2 龍王具:角の冠の真価
残された左腕にもブレッカーは負傷している。放っておいたら全く戦えなくなると判断した。
「治癒します!」
僕はブレッカーに治癒の光を浴びせた。
「すまねえ」
しかしそこに鎖の攻撃が襲来してきた。
治癒の邪魔をするつもりか!
「翼の盾!」
僕は翼の盾をドーム状に展開して、鎖の攻撃から僕とブレッカーを守った。
ディカードのカード爆弾も、光のドームの壁に阻まれる。
「オデの鎖が――弾かれる……」
「かなり強力な防御壁ですね」
ディカードが白い手袋の拳を顎にあてる。
が、その停滞感を破るように、悲鳴が響き渡った。
「きゃああぁっ!」
「もうよい! 遊びは終わりだ、光龍王の娘!」
ジャルドーの影が、プリシアの両腕を捕まえて宙づりにしてる。
「プリシア! 離せ、ジャルドー!」
ミシュレイが水流砲をジャルドーに放つ。が、ジャルドーは影の剣で、水竜砲を叩き割った。
「うるさいぞ、この小娘どもが!」
ジャルドーの影が、プリシアをいきなり凄い勢いで放る。
プリシアの身体が、傍の大岩に激突した。
「アアァァァッッ!!」
プリシアが悶絶し、その身体がぐったりとなって地面に落ちる。
僕は激昂した。
「プリシア! この――」
ジャルドーに向かおうとする僕に向かって、ディカードのカードが飛んでくる。
「くっ! 小気旋!」
からくも気流渦で受流すと、カードは僕のすぐ傍で爆発した。
「うっ!」
意外な至近距離の爆発で、僕は少し衝撃を受けて飛ばされる。
倒れた僕に、ディカードの声が響いた。
「ジャルドー様の邪魔はさせませんよ」
「次は貴様だ、シュラ!」
黒仮面卿の声に、ミシュレイは怒りの声を返す。
「その名前で――ボクを呼ぶなぁっ!」
水竜がジャルドーに向かう。が、ジャルドーは影の矢を何本も放って、その水竜をかき消した。
と、気付くと、ミシュレイのすぐ傍にジャルドーの影が迫っている。
「しまっ――」
眼鏡の奥の眼が驚きに開かれるなか、ミシュレイの両腕が影に捕まった。
ミシュレイの細い腕が掴まれて、宙に吊り上げられる。
「クッ……放せ――」
「お前もあの娘みたいに岩にぶつけるのもいいが……細い腕だなシュラ。あれほど鍛えるように言ったのに」
「黙れ……ぐっ、アァァッ!」
黒い影がミシュレイを吊り上げ、その腕に過度な負荷をかけている。
捻じ曲げるか、ちぎるか――ミシュレイが苦悶の表情で悲鳴をあげた。
「ぐあぁ――アアァァァッッ!」
ミシュレイが悲鳴をあげる。
「ミシュレイ!」
ブレッカーが声をあげて駆け付けようとするが、鎖男の攻撃に阻まれる。
僕は爆発から受けたダメージを、まだ自己治癒していた。
ダメだ、治癒をしてる場合じゃない! ミシュレイを助けなければ!
そう決意して立ち上がった瞬間だった。
「もうよかろう、諦めて我が影の餌食となれ。……お前の先輩の滅竜士がたどったようにな」
「貴様……滅竜士たちも――手にかけたというのか…?」
ジャルドーは黒仮面の中で小さな含み笑い声をあげた。
「仕事の出来ぬ者、攻団の方針に異を唱えたり、疑念を抱いた者……そういう者を、全て我が手で粛清してきたのだ」
――なんて奴だ。こんな非道な奴が……組織の中心に?
「幼い頃から役に立つかと眼をかけてきたが――お前は期待外れのクズだったよ、シュラ」
ジャルドーが冷たい声でそう言った瞬間、影の大きさが一気に盛り上がった。
ミシュレイが――ちぎられる!
「ウワアァァァァ――ッッ!!!」
ミシュレイが悲鳴を――いや、あれは怒号だ。
あのミシュレイが、感情をあらわにして怒りで叫んでいる。
その捉えられた腕の指先が、突如として光り出した。
あの指輪は――
「許さんぞ、ジャルドーっっ!!」
ミシュレイの叫びとともに、指輪の光がミシュレイの頭部に移る。
その光は――三本の角を持つ王冠のようなものに変化した。
中央の前部に長く伸びる一本、そして耳の後ろから二本の光の角が伸びている。
その三本の角は、強い光を放っていた。
「……あれは――まさか、龍王具を持っていたのか?」
ジャルドーが驚きの呟きを洩らす。
ミシュレイの眼が――眼鏡ごと輝く。
「水竜突閃破ァァァッ!」
ミシュレイが吠えた。
と、その瞬間、三体の水竜がミシュレイの背中に現れる。
しかし、その姿は見慣れた水竜ではない。水竜に光の線が混交していて、その姿はさながら水光竜だった。
しかもその水竜が三体! その規模、美しさ――それはシュート・クローネの見せた水竜に勝るとも劣らないものだった。
三体の水光竜は、ミシュレイを捕らえてる影を瞬く間に喰いちぎった。
「な――我の影を喰いちぎるだと!?」
「ジャルドー! 今までの悪業! その身で後悔するがいいっ!」
三体の水光竜は、暴れ狂うがごとく黒仮面卿に襲いかかった。
ジャルドーは初めて影で壁をつくり、水光龍の攻撃を防御する。
「バカな……この威力――」
黒仮面卿ジャルドーの声が洩れるなか、水光竜は影の壁をも食い破った。
そしてジャルドーに喰らいつくと、ジャルドーの身体がその勢いに吹き飛ばされる。
「グオオォォォォ――」
「ジャルドー様!」
飛ばされるジャルドーの背中にカードが現れ、ジャルドーの身体がそこに吸い込まれる。と、そのカードは水光竜が追い打ちをかける前に、消えてしまった。
「ディカード! ジャルドーを隠すか!」
怒りを帯びたミシュレイが、ディカードを睨む。
ディカードはゴーグルの下の口に笑みを浮かべる。
「へ~、いつもクールな君も、そんな顔ができるんだねえ」
「戯言はいい。……貴様もただでは済まさん」
「お~、恐い恐い」
そう言いながら、ディカードは傍に出したカードの中に入り込む。
と、鎖男チェインの傍に、カードが現れた。
カードが少し開くと、中からディカードが顔を出す。
「チェイン、形勢逆転です。帰りますよ」
「オデの鎖……まだ誰も縛ってないド――」
「いいから」
ディカードがチェインを中に引っ張り込む。ミシュレイが声をあげた。
「逃げるのか、ディカード!」
「逃げるんじゃありませんよ。まだ切り札はこっちにあるんです」
にやり、とディカードが笑う。
「切り札……だと?」
僕は治癒が終わる中で、その言葉に意識をとめた。
その切り札って――まさか!




