第二十一話 奪還作戦 1 人質のライラ
そしてミシュレイとブレッカーは、中央広場を見下ろせる高い建物を探していた。ミシュレイは角の冠を着けて、鋭い目つきで辺りを探索している。
ミシュレイの眼には、空中から見るように周囲を眺めることができた。
「これが龍王眼か――便利なものだ」
使いながらも、ミシュレイは呟く。
ミシュレイは傍にある教会の塔、時計塔などを見てみるが、そこに気配はない。
「……そんな目立つところにはいないか――」
「じゃあ、逆に地味な建物の中か?」
ブレッカーの言葉を受けて、ミシュレイは周辺の高層建築の覗き込む。
そのうちの一つにレンガ造りの五階建ての建物があった。
その窓を覗いた時、ミシュレイは息を呑んだ。
何か植物の樹のようなものに囚われた、赤髪の少女がいる。――ライラだ。
「見つけた!」
「なに、何処だ!?」
ミシュレイは五階建ての建物を指さした。
「あの建物の五階。何か、樹のようなものに囚われてる」
「……よし、静かに接近しよう」
ブレッカーとミシュレイは、街の通りを抜ける。
と、周りで騒ぎが起き始めていた。
「竜が出たらしいぞ!」
「中央広場らしい!」
人々がばたばたと走り回っている。
「始めやがったな……」
「急ぎましょう」
ミシュレイの言葉に、ブレッカーは頷いた。
やがて目指す五階建ての建物の傍に到着する。二人は傍の建物の陰に隠れた。
「覗いてみます」
ミシュレイが敢えて建物を見ずに、うつむいた。
その眼鏡の奥の眼には、五階建ての建物を様子が移っている。
入口から入り込み、階段を上がる。
その途中、途中で攻団の構成員と思しき兵隊がいる。
そして最上階の五階には、床に根を這わせた大木が部屋の中にはびこっていた。
その樹の幹に挟まれるようにして、赤髪の少女――ライラが囚われている。
ライラには意識はなく、うなだれている。
その傍には――黒仮面卿ジャルドーの姿があった。
「いた――兵隊が13人。最上階でライラが樹に捕まっていて……傍にジャルドーがいる」
「二手に分かれよう。一階の正面から入る側と、五階にいきなり行く側」
ブレッカーの言葉に、ミシュレイは眼鏡の奥の眼を細めた。
「いきなり五階? どうやって行くの?」
「ん? 壁をつたって」
こともなげに言うブレッカーに、ミシュレイはため息をついた。
「じゃあそっちは、おじさまに任すわ。ボクは下で陽動しつつ、行けそうだったら上に上がる」
「よし、そうしてくれ」
二人はそう打ち合わせると、作戦を開始した。
まずミシュレイが出て行き、正面玄関に立つ。
ミシュレイはいきなり三匹の水光竜を出した。
「水竜突閃破!」
三匹の水光竜は玄関のドアをぶち壊し、中にいる兵士をなぎ倒した。
「行くぞ」
水光竜に続くように、薙刀を手にしたミシュレイが侵入する。
「攻撃されてるぞ!」
「――敵襲だ!」
中は動揺した兵士たちが慌てふためいているが、そこに入り込むと、ミシュレイは水光竜を思う存分暴れさせた。
「ギャアァッ!」
室内を金色の筋を持つ水竜が、縦横無尽に飛び回る。
一階はすぐに抵抗できる者はいなくなった。
ミシュレイは上を見上げる。
薙刀を天井に構えると、その切先から爆発的な水流の竜巻を放った。
「激水砲!」
水の竜巻が天井をぶち破り、二階にいた者が落ちてくる。
ミシュレイはそいつらも、水光竜の餌食にした。
一方、中で悲鳴が上がり始めた建物を見て、ブレッカーは笑みを浮かべた。
「フフ……派手にやってるようだな、嬢ちゃん」
ブレッカーはそう呟くと、建物の壁に向かって突進する。
「気力踏法!」
気力を発しながらブレッカーはジャンプする。その跳躍で、二階の壁の高さまで上がった。
が、そこからさらに壁を蹴り、さらに上へ。
計、四度の跳躍で、ブレッカーは五階の窓の傍まで跳躍しきった。
ブレッカーはそこから、窓をぶち破って室内に侵入する。
そこは室内一面が樹に覆われ、その幹にライラが捕まっていた。
「ライラ!」
ブレッカーは呼びかける。が、ライラの意識はない。
と、傍にいた黒仮面卿がこちらを向いた。
すると、傍の樹の根がブレッカーに向けて攻撃してくる。
ブレッカーはそれを鞘を抜ききらずに剣で防御すると、ライラの傍へと急進した。そしてブレッカーは、その剣を完全に抜く。
「ライラ!」
ブレッカーは手の中で逆手から順手に持ち替えると、ライラの傍の幹に斬りつけた。
一度斬りつけただけで、すぐに枝葉がブレッカーを襲ってくる。
ブレッカーはそれを後退しながら斬り払った。
「おい、ジャルドー、人質なんて汚ぇ真似、よくもしてくれたな。この代償は高くつくぜ!」
ブレッカーは左手一本で持った剣を、黒仮面卿に向けて構える。
グン、といきなり姿勢が低くなるような猛ダッシュで、ブレッカーは黒仮面卿に襲いかかった。
しかし左右から木の根が伸びてきて、ブレッカーの行方を阻む。
ブレッカーはそれを斬り払うのに手いっぱいだった。
「くそ、鬱陶しい! ――ライラ! 起きろ! 起きて、そこから脱出するんだ!」
ブレッカーは大声を出して、ライラに呼びかけた。
すると最初の斬りつけで、幹にほころびができたためか、ライラが少し眼を覚ます。
「う……此処は何処なんだぞ――? あたしは……どうなってるんだぞ?」
「ライラ、起きたのか! お前は拉致されて、監禁されたんだ。起きて、そこから脱出しろ!」
ライラはブレッカーの声に、そっちの方に視線を向ける。
「師匠……? 師匠が――あたしのこと、助けにきてくれたんだぞ?」
「おい、そこから早く抜けだせ!」
ブレッカーは襲い掛かる樹の根を払いながら、ライラに呼びかける。
ライラはそれに応えようと、腕に力を入れた。
「う……く――」
ブレッカーが斬りつけた、右腕の傍だけ緩みがある。
ライラは右腕を、そこから出した。
「く……けど、これしか動かせないんだぞ――」
足はがっちり捕らわれたままで、まったく動かせなかった。
その時、部屋の入口のドアが破壊されて、そこから兵士が吹き飛ばされて転がった。
それを追いかけるように、水光竜が突入してくる。
「ミシュレイ! 来てくれたか」
「ライラは――あそこですね。水光竜!」
水光竜をライラの囚われてる幹に向けるが、あちこちから伸びてきた蔓が、水光竜を叩き壊した。
「くっ、植物のくせになんて力だ!」
ミシュレイがそう口にした瞬間だった。木の根が一斉に、捕らわれているライラに向けて伸びていく。
それに気付いたブレッカーが突進し――その右の背に樹の根が突き刺さった。




