4 来襲、新たな滅竜士!
僕はこっそりプリシアに訊いた。
「あ…あのカード使う奴、なんて名前だっけ?」
「え? あの方に――お会いしましたっけ?」
そこからか~、プリシア!
「『絵札の』ディカードだ!」
横からミシュレイが声をあげる。あ~……ちょっと、ミシュレイに記憶力ないって思われたかも――
「まさか――ぼくの事を忘れてたんですかね?」
ディカードが口の端を吊り上げて、そう声をあげる。
「覚えていたさ! ……ただ、名前まではちょっと――」
「戯言はいい。ディカード、今度はボクたちを始末にきたわけか。その鎖男はなんだ?」
ミシュレイが厳しい顔で、ディカードに問う。
ディカードはにやにや顔を止めず、それに答えた。
「彼は特滅衆、鎖魔法の使い手『鎖男』チェイン!」
「……まんまだな」
ブレッカーが呆れた声を出す。
それに対して、ディカードは笑いながら答えた。
「そうですよね~、そう思いますよね~! ぼくもそう思うんです、『鎖男』で、名前まで『チェイン』! 何処までも芸がないネーミングだと!」
ディカードはそう言うと、白い手袋の指を額にあててみせた。
そしてその姿勢のまま、さらに言葉を続ける。
「けどね、彼にはそれしかないんですよ。そしてね~……それが彼のいい処です!」
ディカードは白い手袋で、鎖男を指さした。
すると鎖男――チェインの前に、大きなカードが現れる。
「オデの鎖――」
何本もの鎖が、チェインの背後から前に飛んでいく。
と、その鎖がカードの中へ消えていった。
「何処だ!?」
不意に、プリシアの斜め後ろに現れたカードから、鎖が飛び出してきた。
「あぁぁっ!」
速い動きで、プリシアの首に鎖が巻き付いている。それを取ろうとしたプリシアの腕にも、鎖が巻き付いてプリシアを締めあげた。
「あ――アァァッ!」
鎖は鎌首をもたげる蛇のように地面から立ち上がり、首や腕を締めあげたプリシアを持ち上げた。
「プリシアッ! ――こいつ!」
僕はチェインに全気力を爆発させて突進した。
しかしその途中で、三枚の巨大なカードが僕の前に立ちふさがる。
「邪魔だ!」
僕は杖を出して、そのカードを叩きはらう。
が、そのカードが消えた処に、チェインはいない。
「くそ、何処だ!?」
振り返ろうとした僕の背中に衝撃が走る。
「ぐ――はっ!!」
鎖だ。あの極太の鎖が、僕の背中に打ち付けられたのだった。
「クィード、大丈夫!?」
ミシュレイがそこに割って入り、薙刀から水流砲を発射した。
「水流波!」
「鎖が水に負けるはずないド……」
チェインはさらに鎖を振り回すと、水流砲を破壊する。そしてその勢いのまま、ミシュレイに叩きつけようとした。
「ミシュレイ!」
僕は背中に受けた衝撃が強すぎて、すぐに動けない。
水流を破壊した鎖がミシュレイに襲いかかった時、それを受ける金属音が響き渡った。
「ブレッカーさん……」
「こいつは硬いな――」
抜き切らない剣で、ブレッカーが鎖を受けている。驚いているミシュレイに、ブレッカーはにやりと笑ってみせた。
「――しかし、シュートのヤツなら、こう言うだろうぜ。『どんな硬いものであれ、私の水魔法の前ではチーズに等しい』とかな」
ブレッカーが悪戯っぽく笑い、ミシュレイは眼を見開く。
が、すぐにミシュレイは何かを悟ったようだった。
「判ったよ、ブレッカーのおじさま」
「おじさま、かあ。そりゃあ、悪くない響きだ」
ブレッカーは笑みを浮かべる。
と、ミシュレイは薙刀の先に、丸い水球をつくっている。
「水は速ければ速い程、その斬撃力を増す! 行くぞ、水刃球!」
ミシュレイがその水流の球を発射すると、ブレッカーに止められていた太い鎖がズタズタに切り裂かれた。
「えぇっっ!?」
さすがの僕も驚く。けど、ミシュレイは次の水流球を作り、チェインを狙っていた。
「今度はその身にくらいなさい!」
しかしその水流球の前に、カードが現れる。
水流球はカードの中に、吸い込まれるように消えた。と、ディカードの笑い声がする。
「シュラちゃ~ん、ちょっと見ない間に腕を上げたんじゃないの?」
「その名前で呼ぶのはやめろ! ボクは……シュート・クローネの娘、ミシュレイ・クローネだ!」
そう言うと、ミシュレイの背後に水の竜が現れる。あれは――ミシュレイが、父親に貰った技だ!
「水竜突閃破!」
水竜がディカードに襲いかかる。が、ディカードはカードを出して、その水流をカードの中に導き入れた。
「どんなに斬撃力があろうと、ぼくには関係ないからね」
「そうかい!」
ミシュレイは二体目の水竜を出すと、さらにディカードに襲いかからせる。
左から襲い掛かった水竜に、ディカードはもう一枚のカードを出して吸い込む。
「フフフ……大体ですね、ぼくはあなたが生きてること自体が計算外だったんですよ。まさか滅竜呪を受けて、それでも生きてるなんて……」
ディカードは僕をちらりと見る。
「まさか、そんな強力な治癒士がいるとはね……。おかげで少し、ジャルドー様に叱られちゃいましたよ。だからこうして、自らやってきてるんです!」
ディカードは二枚の大きなカードに水竜を吸い込んだまま、指を鳴らすとその指をミシュレイに向けた。
と、その指先から普通サイズのカードが飛んでくる。
しかしミシュレイは眉一つ動かさずに、自らの周囲を水流のドームで囲った。
その水流が、カードの攻撃を阻む。
――今がチャンスだ。僕はずっと地面に伏せたまま、治癒を自分に施してダメージを回復していた。そして回復は終わった!
僕はダッシュすると、チェインの懐まで接近した。
「いきなり――オデの……近くまで!?」
チェインが僕の速さに驚いているが、もう離れることはできない! 僕は掌で、鎖が巻き付いた奴の身体に触れた。
「こんな近くでオデに攻撃――きくわけないんだド」
鎖の隙間から見える口が笑みを浮かべると、至近距離の僕を狙って、何本もの鎖が僕に襲いかかろうとする。
だが僕は構わずに、掌から気流の渦を――内部に起こしてやった。
「旋気内撃破!」
鎖を通り越して、気流の渦による衝撃がチェインの内部に浸透する。
「うぇえ!? ぐぇ……ゲェ――」
僕に襲いかかろうとしていた鎖が、バタバタと地面に落ち、チェイン自身も後ろによろめく。
すると、プリシアを持ち上げていた鎖が、ガシャンと音をたてて地面に落ちた。
「プリシア、大丈夫!?」
僕はプリシアに駆け寄り、横たわったプリシアを助け起こした。




