第二十五話 避けられぬ再会 1 二人と入浴
僕はみなに苦笑してみせた。
「ヒュドラも結局、みんなの力がなかったら倒せなかった。僕だけでも――って、そんな気持ちがあったのかもしれない」
「何を言ってるんだぞ。あたしたちなんか、クィードがいなかったら二日ともたないんだぞ? なんでもかんでもクィード任せじゃあ、あたしたちの存在感がなくなるんだぞ」
ライラが少し怒ったように言う。
ミシュレイが神妙な面持ちで口を開いた。
「そうだな……君の気持ちは判らないでもないが――もっとボクたちを頼ってくれていいんだ」
ミシュレイはそう言って、眼鏡の奥から僕を見つめた。
プリシアが微笑する。
「そうですわ。わたしたちは、そもそもクィードに頼ってるんですから、少しくらいわたしたちに頼ってもいいんですのよ」
そう言って微笑むプリシアは、可憐の一言に尽きた。
「ありがとう、みんな。それじゃあ――みんなを頼りにするよ」
「うん」
ミシュレイの声とともに、皆が頷いた。
それから夕食を終えた僕らは、各自の部屋へ戻る。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなんだぞ」
「おやすみなさいですわ」
「おやすみ」
僕は一人部屋に戻って来て、息をついた。
皆の優しさが沁みた。
「そうだな……くよくよしても始まらないし、今できる打撃を強化するとか、そういう方向で考えてもいいや」
僕はそんな独り言を言うと、ふと部屋の一角にまだ扉があるのに気が付いた。
開くと――露店風呂だ。もうお湯が張ってあり、白い湯気がたっている。
「大浴場とは別に、部屋に風呂があったのか。なんて贅沢な」
個室の風呂、というサイズ感ではなく、4,5人は優に入れる広さだ。
こちらはヒノキ造りの風呂だった。
「せっかくだから、こっちも入ろうかな」
ちょっと寝る前に風呂に入って――とか思って、僕は湯につかった。
気持ちがいい。脚を伸ばして、うんと背伸びをした。
「ふ~、こりゃあいいや……」
僕がそう声を洩らすと――気配がする。
部屋の中からだ。僕の部屋に誰か入って来てる。
侵入者か? それとも、着替えを持ってきてくれたとか。
気配を探ると……殺気はない感じだ。
「――あ、こんな処にいましたの」
戸が開いて、プリシアの顔が覗く。
「なんだ、プリシアか。どうしたの?」
「部屋にもお風呂があったんですね――気持ちよさそう」
じーっと見つめていたが、プリシアは言った。
「わたしもご一緒しますわ!」
顔が引っ込む。え? 今、なんて言った!?
しばらく、ごそごそしてる。と、プリシアが再び現れた。
「失礼しま~す」
ドアから出てきたプリシアは――全裸だ。腰のあたりにタオルを持ってる以外、ほぼその白い素肌を夜灯りにさらしてる。
「わっ、わわ! プリシア、またそんな――」
「――一緒に来ないんですか?」
僕の動揺に頓着せず、プリシアは後ろを向く。金髪は結い上げている。
と、ミシュレイがプリシアの後ろから出てきた。
「わっ! ちょっと、ミシュレイまで!」
ミシュレイは眼鏡を外して、胸元からタオルで裸身を隠してる。
その顔を赤らめて横を向いていたが、ふと前を見て言った。
「また――って……プリシアとは、前もこんなことがあったのか?」
「ネフィーラのところで、一緒にお風呂に入ったことがありますの。あの時はもっと、狭いお風呂でしたわ」
「ふ~ん……」
プリシアはそう答えながら、頓着せずに湯船に入って来る。
ミシュレイは顔を赤らめてうつむき加減のまま、ミシュレイの後に湯船に入ってきた。
「うふふ……クィードとお風呂に入るの、久しぶりですわ」
「だから――そういう事はしないんだってば……」
「ふふ、いいじゃありませんか」
プリシアは微笑むと、湯船の中を移動して僕の右隣にやってくる。
そっと身体を寄せると、プリシアの豊かな胸が僕の右腕に触れた。
「ちょ……」
「ねえ、覚えてますか? 前に一緒にお風呂に入った時、言ってくれたこと」
少し汗ばんで、艶めいたプリシアが僕を見つめる。
「え、僕、何か言った?」
「言ってくれましたわ。『プリシアを守るために強くなろうとしてるのに――そのプリシアに負けてちゃ格好つかないでしょ』って」
「ああ……」
そんなこと――言ったかもしれない。
「君はずっと……プリシアの騎士だったんだな」
微笑を浮かべながら、ミシュレイが目の前にやってくる。
ミシュレイはもう、湯船の中ではタオルを巻いてない。
「けど――今はわたしたち全員の騎士で、わたしたちを守るつもりでいるのでしょう?」
プリシアがすぐ傍でそう訊ねてくる。
あ――そうか。それでか……
「そう……だね。それで…決定力に欠けてる自分のふがいなさを歯がゆく思ったんだ――」
「その守ってくれる中に……ボクも入っているのか?」
ミシュレイがそう言いながら、裸身のまま近づいて来る。
え……ちょっと――
「ボクは君に救われたんだぞ……それだけでも――充分なくらいなのに……」
そう言いながらミシュレイは、僕の左隣に寄って来る。
その裸身が僕に寄り添い、もたせるように頭を僕の肩に預けてきた。
「君は……どこまでボクを捕まえてしまうんだ……?」
「え――いや、その……」
つ、捕まえてないけど。っていうか、左にミシュレイ、右にプリシアの裸身があって――ど、何処を見たらいいのか……
「ちょっと……二人とも――どうしたの?」
「どうしたも何も……寝る前にクィードに治癒してもらおうと思って来たら、クィードがお風呂に入ってたから、ご一緒しただけですわ」
「二人で一緒に来たんだ――」
「抜けがけは、よくないかと思いまして」
プリシアがそう言って、意味深な笑みをミシュレイに見せる。
「ボクは……別に――」
「うふふふ……素直じゃないんですから」
プリシアはそう微笑むと、僕の腕をとって自分の腰にまわした。
「ね、クィード、このままここで治癒してくださいまし」
「え、この状態で?」
「はい」
少し汗ばんだ顔で、プリシアが笑う。
僕はミシュレイを見た。
「ミシュレイも……いいの?」
「……うん」
ミシュレイが恥ずかしそうに、それだけ言って頷く。
「ね……クィード…」
プリシアが僕に囁きながら、僕の右手をとって腰にあてる。
そこはプリシアの滅竜呪の紋章の場所。
「ミシュレイにもしてあげて……」
プリシアの囁きに導かれて、僕は左腕でミシュレイを抱き寄せるようにして、ミシュレイの左肩にある紋章に左手で触れた。
「あ……」
ミシュレイが小さな声を洩らす。僕は一度に両手から治癒の光を出した。
「あンクぅ……ん、んン……」




