減もなく「でも私達はそれでも前に行くよ、そうでしょう勇――」
剣の才能とは。勇者の素質とは。防戦することで精いっぱいだから、そのやっと訪れた剣のツバサも黄金の前には意味をなさずに、その腕の痛みもろとも砕かれる――。
「がぁァ!?」縦のバカ正直な一閃を繰り返してくる、それだけで右腕が千切れそうになる、直後の3閃は……4閃だった。追えてない、Zよりも早いΣを描く。血が飛んだ、そうして立てなくなって吹っ飛びかけ。
それが……、お前の5年かよ。そうだよな、きっとそう――。
全力全開、それでも倒せると俺は……。俺達が追った剣道は劣勢でも覆せるから、あの日、あの過去をも今からでも。
5年では言い尽くせない試合の数を超えてきた2人は。
立った。
そして最後の一刀……「アナタはきっと、ここまで来れた……、ゼッタイ来れたから――グス」うぅぅ……。
唇を噛む。倒れた彼を見下げることになるとは。
悔しさを見せる事はもうないと思っていたのだけれど、人生で2度目の消失。あの神社の森で別たれたまま戻れない。異世界であっても、神がいるかもしれない世界であっても。
「やっぱり分からないよ……、ねぇだって私、アナタを一度も剣で分かった事ないもの」
「そうか、そうなのかよ……」はぁ……、はぁ……、ハァ……。
今も思う……、彼は本当になんなんだろうって。全然他人と違う感覚、こんな人は今までも、そうしてこれからも恐らくはいないよ。
私はね……、私、ホントは。
「行くから、勇」
届かない、自分ではやはりあの構呂木 雫は倒せない。今度は俺が下に見られてて、そこから始まりか……、そうか。
笑う。笑った。
ただ今はマシだよ、心は空で徒手空拳だった頃から、少しはな。
それでゴメン、雫。
「はぁ……、はぁ……、私がやはり……、あの時恩寵を与えておくべきでした……。ごめんなさい、勇さん」
多分無理です。
「私はあの人を超えられない。こんなはずじゃなかった、こんなはずでは――ぐす」
加島 虹炉が震えて大粒の涙を流す。するとコブシを握るのだ、強く強く。
「おぃ、なんだよそれ……。俺は……俺はなァ、ハァ……ハァ……、加島ぁあア」
大声に怯えた。なんとか立ち上がるから、その少年は彼女へと、それは決して「おぃふざけるな加島ぁあっ……。はぁ……はぁ……、勝負するって言ったろう、お前は何もまだ負けてないだろう……っ、お前は俺の剣を継ぐって。それじゃあなんの為に」
俺はコブシを握った、掲げて「歯ぁ食いしばれぇええ!」「エ、勇さ」ばしぃいい! そうしてそのコブシが加島 虹炉へと刺さったから、すると痛みに震えて悶えながらも彼女は。
その手に奥にまで侵入されて。
「えっ……あ!? 駄目、ダメです勇さん、私ぃ――!?」
その体が応じる、応じてしまうのだ。カレを受け入れてしまう。彼女のカラダへとズブリと、男の腕が、すると変身だとでも言うのか、いや違うだろうこの力はきっと。
だがしかし 何ゆえにヒトを――。
しかして力が溢れていく、変わる、変わってしまう。彼女の無垢な体にチカラが宿るから、腕と足が、それは更に筋肉が走り抜け太まってパンっと張った太ももが。そのカラダには毛が生え、肉球が芽生えて、そうして力を手に入れ始めた加島 虹炉と。その男の手にはカードが――。




