4 三人目の継承者
僕の声に、ライラは頷く。
「師匠から龍王具を譲られたんだぞ。そしてこのコも――あたしに応えてくれるんだぞ」
ライラは黄金剣を持つと、一気に突進した。鎖男が何本のもの鎖を放ち襲い掛かる。
「ダアァァァッ!」
ライラはその鎖をことごとく斬り払いながら、チェインへと急進する。
「オ、オデの鎖が――」
「ダアァァッ!」
一閃!
真向から斬り下ろした黄金剣は、チェインの中心線をすり抜ける。
――と、チェインの身体に巻き付いていた鎖が、バラバラに崩れ落ちた。
チェインの顔と身体の中心線には、赤い線が走っている。
「バカな! チェインが一撃で斬られただと!?」
ディカードの焦る声がする。
その一方で、虎ギドラが明確にライラを狙って火炎弾を吐いた。
ライラは黄金剣を振って、その火炎弾を斬り伏せる。
「この化物……あたしの父さんと母さんを殺した化物に似てる感じがする――」
ライラは鋭い目つきで、虎ギドラを睨んだ。
僕は声をあげる。
「それは君の両親を殺したものと同じ種類のモンスター、『擬竜』だ!」
「やっぱり、そうなんだぞ……」
ライラはそう呟いて、虎ギドラに黄金剣を向ける。
虎ギドラは火炎弾を吐きながら接近し、さらに爪でライラを攻撃しようとした。
しかしライラは跳躍しながら火炎弾を斬り伏せ、その爪攻撃を敢えて受ける。
ギリリ……と、虎ギドラがその巨体で、ライラに爪を立てようとしている。
ライラはその力を受け止めながら、虎ギドラを睨みつける。
「父さんと母さんの仇をうつために――あたしはここまで来たんだぞ。けど、もうそれだけじゃない。師匠があたしに大事なことを教えてくれた。そして、この剣もあたしを選んでくれた……」
ライラの全身から、ぶわり、と気力の光が炎のように立ちのぼる。
いきなり、眼にもとまらぬ速さで剣が翻る。
と、ライラを押し込もうとしていた虎ギドラの前足が、宙を舞った。
「あたしは大事な人々を守るために……剣をふるうんだぞ」
ライラの全身からあふれ出る気力は、やがてオレンジ色の光となってスパークした。
「奥義、破動気十字斬!」
オレンジ色の閃光が虎ギドラの身体をすり抜けるように見える。
と、虎ギドラの身体は、縦と横に綺麗に斬り分かれ、塊となって崩れ落ちた。
「くっ――擬竜まで、あんなにもあっさりと……あの娘の剣――相当の力のようですね」
ディカードは悔しそうに呻くと、巨大カードを出した。
「こうなってしまっては撤退です。さよなら、皆さん」
ディカードがカードに入り、そのカードが消える。
その時、ライラの声がした。
「鋭気飛来斬!」
横に振り抜いた黄金剣から、弧の光が飛び放ち空を切る。
と、その空中から、ディカードの姿が現れた。
「バ……バカな――亜次元にいる、ぼくを斬るなんて……」
その胴体に赤い線が走っている。ディカードは口から血を吐き出すと、その場に正面から倒れた。
「ふぅ……逃げるのを阻止したんだぞ。あ――けど、殺しちゃいけなかったんだぞ?」
ライラは慌てたように、周囲を見る。
と、僕が鎖男チェインを治癒してるのを見つけ、息を吐く。
「あ――そっちで治癒してたんだぞ」
「ディカードも見事に斬っちゃったね。一応、死なないように治癒しとこう」
僕は倒れてるディカードの処に駆け付け、斬られた腹に治癒の光をあてた。
「う……む――」
ディカードが小さな声で呻く。と、着けていたゴーグルが、ポロリと外れた。
線のような細い眼で、その眼で僕を見る。
「ぼくを……治癒してるだと――」
「一応、死なないようにね。君たちが自分のやったことを告白するとは思えないけど、罪を償わせることも必要だし……」
「バカな……」
ディカードは小さく呟くと、がっくりとうなだれた。
――と、そこに声が聞こえてくる。
「おぅい! クィード、こっちを頼む」
「あ、行かなきゃ。プリシア、こいつを拘束しといて」
「判りましたわ」
プリシアに滅竜士たちの拘束を任せて、僕は歩いてきたミシュレイとブレッカーの元に駆け付けた。
ミシュレイの肩を借りてるブレッカーが、ひどい傷だ。
「ミシュレイ、寝かせて。ブレッカーさん、治癒しますよ」
「悪いな、頼むぜ」
僕はブレッカーに治癒の光を浴びせる。
と、ふと疑問が沸いて来て、僕はブレッカーに問うた。
「あの~、治癒で気持ちよかったりします?」
「なに? ……いや、むしろ少し痛いくらいだが」
「ですよね~」
……だよな。どうしてプリシアとミシュレイは、あんなに気持ちよがるんだろう? あの紋章との相互作用なのか?
