13
次に起きたら世界が変わっていた。
だってもう幼馴染は何処にもいないという。
「なんでだ……、どうして雫がいないっ……、引き渡したってなんだよ!?」「然り……。まぁそれでね? アチラが大層怒ってて。だからウチラを解体せよと、即刻バツを与えるとねぇ」
「ハァァ? 一体……なんのバツだ、何の話、一体…何が――」いつつツ……。
「まぁ……然りだよ。モンスターに襲われてる所をたまたま、偶然発見した。せっかく退治してやろうと来たのにそんな優しい戦士様たちがネ……、突然、そちらに無暗で次々と残虐に殺されたと……」ふふフ。
保健室でジュースを飲み、ベッドへと腰かけ悠々と笑う少女へと「おぃおぃオぃ……、何を言ってるんだ。あっちに殺されかけたんだぞ、それは間違いないだろうにっ、そう全員が証言するんだぞ!」
右を抑えながら俺は、その怒りと戸惑いの言葉に仕方なげに首を振る小さな少女の「でもねぇ……、仕方ないよ、だって……単純な戦力だとコッチは負けてしまうからさ」
その生徒会長の簡単な言葉に唇を噛む、こんな事があってたまるのかと。
だが彼女も一切引く気はない。飄々としているがしかし、今もこの閉塞感と不安に押しつぶされそうな生徒がいて、その真犯人たちが最初からでっち上げだとしても。
「然りだが? ねぇ……、それであまりヤメて欲しいの、本当にネ。いま全面戦争になったら持ちこたえられないから」
その赤眼が光る。俺を威嚇していて、コイツも何を願ったのか分からないらしいな――それでも光ったと。ただ光ったかどうかすら分からないという噂。
「この会長たる私自らが止めざるを得なくなるね。まぁ……戦闘はからっきしだけどもだ」
それは美しく透ける金色の髪を頭部の右左へと垂らして輪っかのような風で。背丈はたったの140ちょい、だが肌などは極限に白い、まるで雪と同じで妙に生気が薄いし人を指揮するようには見えないが。しかしソレだけは威圧的で――その眼だけは妙に威風堂々。存在感の塊。
印象としては白と金、そこから覗く赤い瞳。そうしてこの世界に来てからは更に……。
「フゥ……フゥ……、申し訳ないがな、それでも俺は無理だぞ……っ。だってこんな理不尽あるか……、それにまだ俺らはやらなきゃ」「さぁさぁサァ、通しなさいよォ、この薄汚いゴミどもめぇ! さっさと我らに道を開けよッ」
叫ぶ声が、それらは堂々と正門から入って来た。見れば聖職者たちで、そうして王の親衛隊が、あの村長が。それらが馬に乗ってゾロゾロと踏み入れて来るのだ、大勢の村人たちの前で悠然として、そうして何よりもたっぷりと。
「おぉォ~~っ!? なんと嘆かわしい……っ。全員見よ……。こやつ等は我らの助けたる手を無惨にした、この同胞のあらまじき姿をさぁ、見よぉッッ!」
掲げるあの黒尽くめ達の死体、まるでこれこそ聖人、純然たる証拠とばかりにして見せつけながら大声で説法をかますのを「おぃバカにしてんのかよ……、アイツら本気でェ――」「コッチ殺されかけたんだぞ、あんな不審な格好しておかしいだろうがよォ!?」
昨日のあの騒動から寝ていない者が多数いて、目を真っ赤にしながら「大体こんなに早く駆けつけられる訳がないし……、しかも学校周辺には何か分からない人為的な祭壇があったというしさァ」
唇を噛むんだ明らかに狙ってたと気付く。ムカつく。ではすまないんだよ、そうしてその態度の豹変、かの黒尽くめに斬られた者もいるのに。
「ドケ、触るな下賤が! 我らは神の意を体現するものぞ、異端者よひれ伏せぇっ!」「この地の主は我らだぞ、そうしてこの神の物なのだぁ! 神をも知らぬ不届き者が触れて良い訳ないっ……逆らうものは全員地獄に行けば良いのだぁあア!」
堂々としたものだ。幾度このような事をしてきたのか、歴史は繰り返す、異世界だろうとヒトならば「バカが――、だから言ったんだよ、あの教師共マジで頭湧いてる……っ。こうなるって言ったろうにヨォ!」「あぁクソ――、いずれご近所さんだとか言ってぇ、全部渡しちまったんだよな……、教科書まで上げちまった。まずいぞ、これはまずい……」
「まぁまぁまぁ……、でも……、 然りだね。本当にね」
