第二十三話 レイミアーズ始動! 1 パーティー登録
男の声がして、僕らは後ろを振り返った。と、ライラが声をあげる。
「あ! 注文票を返すんだぞ!」
「これは嬢ちゃんや小僧の集まった、新人パーティーがいけるクエストじゃねえんだ。死にたくないなら、俺たちによこしな」
そう口にしたのは、かなり屈強な体格の上に、黒と灰色の鎧を身に着けた男。
灰色の髪を短くカットしていて、わりかし歳だ。
どうやら背後から、ライラの手にあった注文票をかすめたらしい。
「先に獲ったのは、あたしだぞ! 注文票を返すんだぞ!」
「人の話を聞いてねえなぁ。お前らじゃ危ないから、俺たちに任せろって言ってんだよ」
見ると、男の背後にはちょっとむさくるしい感じの冒険者パーティー御一行がいた。全員が男で、しかも妙にゴテゴテした装備を身に着けてる。
「俺たちはBランクパーティーの『ヘル・リタニーズ』だ。俺はリーダーのベルドロ、Bランク冒険者だ」
「そんなこと誰も訊いてないんだぞ……注文票を返せって言ってるんだぞ――」
まずい! ライラの眼が据わってきた。
ウェストリアのサディールは、あんまり治安がいいところじゃなかった。セントリアみたいな都会で騒ぎを起こしたら、大変だ!
「ライラ! 落ち着いて! ――そこの貴方、もうクストはいいですから! そちらにお譲りします」
「何を言ってんだぞ、クィード! 冒険者稼業はナメられたら終わりなんだぞ! こっちが引き下がるなんて、絶対、嫌なんだぞ!」
ライラの怒りは僕に向けられた。よし、これでいい。これで相手への怒りが、僕に向く。
「待つんだライラ、僕らはまだパーティー名も登録してない新人なのは確かだ。クエストを受ける権利がまだないのに、注文票をとってしまうのはマナー違反かもしれないだろ?」
「うっ……」
僕に指摘されて、ライラが言葉に詰まる。
とにかく、あまり目立って騒ぎを起こすと、僕らの居場所が滅竜攻団に知れる。そうすると、また追手がかかる可能性が大だ。なるべく、戦闘は避けたい。
「ハハッ! 賢い兄ちゃんがいてよかったなぁ、これでお前らは命拾いだよ。嬢ちゃん、冒険者をやるんだったら、相手の力量くらい見極められるようにならないと――この先、生き延びていけないぜ」
ベルドロ、と名乗った男が薄笑いを浮かべながらそう口にした。
と、ライラがぎろり、とベルドロを睨む。
「相手の力量が判ってないのは、どっちなんだぞ……」
「は? 嬢ちゃん、どうした? マジで怒ってんのか!? 俺に喧嘩を売るつもりか? よせよせ、俺は女は夜しか相手にしないって決めてるんだ」
そう軽口を叩くと、ベルドロは注文票を持って去ろうとする。
するとライラが、僕を睨んで問うてきた。
「クィード! 力量が判ってないのは、どっちなんだぞ! あのオッサンか、あたしか!? ――ここで正直に答えなかったら、もう仲間になんかならないぞ!」
ライラの強い口調に、僕はがっくりしてため息をついた。
「あの人の方だよ……。君は正しい」
あ~……言ってしまった。言いたくなかったんだよ、話がややこしくなるから!
