4 クィードの――自問
ライラが気力を高めていく。その身体の気力の白い光が、オレンジ色の輝きに変わった。
「奥義、破動気十字斬!」
オレンジの光がヒュドラの最後の首の根元を突き抜ける。
――と、ヒュドラの首が根本から跳び、その巨体も大きく斬られた。
オレンジ色の閃光が、見えない速度でヒュドラの周りを飛び交う。
が、やがてその光りが止み、ライラが姿を現した。
その瞬間、ヒュドラの巨体がバラバラになって飛散した。
「やりましたわ!」
プリシアの声に僕は頷いた。ミシュレイも微笑んでいる。
ライラはVサインを作って、僕らにかざして見せた。
ヒュドラ討伐は終わった。
僕らは街に帰り、ギルド支部に報告する。
ダールに泣かんばかりに感謝され、ダールがこちらに提案した。
「この街に是非、ご逗留ください! せめてもの感謝のしるしに、おもてなししたいと思います!」
僕は三人を見て言った。
「ああ言ってくれてるし――今日はこちらで泊まっていこうか」
「賛成だぞ!」「いいですね」「うん、いいんじゃないか」
三人も嬉しそうに賛成してくれたので、僕らはダールに案内されて、最高級のホテルに泊まることになった。
一人一室で、もの凄く広い。そして調度品が贅沢だ。
「うわぁ……こんな贅沢な部屋、泊まったことないな――」
僕が感心してると、ノックの音がする。
「どうぞ」
「おじゃましますわ」
そう言いながら、プリシアとミシュレイ、ライラが入って来る。
「わぁ、クィードの部屋はちょっとシックで豪華だぞ。こっちもいいんだぞ」
「あ、部屋によって、雰囲気違うんだ」
「ええ、それに気づいたので、みんなの部屋を見て回ってるところなんです」
プリシアが楽しそうに言う。と、その背後からダールの声がした。
「皆さま、部屋はお気に召しましたかな?」
ダールが笑いながら現れる。僕は答えた。
「ええ、もう充分に。こんな豪華な部屋に泊まるなんて初めてです」
「ゆっくりおくつろぎください。風呂で汗を流したら、部屋着にお着換えください。食堂で食事の準備が整う頃ですので」
「至れり尽くせり、感謝いたします」
僕がそう言って頭を下げると、ダールは首を振った。
「とんでもない。感謝してもしきれないのはこちらの方です。あのヒュドラに、どれだけの者が犠牲になったか――。けど、その悲劇を止めてくださった。あなた方は街の救い主ですから」
ダールはそう言うと、深くお辞儀をして去っていった。
来てよかったな――と思う。人に感謝されることをやりとげた、という喜びがあった。ただ……
「あ、じゃあ、あたしは風呂に入りにいくんだぞ!」
「わたしたちも、そうしますわ」
「うん。じゃあ、後でね」
僕はそう言うと去っていく三人の背中を見つめる。
みんな可憐な女性たちだけど――僕の頼もしい仲間だ。
それに対して僕は……
「――うわぁあ、凄いお風呂だぁぁ……」
思わず、声が洩れる。大理石を使用した、物凄く広いお風呂が、白い湯気をたてて僕を迎える。
汗を流して身体を洗い、湯船につかると――戦闘の疲労がとれる気がした。
ふと見ると、外に出られるドアがある。
僕はドアを開けて外に出ると、そこには露店風呂があった。
「わぁ……星を見ながら入れるのか――」
すっかり夜も更けて、空には星が瞬いている。
僕は湯船につかると、息をついた。
……判ってる。この軽い憂鬱の正体は、僕の決定力のなさ――を実感したことからくる迷いだ。
ライラもミシュレイも、プリシアも、ヒュドラの首を吹き飛ばすような必殺技を持っている。
それに対し、僕はそういう技がない。
というか、柔術それ自体は、そもそも対人に特化した技なのだ。
関節を極めて投げるなどの技は、そもそも間接倖造が違う生き物や、骨がないモンスターなどには通じない。そして今回のヒュドラのように、巨大すぎる相手は投げることができない。
けど、三人はそんな相手でも決定的なダメージを与える技を持ってる。
確かに僕はそれなりに強いかもしれない。――が、決定力という点では、彼女たちの方が上だ……
「参ったな。こんなこと、今まで考えた事なかったのに……」
僕は一人苦笑すると、風呂をあがった。
風呂を出ると、今まで着ていた服がなくなって、部屋着らしいものが置いてある。見ると、メモが置いてあり『まことに勝手ではありますが、服は洗濯させていただいてます。こちらの部屋着をお召ください』とある。
え~っ! 洗濯までしてくれてんの? 凄いサービスだ。
あ……弱体化ベルトまでないぞ? あれは革製だし、洗濯できないんじゃ…
「ま、しょうがないか。いい機会だから、気力を抑えていってみよう」
ちなみに気力を抑えること自体は、慣れるとそれほど大変なこともなく、ずっと続けられることだった。歩く時に、少し姿勢を意識する――くらいの感覚か。
部屋着自体はシルク製で、なんか美しい人以外は着てはいけないような、流麗な襞を持つゆったりとした衣装だった。
「ちょっと……王子様風だな――」
なんか、ちょっと気恥しい。けど、着心地はいいので、それで食堂に行ってみた。
僕が一番、最初だ。少しすると、女性陣がやってきた。
みんな、ゆったりとしたドレス風の部屋着を着てる。
というか、ちょっと巫女風か。
「おまたせしました」
プリシアが微笑む。ちょっと……見慣れぬ姿に、どきりとした。
その後は次々と豪華が食事が運ばれてくる。
僕らは舌つづみを打ちながら、歓談する。
凄く楽しい夕餉の時間だ。けど、ふとプリシアが僕に言った。
「クィード、どうしたんですの? なにか、気になってることでもありますの?」
……鋭いな、プリシア。
「どうかしたのか? 何か迷いがあるなら、ボクたちにも相談してくれよ」
「そうだぞ! 独りで悩むなんて、らしくないんだぞ!」
ミシュレイとライラの言葉に、僕は思わず苦笑した。
「かなわないな……」
「なにかあるのか?」
ミシュレイの問いに僕は息をつくと、みんなに言った。
「みんなは強いなって――思ってたのさ」
「何を言ってるんだぞ!? 一番強いのは、クィードに決まってるんだぞ?」
ライラが不満げに声を洩らす。僕は苦笑して、言葉を継いだ。
「いや、みんなはヒュドラの首をそれぞれ落としたけど、僕はできなかったなって。決定力に欠けてるなって――自分の戦力を振り返ってたんだ」
僕がそう言うと、皆はポカンとした顔をした。
「な……何を言ってるんだぞ?」
「――まったくだ。君が内部に浸透する攻撃ができたから、ヒュドラに隙ができたんだ。そんな事できるのは、君だけだろう?」
呆れた顔で、ミシュレイが僕に言う。ライラも、うんうんと頷いている。
「まあ……それはそうかもしれないんだけど――」
僕が苦笑いすると、プリシアが口を開いた。
「わたしたちに最後の攻撃を任せなきゃいけないのが――歯がゆい思いだったのですか?」
僕は――思わず顔を上げた。
そうだったのか……これは――『歯がゆい』という想い……
「そっか――これが、『歯がゆい』か……」
僕はやっと自分の気持ちが判って、プリシアに礼を言った。
「ありがとう、プリシア。教えてくれて」
この『歯がゆい』は……きっと『自分が』という気持ちと裏腹なのだろう。