その言葉に苦虫を嚙み潰したように笑う。これから助けてもらえるとか、ご近所づきあいで平和にとかなんとかで喜び勇んで渡した、案内した。そうして今現在ツルギが喉元に突き刺さった状態。
金の髪が無愛想に撫で切られて雪のような肌の上で舞うんだ、ハラハラ、「然り然り……。だからね……、分かるかなぁ? 勇くん――。相手はコッチの配置関係も知ってるし中身の施設までもをね、ほとんど知られちゃってるんだよ」
「はぁ……はぁ……逃げ道は……ないのか、雫は何も……」「あぁ裏門も横門も、その体育館にあった緊急非常口も全部知られてるよ。幸い……かどうかは、まぁ後ろは山だしバレてなければ、幾ばくか、策を練れたんだろうけども――」
もう上手く地形を利用して立てこもる事も、そうしてブラフを打つことすらもできない。幾つかの施設が壊された、そうして盗まれた物も多数で。
だが最も最悪なのはコチラの素性を――それが貫くか貫かないかに関係なく、この世界にフィットするとは限らないにも関わらずに知られてしまった事。
「生き残れるのかよ……これ」「分からない、分からないよ。ただ然りだな……。あの様子だと歴史と現行体制だったものを、この我らという物を理解してないだろう。まだ、構呂木 雫程度で収まっている」
その言葉に怒りは滲むが「違うよ……、でも取り戻すよ? いつかは必ずね。 それでも然りだ……、今は彼女には苦しんでもらうしかないんだよ。ヤツらは恐らく我らを人質にする気だからだ」「そうですね、それでギアスという物をご存じでしょうか?」
すっと出てきたのは眼鏡をかけた少女だった。しかも眼帯までもしてるという。それは黒髪を撫でて手早く日本語に分かりやすくまとめた資料をスマホで見せて来るから。――だがそれよりもだ、彼女はあっさりと苦しむと認めたよ、俺へ対してだ――。
「強い強い魔力契約です、そうして次のこれ、この一文は、勇者契約と呼ばれる物であり。彼女をこの世界の勇者にするべく、またその一切を王の勇者として顕現させる手筈だ」そういう計画ですね。
「あ、あぁ……、勇者は分かるが、一切ってなんだ……、アイツの剣は一体どうなるんだよ」
「それは多分だけれど、どんな理由であっても王の言いなり」「然り。どんな戦場でも立つ事になりそうだねぇ。相手がモンスターだと王が命じればそうなる、解呪方法もかなり限定的になると、あとだ……」うん―――。
その言葉に憤りが激しい。その腕が疼く、貼られた札を貫通する程の、そのいたたまれない苦しみ、焦燥感が焼いて。
「ハァ……ハァ……!? 剣が――アイツの剣が……。それはでも……無茶苦茶だろうに、雫は俺らの中で一番すごかったんだろうっ、だってあの黄金を見たろう! そんな宝を渡して良いものなのかっ!?」
「そう言いたいですよね。でもそれを言うとするならば……、えぇ、ほら、あのイカツイ鎧と最強クラスの魔法使いを連れてふんぞりかえってる騎士どもへ、直接ですね――」
その言葉に歯が潰れる程に噛みしめる。残念ながら今はどうしようもないだろう、最も才能ある雫を差し出すという交換条件。でも戦国ではそれはよくあったんだと。
「然りだね、徳川家康も元はそうだった、人質って奴だ。その手段を用いると言った時に相手方は理解していたよ、とんとん拍子――」
コッチでは最近になってだが王都学園が存在すると。この封建社会での王政を征くにおいて王が勝ち取った数少ない権利であり、その成果の場所たるのだ学園、そこへの入学。
彼女は編入とされる予定だ。ただ教員の中でも青ざめる者が多かったが。
「でも今は散り散りになったらどうなるかも分からないですから。最悪各個で誘拐される可能性がありますし、あれは……」
眼帯の先、王軍への対応に立った者が殴られている、要は小難しい話をしたんだろう。あと不敬だとも。あのパワハラ気質100%の奴らに合わせて生きるのは辛かろう事。
既にじり貧、初手はもう最悪。
「そんな事って……ありかよ」
コブシを地面に突き刺す。だが収まらない、走って行くから。止めるベッドを抜けて、それでも幼馴染の元へと駆けるんだ。またかよ……なんでだよ、異世界へ来てまで、何でも良いんだ、兎に角せっかく2人の剣が戻って来たのにさァ。
ドアを開けた、それを追いかけ止めようとする生徒会メンバーに、良いと。そううなずく会長は。