いや、だとしたら滅竜士たちを治癒した時、彼らも気持ちよくならないとおかしいな。やっぱり女性――ってことに関わりがあるんだろう。
そんな事を考えてるうちに、治癒が終わった。
「師匠、大丈夫なんだぞ!?」
心配そうに見ていたライラが、声をあげる。
ブレッカーが立ち上がりながら、笑ってみせた。
「ああ、もうすっかり大丈夫だ。クィードの治癒力は、ルヤード以上かもな」
「いえ、そんなことは……父さんは、村のみんなが心から頼ってたから」
僕はそう言って笑ってみせる。ブレッカーも軽く頷いた。
と、ブレッカーは拘束したディカードとチェインに眼をやると、僕らに言った。
「こいつらのことは俺に任せて、お前たちは街を出た方がいい」
「そうですか。けど、最後の龍王具の場所に、アテがないんですよ」
僕が言うと、ブレッカーがそれに答える。
「レフィーナが最後の戦いに行った後、一年くらい経ってからルヤードが俺の処に来た。その時に俺は彼らが『本当の敵』と戦っていた事を知った。つまり、俺は戦力にはならない――そう判断されて、俺には声をかけなかったんだ」
ブレッカーは少し寂しそうに笑う。
「そう決めたのはレフィーナだったと、ルヤードは言ってたよ。そしてその事で俺が怒るだろうけど、謝っといてくれ――って頼まれたそうだ」
そう話したブレッカーは、不意に上を見上げた。
眼に涙がたまっていく。涙を堪えたかったのだろう。
「……俺が知ったら、俺が片腕で戦力にならないのに、必ず一緒になって戦うから――レフィーナはそう言ったそうだ。そしてきっと、その戦いで命を落としてしまう、と……だから俺には明かさなかった。それでも俺は――あいつらと一緒に行きたかったよ……」
ブレッカーの眼から、涙が落ちる。
と、ブレッカーは左腕で眼をこすると、苦笑した。
「そんな事を後から知らされた時に、レフィーナが帰らぬ人となった事を聴かされた。そのレフィーナの犠牲によって、敵を封じることができたと。しかし、今後また現れる可能性がある、ともルヤードは言っていた」
僕は頷く。
「それで俺は訊いたんだ。レフィーナが持っていた龍王具はどうしたんだと。ルヤードは、レフィーナの弟弟子、レディアス・カミュが持っている、と言っていた」
「弟弟子? 柔術のですか?」
僕は驚いて訊いた。そんな話は初耳だ。
僕の問いに、ブレッカーは頷く。
「そうだ。その柔術家レディアス・カミュは『本当の敵』との戦いに参加した――と、言っていた」
ブレッカーの言葉に――僕は衝撃を受けた。




