3 龍王具の継承者
倒れた黒仮面卿の顔を見て、ミシュレイは言った。
「違う。この男はジャルドーじゃない。多分――前に虎ギドラと交戦した時、邪魔をした赤線仮面の方だ」
「じゃあ、ジャルドーは――逆に中央広場で虎ギドラを操ってる可能性があるな」
ブレッカーが苦し気な声を出す。
「が、何にしろ人質奪還は成功だ。クィードたちに知らせるんだ」
「判りました」
ミシュレイは掌を窓の方に向けると、そこから水光竜を一匹、それに向けて放った。
その水光竜は、ぐんぐんと空を駆け登っていく。
「よし……これでいい」
そう呟いたブレッカーが、がくりと膝から落ちそうになる。
「師匠! ――大丈夫なんだぞ? 早く治癒しないとだぞ!」
「多分、中央広場にいるクィードに治癒してもらうのが、一番早いだろうな」
ミシュレイの言葉を聴いて、ライラは焦る顔で言った。
「じゃあ、あたしが師匠を連れてくんだぞ!」
いきりたつライラに、ミシュレイは言った。
「おじさまはボクが中央広場に連れていく。ライラ、君は先に中央広場に行って、クィードとプリシアに加勢してきてくれ。多分、君が全力で駆けるのが早い」
ライラは神妙な顔で、ブレッカーを見る。
ブレッカーは苦笑してみせた。
「おい、あの二人を助けないことには、俺の治癒もありえないって事だぜ」
「判った――師匠、じゃあ行ってくる!」
「おう! 頼んだぜ!」
ブレッカーの言葉にライラは頷くと、いきなり駆け出し窓から飛び出した。
「おい、ここは五階! ――と言っても、大丈夫か」
ミシュレイが苦笑する。
ブレッカーも笑いながら、声を洩らした。
「頼りがいのありそうな顔つきになりやがって……」
フフ……と、ブレッカーはうつむいて微笑した。
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
赤黒の身体に二本の首を持つ虎ギドラは、好き勝手に火炎弾をまき散らしていた。そして虎ギドラを放置して、ディカードが声をあげる。
「この赤黒の竜を操ってるのは、白い竜です! チェイン、白い竜をまず倒しなさい!」
「オデの鎖で……シバるうぅぅぅっっ!」
鎖を全身に巻き付けた男チェインの背後から、何本もの鎖が白い竜に向かって飛んでいった。
そして白い竜――プリシアの身体が、太い鎖に何重にも巻かれる。
「アアァッ!」
プリシアが苦し気な声をあげた。
「ゲヘヘヘ……オデの鎖で締め上げてやるド」
チェインは薄笑いを浮かべながら、鎖を手にしてそれを引いた。
プリシアの白い竜身に、鎖が強く喰い込む。
「ア――アァァァァッ!!」
白い竜が首をのけぞらせて苦しむ。
「プリシア! ――やめろぉっ!」
僕は怒りが沸点に達し、チェインに向かって突進した。
が、その前にカードが現れ道をふさぐ。
「おやおや、いいんですか? 手出しをすると――赤髪の子が大変なことになりますよ」
ディカードが黒いゴーグルの下の唇に、薄笑いを浮かべた。
僕は血が出るほど、唇を噛みしめた。
「くそ……汚いぞ――貴様ら……」
「汚いのは、害獣である竜の方ですよ! さあ、チェイン! そのまま竜を、絞め殺してしまいなさい!」
ディカードが白い手袋の手を振る。
と、チェインが歓喜のよだれを垂らしながら声を上げた。
「ゲヘヘヘ……オデの鎖で――絞め絞めシメるぅぅぅぅッッ!!!」
――その時だ。
僕の視界の端で、光が上がった。
少し離れた処の建物から、一筋の光が天空に向かって伸びている。
あれは――ミシュレイの水光竜!
「ライラが救出されたんだ! もう人質はいないぞ!」
僕は弱体化ベルトを外して放り出すと、鎖で締め上げられてるプリシアに向かった。
プリシアを締めあげる鎖に手をかける。
「ゲヘヘヘ……オデの鎖を、人間の力で解くなんてムリなんだド」
勝ち誇ったようなチェインの声が聞こえる。僕は無視した。
「ウオオオォォォッ!」
僕は気合とともに気力を発揮して、その太い鎖を引きちぎった。
「なにぃぃぃぃ!?」
チェインの驚きの声のなか、僕はプリシアを拘束する鎖をバラバラに引きちぎってやった。
「プリシア、もう大丈夫だ!」
そう声をかけた瞬間に、白い竜の身体が光りを放つ。
それはみるみるうちに小さくなり――少女の姿のプリシアに戻った。
僕の腕の中で、傷ついたプリシアが微笑む。
「クィード……作戦は成功したんですね……よかった――」
「プリシア、よく頑張ったね。今、治癒するよ、治癒」
僕はその腕全体から治癒の光を出して、プリシアの全身を治癒の光で包んだ。
「なあにを勝手なことを! 治癒などさせるものか!」
僕の背中に向けてカードが飛んでくる気配がする。僕はそれを振り返ることなく、口を開いた。
「翼の盾!」
光のドームが僕らを包み、カードの爆発がそこで食い止められた。
「プリシア……大丈夫?」
「あン……クィード――こんな時なのに……感じてしまって……」
プリシアが、僕の腕の中で顔を赤らめる。
僕はプリシアに微笑む。
「いいんだよ、プリシア。治癒の光に身を任せて」
「アッ――んんぅ……あぁふ……あぁンン……」
プリシアが、僕の腕の中で身をよじらせて悶える。
その姿が可愛くていじらしくて――思わず抱きしめたくなった。
「――なんだド、こいつら! なんか、ドームの中でイチャイチャしてるド! ムカつくド!」
チェインが声をあげて、極太の鎖でドームを叩きつけようと振り上げた。
鎖が降って来る。――翼の盾で、もちこたえれるか?
僕がそう懸念した時だった。
凄い速度で飛んできた何かが、振って来る鎖をいきなり断ち切る。
「な――オデの鎖が!」
飛んできたものはヒュンヒュンと回転し、そこにある鎖を次々と寸断していった。さらにそこに凄い速さで突進してきた影がある。
「あ……大丈夫だったようですわね――」
治癒が完了したプリシアが、その飛び込んできた影を見て微笑んだ。
疾風のごとく舞い込んできた影――それはもちろん、赤いポニーテールの髪をなびかせたライラだった。
黄金の剣がヒュンヒュンと回転しながら空中を舞うと、ライラの手にピタリ、と収まる。
「仲間を傷つけさせはしないんだぞ」
黄金剣を手にしたライラが、鋭い目つきで鎖男たちを睨んだ。
「それに、あたしを人質にとった仕打ち……100倍にして返すんだぞ」
ライラは黄金剣をピタリ、と構えた。そして僕らは悟った。
「ライラ! 龍王具の継承者に――選ばれたんだね!」




