3 人質
ディカードは切り札をという言葉を使って薄ら笑いを浮かべる。
「貴様、まさかその切り札って――」
「ライラのことかっ!」
ブレッカーが怒りが混じった声をあげる。
「フフ……その通り。午後6時に中央広場! 面白い物を見せましょう。その場に、その竜はおいでなさい。――では、お待ちしてますよ」
そう言うとディカードはにやりを笑い、カードの奥へ引っ込む。
「待て!」
ブレッカーが追いかけるが、ブレッカーの手が触れる前にカードは消えた。
ブレッカーが、歯噛みをする。
「くそ……まさか奴ら――もうライラを拉致した後だというのか!」
ブレッカーが怒号をあげる。
と、がくりとうなだれるように、その場で膝をついた。
「俺のせいだ……せめて一緒にいれば――ライラの身くらいは守れた。ライラを突き放して一人にしたから……さらわれてしまったんだ」
ブレッカーが地面を左手で叩く。
僕はその間にも倒れているプリシアに駆け寄った。
「プリシア! 大丈夫かい!?」
「クィード――あいつが……お父様を――」
「判ってる。とにかく、治癒するよ」
僕は翼の盾のドームを作り、プリシア僕を囲った。
大岩に背中を打ち付けた以外にも、細かい傷が沢山ある。
「じゃあ、いくよ」
「あ……」
プリシアが吐息を洩らす。僕はプリシアに治癒の光を浴びせた。
「あ――ンっ……」
プリシアが顔を赤らめて、白い首をのけぞらせる。
僕はさらに治癒の光を強めた。
「あっ、あン、あ、あぅふ……くぅン――あ、あぁン――」
「プリシア、あまり声を出さないで」
身をよじりながら悶えるプリシアに、僕は言った。
プリシアが涙目になって、僕を見る。
「クィード……そんなこと言われても……」
「もう少しで終わるから」
「あぅンっ、あふっ、あ、あン――」
プリシアが僕の治癒してない方の手を握る。僕がその手を動かすと、プリシアは指を開いて、僕の手の指の間に自分の指を差し入れた。
「クィード……わたし――わたし……」
「もうちょっとだよ」
赤くなったプリシアが、声を押し殺すように拳を口にあてながら、もう一方の指を絡ませた手で僕の手を強く握りしめた。
「アァァッ――あふ……」
ビクン、とプリシアが震え――おとなしくなった。
「はぁはぁ……」
「頑張ったね、プリシア」
僕はその金髪を撫でてやる。プリシアは嬉しそうに、頬を赤らめた。
僕はドームを解いて、ブレッカーとミシュレイの方を見た。
が、その姿がない。どうやら二人はブレッカーの壊された家に入ったようだった。――多分、プリシアの治癒に、ミシュレイが気を利かしてくれたんだろう。
僕とプリシアが家の方に行くと、家の中でブレッカーとミシュレイが片づけなどしていた。
「プリシア、もう大丈夫なの?」
「はい、クィードに治してもらいましたから」
ミシュレイの問いに、プリシアが微笑して答える。ミシュレイは少し赤くなって、軽く頷いた。
「ブレッカーさん、とりあえず街に戻りましょう。午後6時って言っても、あと2時間ほどだ」
「そうだな……くそ――」
ブレッカーは歯噛みをする。ライラがさらわれた事が、相当に心配らしい。
僕は訊いてみた。
「ブレッカーさん、この街に攻団の建物とかないんですか? そこに監禁されてる可能性もあるんじゃ?」
「攻団の建物はないが――教会なら幾つもある」
ブレッカーが考えながら言った。
「しかし、その教会のどれに潜んでるかまでは――探りようがない」
「特定はできなくても……探ることはできるかも」
不意にミシュレイがそう言葉を洩らした。
「どういうこと、ミシュレイ?」
「どうもこの『角の冠』――つけると、遠くにあるものを見ることができるらしい。さっき気が付いたんだ」
ミシュレイは頭にある金色の冠を指さした。と、プリシアが声をあげる。
「龍王眼ですわ。お父様の能力の一つです」
「何処にいるか、街に戻って片っ端から探るか……」
ブレッカーが顎鬚を撫でて呟くが、僕はそれに対して声をあげた。
「いや、午後6時まで待ちましょう。ミシュレイがそんな力を持ってるなら――こちらにも出方があります」
僕の言葉に、皆が真剣な顔で頷いた。
* * * * *
午後6時――よりも前の事だった。
中央広場に向かっていると、何やら街が騒がしい。
「竜が出たぞ!」
「中央広場で暴れているらしいぞ!」
街の人々が中央広場から離れるように、駆け出していく。
僕とプリシアはその流れに逆行するように、中央広場へと向かった。
「あれは――」
そこにいたのは、前に取り逃がした虎ギドラだった。
虎ギドラは、当たり構わず火炎弾をまき散らしている。
「ゴォウハッ!」
火炎弾が周囲の建物を破壊し、炎が燃え広がっている。
そこに現れたのは、鎖男チェインだった。
「オデの鎖で――シバるゥっ!」
チェインの背中から、四本の鎖が飛んでいき虎ギドラに巻き付く。
虎ギドラが悲鳴のような咆哮をあげた。
と、その傍にカードが現れ、そこからディカードが出てくる。
ディカードは薄笑いを浮かべながら声をあげた。
「皆さん! 我々は滅竜献身攻団より派遣された滅竜士です! この竜による被害を、喰いとめにきました!」
ディカードの声に、遠巻きに見ていた街の人々が声をあげる。
「早く、竜を駆除してくれ!」
「頼む! 竜をはやく殺っちまえ!」
その周囲からあがる声に、ディカードは両手をあげて応えた。
が、さらにディカードは声を張りあげる。
「すぐにでもそうしたいのは山々なんですが、我々は重要な事実を掴んでいるのです。それは――この竜は操られているという事です!」
ディカードがそう声をあげる。こいつ――何を言い出すつもりだ?
その言葉を聴いて、街の人が反応する。
「はやく、その操ってる奴もやっつけてくれ!」
「そいつは、竜の味方なんだろ!」
街の人々の声に、ディカードは片手を上げて制するような仕草をみせた。
「お静かに。その操ってる者とは――他ならぬ竜なのです。しかもその竜は、何喰わぬ顔で人間に化けて、この中に混じっている」
ディカードは人差し指をたてると、敢えてぐるりと周囲を見回した。
と、その動きがプリシアの方を向いた時に止まる。
「そう、そこで見ている女! お前が竜なのは判っています。正体を現しなさい!」
――こいつ! なんて事を言い出すんだ!
プリシアが青ざめた顔で、僕を見る。と、ディカードはさらに言った。
「正体を現さないというのなら、我々も切り札を使う――いや捨てるしかありませんよ?」
ディカードはそう言うと、にやりと笑った。こいつ、ライラの人質に、プリシアが竜であることと皆の前で暴露するつもりだ!
だがその言葉を受けて――プリシアは静かに一歩前に歩み出た。




