3 ライラ・スパークス
僕らはサムにシンエンド迷宮の場所を訊いて、街の外れへと向かった。
しかし段々と薄暗くなり、夜が更けてくる。
僕は思わず、声を洩らした。
「ブレッカーさんたちは、もうダンジョンに潜ったんだろうか?」
「とりあえず、そう考えて追いかけるしかないだろう」
ミシュレイは、眼鏡を中心部で抑えた。
僕は頷くと、皆でシンエンド迷宮に向かった。
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ライラ・スパークスは、ちょっと色々納得できないことがあって、頬を膨らませて歩いていた。
「し~しょう、どうしてあの時、あたしまで一緒に蹴ったんだぞ?」
その背中にそう問うと、ブレッカー・ストラグルは銀髪の頭を少し傾けて、ライラを見る。
「そりゃあ、お前……あの狼だけ蹴ったら、不公平だろうが」
「あいつは師匠を狙って来た敵だぞ? そのまま一緒にやっつければよかったんだぞ」
「お前が『師匠が出るまでもない』とか言ったんだろ?」
ブレッカーにそう指摘され、ライラはぐうの音も出なくなる。
「そりゃあそうだけど……それにあの三人。あいつら何者なんだぞ?」
「俺の昔の知り合いの子供たちだ。まあ、俺には関係のない話だ」
ブレッカーはこともなげに言う。ライラはどうも、承服しかねた。
「師匠、何か隠してるぞ」
「当たり前だ。どうして俺のことを全部、お前に教える必要がある?」
「師匠と弟子なら、当然のことなんだぞ!」
ライラは不服の声をあげるが、ブレッカーは意に介した様子はない。
「そんなつまらない事を気にしてるぞ、モンスターを見逃すぞ」
ブレッカーはそう言いながら、シンエンド迷宮をどんどんと先へ進んでいく。
ライラは送れないように、慌ててそれについていった。
と、ライラは横穴から気配を感じて、剣を構える。
横穴から飛び出てきたのは、フレイムバットという巨大コウモリだった。
「師匠、来た!」
「適当にやっとけ」
ブレッカーに言われ、ライラは剣を振る。瞬く間に、三匹のフレイムバットが両断された。
と、他のフレイムバットが炎を吐き出す。
「オーラシールド!」
気力で作った防御壁で、火炎を防ぐ。と、すぐさまライラは、フレイムバットを斬り割った。
しかし、フレイムバットはまだ洞穴内の高い場所にいる。そのままでは届かない。
「でぇい!」
ライラは岩壁に向かって駆け出すと、そのまま岩壁を駆けあがった。
と、しばらく岩壁を登った後で、壁を蹴ってフレイムバットの群に飛び込む。
「回転波紋斬り!」
身体を一回転させつつ、横に剣を振る。
円を描いた剣から気力の波紋が飛び出し、フレイムバットの群を斬り割った。
「ふぅ――」
と、地面に降り立ったライラは息をつく。
ライラはフレイムバットの群が一匹残らず地面に落ちるのを確認すると、ブレッカーに向き直った。
「師匠、見た見た? あたしの技! よくなくな~い?」
「調子に乗るほどのデキじゃないぞ。……まあしかし、よくやった」
「へへ~」
ライラは嬉しそうに、鼻の下を人差し指でこすった。
その後もライラは出てくるモンスターをことごとく倒していくが、全く危ういところはなかった。
そのうち飽きてきたのか、ライラはブレッカーに言った。
「師匠、目的のタートルタイガーとかいうのが出てこないんだぞ」
「レア種らしいからな。簡単に出ないから、クエストになったんだろ? もうちょっと落ち着いて、しっかり警戒しろ」
「はあい」
ちょっとふてくされた顔を見せたライラに、ブレッカーは苦笑した。
が、その顔が直後に真顔になる。
「ライラ!」
「――ん? なんだぞ、師匠?」
「何かが接近してるぞ、警戒しろ!」
ブレッカーの緊張した面持ちに、ライラも顔を引き締める。
少しして、ライラもその気配を感じ取った。
「なんだぞ……この気配?」
「出てくるぞ」
ブレッカーが言った通り、その気配は洞穴の向うから近づいてきた。
その姿を見て、ライラは少し息をつく。
「なんだ、子どもだぞ」
「――オレは子どもじゃないぞ! もう15歳だ!」
出てきた少年はオレンジの髪をパッキンパッキンに逆立て、やたらと勢いのある声でそう怒鳴った。
ライラは少し呆れる。
「充分、子どもなんだぞ」
「お前、少し年上だからって、偉そうにするなよ! それにオレが用があるのは、お前じゃない。そこのオッサン!」
オレンジ髪の少年は、ブレッカーを指さす。
「まあ……俺がオッサンなのは否定しないが――なんの用だ? 竜」
ブレッカーの言葉に、隣のライラは驚きの声をあげた。
「師匠、あいつ、竜なの? 子どもだぞ!」
少年を指さして、信じられないといった面持ちで声をあげるライラを見て、少年は笑った。
「オレが竜だと、よく判ったな、オッサン」
「……判るもなにも――お前、竜気を出し過ぎだ。イヤでも判るさ」
「フフン、お前がブレッカー・ストラグルだな?」
「そうだが」
ブレッカーが答えると、少年はにやりと不敵な笑みを浮かべた。
と、思うや否や、少年は口から凄まじい火炎砲を吐き出した。
「え――」
急な事に戸惑うライラの前に、ブレッカーが立つ。
そして左手で剣を抜くと、全身に気力を行き渡らせた
「気力壁!」
鞘から抜ききらない剣を角にして、火炎が左右に分かれて散っていく。
火炎を防御しきると、ブレッカーは少年に言った。
「おい、挨拶もなしにいきなり攻撃か。……しつけがなってねえな」
「フン、その火炎がオレの挨拶さ。オレは火龍王の息子バースド。お前に、報いを受けさせてやる。竜火剣!」
バースドは手の中で炎の剣を作り出すと、ブレッカー目がけて襲い掛かってきた。
しかし、ブレッカーに斬りつける前に、ライラがその前に飛び出す。
「師匠をやらせたりしないんだぞ!」
ライラがバースドの火炎剣を剣で受ける。
が、その剣圧に押し負けて腕が曲がり、その衝撃でライラは吹っ飛ばされた。
「う――わぁっ!」
「ニンゲンの小娘が、オレに立ち向かうなど100年はえぇ!」
バースドはライラに目もくれず、ブレッカーに襲いかかる。
横切りに薙いできた火炎剣を、ブレッカーの鞘から抜かない剣が受ける。
「むぅ……ぐ――」
「オッサンはそこそこやるようだな。だが――」
その至近距離の状態で、バースドが口から火炎を放射する。
顔面すれすれのところでブレッカーは顔を背けてかわし、その炎を吐いてる顎を、左手で持つ柄で打ち上げた。
「グフッ――」
顎を打たれて火炎が途切れ、口の中で火炎が爆発する。
ブレッカーはすんでのところで跳び退って距離をとった。
「あぁっちぃっ! このヤロー、よくもやってくれたな!」
バースドは火炎剣を消すと、両手に火炎弾を作り出した。
「燃え尽きやがれ!」
その火炎弾を次々とバースドは投げ始め、辺りは爆炎に包まれた。




