2 ライラ――覚醒
木の根にさらに襲われようとしているライラを庇い、ブレッカーの右の背に樹の根が突き刺さる。
「おじさま!」
「師匠!」
ミシュレイとライラが、その光景に悲鳴をあげた。
ブレッカーは振り返って、突き刺さった木の根を斬り払う。
が、さらにうなりをあげて飛んできたつるに、その胴体を打たれてブレッカーは転がった。
「グゥッ!」
床に転がったブレッカーにさらに木の根が襲い掛かる。
駆け付けたミシュレイが、薙刀でそれを斬り払った。その上で、水流のドームを作り、ミシュレイは倒れたブレッカーを助け起こした。
「大丈夫ですか、おじさま!」
「これくらいなんでもねぇ。ク――」
そう言いながらも、ブレッカーは膝立ちになった時に痛みに顔をしかめる。
「おじさま!」
「ミシュレイ――頼みがある……」
ブレッカーは懐から、小箱を取り出した。
それを開けると、腕輪が入っている。
実は事前に、クィードはブレッカーにいったんは預かった腕輪を返していたのだった。
「ブレッカーさん、これはお返しします。それは……ライラに渡そうと思ってたんでしょう?」
クィードの言葉に、ブレッカーは苦笑した。
「跡継ぎなんてガラじゃねえが――継承できる奴を育てれば、こいつもその主を取り戻すんじゃないかと思ってよ。けど、今のライラじゃあ、まだ力不足だ」
「そんなことないと思いますよ」
クィードは笑って言った。
「今、それを渡したら、完全に戦いに巻き込む。……そう思ったんでしょう?」
「……ああ」
静かに笑うブレッカーに、クィードは言った。
「けどライラには、この戦いを始める覚悟も、意志も――あるように僕には見えましたけど?」
「……お前は静かに人を諭すな。そういうところは、親父そっくりだよ」
ブレッカーは、笑いながらそう言った。
クィードは嬉しそうに微笑む。
「その腕輪は――ブレッカーさんから、ライラに渡すべきものだと思います」
クィードのその言葉を聴いて、ブレッカーは苦笑しながらその小箱を手に取った。
――そういうやりとりがあり、ブレッカーは龍王具『爪の剣』を持っていた。
それをミシュレイに差し出しながら、ブレッカーは言う。
「これを……ライラの元に届けられるか?」
「判りました。任せてください――水流陣を解きますよ」
ミシュレイがそう言うと、水流のドームが消える。
その途端、囚われたライラの声が上がった。
「師匠! あたしのために傷つくのはやめてほしいんだぞ! あたしのことなんか放っといて――その黒仮面をやっつけてほしいんだぞ!」
ライラは泣きながら、そう叫んだ。
その声を聴きながら、ブレッカーは立ち上がる。
「ライラ、聞け! お前に渡すものがある。卒業証書みたいなものだ! 今から、ミシュレイにそれを届けてもらうから――しっかり受け取れ!」
ブレッカーはミシュレイに腕輪を渡す。
と、ミシュレイの背中に三匹の水光竜が再び現れた。
「行きますよ、ライラ! 水竜突閃破!」
三匹の竜の真ん中の水光竜がミシュレイの手から腕輪を咥えていく。
そして三匹の水光竜は、ライラの元へと突進していた。
その行く手を阻むように、周囲から木の根やつるが水光竜に襲いかかる。
しかし真ん中の竜を庇うように、脇の二体の竜が完全にその攻撃を食い止めていた。
そして真ん中の竜は、ライラの腕にたどり着く。
唯一動かせる右手に、腕輪が収まった。
「これは――」
ライラがその腕輪を見た瞬間、腕輪は光を放ちライラの右手首にいつの間にかはまり込んでいた。
「この腕輪――あたしを選んでくれたんだぞ…?」
驚くライラをよそに、腕輪はさらに光を増す。
と、ライラの眼の前の空中に、一本の黄金の剣が現れた。
それは剣身が黄金でできている剣で、柄の処に青い結晶が埋まっていた。
何も触れていないのに、黄金の剣は空中に浮いている。
「この剣……触れてないのに――動かせるんだぞ――」
驚いたようにライラが呟いた瞬間、黄金剣が空中で舞うように閃いた。
直後――ライラを拘束していた樹の幹が、寸断されて弾け飛ぶ。
ライラは囚われていた樹の幹から抜け出し、床へと降り立った。
「あたしの……気持ちを受け止めてくれるんだぞ――」
ライラは驚きの中で、空中に浮かぶ黄金剣を見つめる。
と、そこにブレッカーの声が飛んだ。
「ライラ! それは龍王具『爪の剣』だ! お前を主と認めたってことだ――剣士として、もう充分だってことだよ」
ブレッカーはそう言って、笑ってみせた。
ライラが驚きのまま、ブレッカーを見つめる。
「師匠……あたしに――これを……」
「さあ、俺が教えた剣技を――俺に見せてくれ!」
ブレッカーの声に、ライラは力強く頷いた。
ポニーテールにした赤い髪が揺れ、ライラは黄金剣に眼を戻す。
手を伸ばす。と、一回、その場から離れて回転し、円を描きながら、黄金剣はライラの手の中に収まった。
ライラと比べると、かなり巨大な剣である。
「大きいのに……驚くほど軽いんだぞ」
ライラはそう呟くと、目に見えないほどの速さで黄金剣を振った。
と、ライラを拘束していた巨大樹が、バラバラになるほど寸断される。
そしてくるり、と振り返ると、ライラは黒仮面卿を睨んだ。
「よくもあたしに、やってくれたんだぞ……」
ライラの身体から気力の光が立ちのぼった――と、見えた瞬間、ライラは爆発的な速さで黒仮面卿に襲いかかっている。
「――!」
明らかに動揺した黒仮面卿は、掌をライラに向ける。
すると周囲から何本の樹のつる、根がライラに襲いかかった。
が、ライラは黄金剣でそれを全て斬り伏せ、ものともせず進む。
ライラは黄金剣を右肩上に振りかぶった。
「覚悟するんだぞ、黒仮面! 鋭気斬貫波!」
走り込みながら、剣を振り下ろす。
その斬撃から、細い黄金の光がカーテンのように走った。
その黄金の光が、黒仮面の身体の中心に当たり、すり抜ける。
「ゴァ……」
小さな呻き声とともに、黒仮面の仮面が真っ二つに割れ、黒仮面卿は倒れた。
「凄い……剣から、力が沸いてくるんだぞ」
攻撃をし終わったライラは、自分自身の力を信じられない思いで、黄金剣を見つめた。
黒仮面卿が倒れ沈黙した処に、ミシュレイと、ミシュレイに肩を借りたブレッカーがやってくる。
「ライラ、素晴らしい剣技だったぞ」
ブレッカーはミシュレイに肩を借りたままだったが、そう笑ってみせた。
「師匠……素晴らしい剣を、ありがとう。傷は、大丈夫なんだぞ?」
「あぁ、まあ――心配するな」
ブレッカーは笑ってみせたが、無理をしてるのは明らかだった。
と、倒れた黒仮面卿の顔を覗きこんだミシュレイが声を洩らす。
「これが……ジャルドーの顔?」
髪が妙にボサボサに伸びた冴えない感じの男である。ミシュレイは呟いた。
「違う――この男は……ジャルドーじゃない」




