4 竜であることの誇り
一歩前に出たプリシアに、僕は声をあげる。
「プリシア、ダメだ! あいつの言いなりになっちゃいけない!」
プリシアがそっと僕に振り向く。プリシアは、微笑を浮かべていた。
「クィード……わたしは竜であることに恥ずべきところはまったくなく、むしろ誇りに思ってます」
「けどプリシア、今、変身したら――多くの人を敵にまわしてしまう!」
僕はそう言って、プリシアを止めようとした。
しかしプリシアは神妙な顔で言った。
「けど……わたしが正体を晒さなければ――あのディカードという男は、ライラを傷つけるのでしょう……それは避けなければ」
「君は――」
僕は絶句してうつむいた。
「人間はこんなに君にひどい事をしているのに、君は人間の少女のために自分を危険にさらすのか……。僕は――なんて君に詫びたらいいのか判らない!」
僕はそれしかできる事がなかったので――頭を下げた。
するとプリシアの声がした。
「やめてくださいクィード――」
僕は顔を上げた。と、寂しそうに微笑むプリシアの顔がそこにあった。
「今さら人と竜なんて違い……気にするんですか? わたしはもう、そんな事は気にしてないのに」
「プリシア……」
そうか――そうだった。そもそも僕は……プリシアが竜だからとか――そんな事は考えたことがなかったんだ。
「ご、ごめん、プリシア。むしろ、ゴメン!」
「いいえ……けど、わたしがそう思えたのは――クィード、あなたが最初に会った時から、自然にわたしに接してくれたから」
ふと……プリシアに最初に出会った時のことを想い出した。
倒れてる少女を担いで、その少女が竜になって――それで治癒して、プリシアがお腹を空かせて一緒にご飯を食べた。
「そして、あなたが竜であるわたしの姿を『美しい』と言ってくれたから……わたしは自分の姿に誇りを持ってます。大丈夫――わたしがどんなに人間に排撃されても……わたしの誇りは崩れません」
プリシアはそう言って、僕に微笑んだ。
そうだ……僕も、この後に起こる悪い予感に――プリシアが竜であることを改めて意識したんだ。
「さあ、ゴチャゴチャ言ってないで、早くその正体をさらしなさい! お前の醜い本性を見せてみろ!」
ディカードがプリシアに怒鳴る。きっ、とプリシアはディカードを睨みつけた。
しかしディカードは薄笑いを浮かべている。
「どうした? 反撃するかい? 構わないよ、所詮、ニンゲンの友人なんて、君には他人事だろうからねぇ」
「竜も人間も関係ありません……わたしにとって大切な人のために――わたしはわたし自身を見せることを恥とは思いません!」
プリシアがそう言い放った。と、その全身が光で輝き出す。
その光が、大きくなっていく。6mもの大きさになると、その光が止んだ。
そして――白い身体、黄金のたてがみを持つ光竜の姿がそこに現れた。
「竜だ! ほんとに竜だぞ!」
「竜が――人間に化けていやがったのか!」
周囲の人々から声があがる。
ディカードはその観衆に対して得意気に言ってみせた。
「ほぅら、ぼくの言った通りでしょう? 美しい少女の姿をして、人間をたぶらかしていたんですよ、この醜い竜は!」
「醜くなんかない!」
僕はディカードに怒鳴りつけた。怒りで――身体が震える。
「真に醜いのは貴様の心根の方だ、ディカード! プリシアの心とその姿は美しい――僕は誇りに思っている!」
「あ~あ、すっかり美しい少女の姿にたぶらかされてしまったんですねえ、憐れな少年よ。さあ、今こそ君を、その竜から救ってあげよう!」
ディカードはそう言うと、カードの束を両手の間でバラバラと移動させる。
と、そのカードのマシンガンを、ディカードはプリシアに向けた。
「ムッ!」
プリシアにカードが直撃する直前に、爆発を起こす。
「プリシア!」
爆煙の立ち込めるなか、プリシアの身体がぐらりと揺らぐ。
僕は怒りに囚われ、ディカードに突進した。手に出した杖を、ディカードに突き入れる。
「貴様、許さないぞ!」
「おっとぉ! そんなことをしていいんですか? それとも――あの少女は、竜の姫ほど大事じゃない、と?」
「くっ――」
僕は踏みとどまり、歯を食いしばった。
くそ……ライラを人質に捕られてる以上、抵抗ができない!
「クィード……もう少しの辛抱ですわ――」
竜の姿のプリシアが、僕に向かって声をあげる。
と、それとはまったく関係ない方向で、ディカードがわざとらしい声をあげた。
「あーっ、何をするんだ、こいつ! 自分の眷属を操って抵抗するとは!」
見ると、鎖男チェインの鎖に縛られていた虎ギドラが、突然、暴れ出す。
すると鎖男がわざとらしく倒れ、赤黒の虎ギドラの鎖が解ける。
鎖から放たれた虎ギドラは、二本の首を振りまわして火炎弾を辺りに吐き散らした。
その多数の火炎弾は、周囲の人々にふりかかる。
「うわぁっ! 竜が――暴れてるぞ!」
「た、助けてくれっ!」
建物が爆発し燃えだし、周囲の人々は一斉に逃げ出した。
「おやおや、いけませんねぇ――竜というのは、本当に野蛮な害獣だ」
ディカードがそう言って、薄笑いを浮かべる。
その笑みを歯噛みしながら見て、僕は祈っていた。
――まだなのか!? まだ、ライラは救出できないのか!
△ △ △ △ △ △ △ △
ミシュレイとブレッカーは、クィードとプリシアとは別行動をとって、ライラの探索をしていた。
事前の打ち合わせで、ブレッカーは言った。
「奴らの狙いはプリシアを悪の竜として公開処刑すること。手出しをしたら、ライラを処刑する――そう言って脅してくるはずだ」
それを聞いたクィード、プリシア、ミシュレイの顔に緊張が走る。
「そんな事――プリシアにさせられないよ」
ミシュレイが眼鏡の奥から、鋭い眼光を放つ。
それを受けて、クィードが言った。
「けど……もし中央広場にプリシアが現れなかったら――その時点でライラが危ない」
皆が息を呑んで、空気が一瞬固まる。
と、プリシアが発言した。
「わたしは――囮になりましょう」
「プリシア!」
ミシュレイが、青い髪を揺らした。
「奴らは――滅竜攻団は、どんな非道な手を使って来るかもしれないんだぞ。君は出ていっちゃ危険だ」
「いいえ。そのことでライラさんを危険にさらすくらいなら……わたしは、この身を差し出します。ライラさん――まだ少ししか会ってませんけど……凄くいい子です」
プリシアはそう微笑む。ブレッカーが、左手で顔を覆って声を洩らした。
「すまない……俺の弟子のために、君を危険にさらすような事になって」
「いいえ。そもそもわたしは狙われていて、ライラさんがそれに巻き込まれたんです。むしろ申し訳ありません」
プリシアはそう言って頭を下げる。と、ブレッカーは首を振った。
「いや、そもそも滅竜攻団を野放しにした、俺たちの責任なんだろう……」
ブレッカーがそう沈んだ声を出す中、クィードは口を開いた。
「二手に別れて、中央広場に出る組とライラを探す組に分けよう」
「しかし探すと言っても……いくらボクの遠視力があっても手掛かりがないぞ」
ミシュレイが考えながら顎に指をあてたが、クィードは言った。
「多分、人質をとって脅して来るからには……中央広場が見える位置にライラを監禁してる場所があると思うんだ」
クィードの言葉に、皆が眼を見張った。