案の定、ベルドロが振り返って、凄い目つきで僕を睨んだ。
「おい、兄ちゃん、今なんか聞き捨てならねえことを言ったな? そこの嬢ちゃんより、俺の方が相手の力量を見極め損ねてると?」
「あ……はぁ…まあ――」
うわぁ……誤魔化しきれない。
と、ベルドロが突然、大声をあげた。
「いいだろう! そこまで言うなら白黒つけようじゃねえか! 奪取戦だ!」
ベルドロがそう声をあげた途端、ギルドの中が急に色めき立った。
「なんだ、奪取戦やるのか?」
「何処とどこだ!」
「どれくらいのランクの奴らだ!?」
急に騒ぎ出す周囲の冒険者たちに反して、僕はちょっと困惑していた。
「あの……なんですか、奪取戦って?」
「たまにあるのさ、クエストをめぐって二つ以上の者が権利を主張しあう。そういう時、皆の見てる前でギルドの見届け人も入れた上で奪取戦を行うんだ。このギルドの裏庭でな」
そういうとベルドロは、くい、と首を傾けた。裏庭に来い、という合図だろう。
一方、何も指示されてないのに冒険者たちがどんどん裏庭に移動を始めている。
そこに不意に、受付のお姉さんが現れた。
「これはどういう騒ぎなんです? そちらのミシュレイさんの登録者カードを持ってきたら――何故、こんなことに?」
「いや……ちょっとなりゆきでね」
ミシュレイは苦笑しながら、受付嬢から登録者カードを受け取った。
「なんだか面白いことが始まりそうですわね」
「浮かれてる場合じゃないよ、プリシア――もう、止められないけどさ」
僕はプリシアにそう言いながら、先行するライラを追いかける。
裏庭に出ると、ベルドロをはじめとした向うのパーティー四人が既にいた。
ベルドロがこちらに笑いかける。
「ここは冒険者ギルド、少々怪我してもすぐに治癒士がいるから、まあ戦闘にはおあつらえむきってことさ。ただな、即死しちまうとヒーラーでも治せないから注意しろよ。あと、治癒士もそれなりに吹っかけてくるからな、まあ高くつくと思いな」
僕はその話を聞いて、初めて疑問が沸いてきた。
「あの……治癒が高くつくって、どのくらい治癒費をとるんですか?」
僕の問いに、ベルドロが眼を丸くする。
「ギャッハッハッハ! このお兄さんは、傑作だなぁ! もう治癒費の心配してやがる――まあ、無理もないけどな!」
「いえ……僕、治癒士なんで戦闘後には、そちらから治癒費をいただくのがいいのかな、と疑問に思いまして……」
僕がそう言うと、ベルドロが眼を剥いた。
「なにぃ! てめぇ、お前が俺たちを治癒するってのか!」
「ええ……まあ――」
ベルドロの額に血管が浮かび上がるほど怒っている。
「おい……もし俺たちがお前に治癒費を払うような事があったら――一人100万ワルド払ってやるよ……」
「あ、それくらいが相場なんですか。ふ~ん、都会は高いなあ……けど、それだともう、クエストにいかなくてもいくらいの料金だなぁ」
僕はちょっとそう思った。だって、クエスト報酬が500万ワルド。この人たちは4人だから、400万ワルドってことになる。
う~む、どうしよう……
「おい! パーティー同士の奪取戦は代表戦か総力戦だ。どっちを選ぶ?」
そうベルドロに訊かれたので、僕はライラに訊いた。
「ライラ、どうしたい?」
「あたし一人でいいんだぞ……そっちは全員で来るんだぞ」
「――だ、そうです」
僕がベルドロを見ると、ベルドロは烈火のごとく怒りだした。
背後のパーティーのメンバーたちも怒りをあらわにしている。
「ふざけんなぁっ! てめぇ一人で、俺たち全員を相手にするって言ってんのか! ナメるのもいい加減にしろ!」
「うるさいな、それでいいって言ってるんだぞ」
ライラの一言がさらに怒りをかきたてる――かと思いきや、ベルドロの顔はすーっと静まっていった。
「そうかよ……どうやら世界ってのを教えてやらなきゃいけないようだな。ちょっと激痛がともなうかもしれねえが……ガキは痛い目みないと世間のことが判らねえからな」
「もういいか? もう始めたいんだぞ」
ライラは相手の怒りに頓着せず、そう口にした。
ベルドロがこっちに視線を向ける。
「おい、本当に1対4でいいんだな? メンバーの連中はどうなんだ?」
「まぁ……彼女がそれでいいって言ってるんで」
「そうだな――まあ仕方ない」
「ライラを応援しますわ!」
ミシュレイとプリシアの反応に、ベルドロは少し呆れたようだったが、受付嬢の方を見て口を開いた。
「ようし……それじゃあサーラちゃん、見届け人頼むぜ」
「本当にいいんですか――? もう、知りませんよ!」
受付嬢が片手を上げる。それが――開始の合図だった。
向かいあったライラと相手パーティーの四人が、睨みあう。
向うは剣士と思しきベルドロ、重戦士、魔導士、僧侶――のパーティーだった。
ライラの腕輪が光ると同時に、ライラは手の中に現れた黄金剣を横に振った。その剣線から、相手の四人全員を斬れる大きな弧の光の刃が飛び出る。
「フォース・シールド!」
向うの魔導士が力場による障壁でその光の刃を食い止める。
その防御策の向こうで、ベルドロがにやりと笑った。




