2 虎ギドラと操士
編み棒のような針が飛んできた先に目を向けるが、そこは建物の屋上だった。
そこにいたのは、黒のフードコートを着た人物である。
しかしその顔は判らない。何故なら――
「黒の……仮面?」
そのフードの下は、眼の部分に赤い線が一本引いてあるだけの黒い仮面だった。
ミシュレイが呟きを洩らす。
「けど、ジャルドーのものとは別。あいつは黒仮面卿ではない」
そう言う端から、赤い線眼の仮面は掌をこちらに向けた。
その傍に奇妙な植物が生えてくる。
丸い形のものが、幾つも重なる不思議な植物だ。聴いたことがある――あれは南方に生えるサボテンという植物。そのサボテンから、何本もの針が発射される。
「翼の盾!」
翼の盾を展開してサボテンの針を防ぐ。
その間に虎と竜を合体させたような怪物が体勢を立て直す。
赤と黒の虎模様の怪物は、火炎を僕らに向かって吐き出した。
僕は翼の盾で、僕とプリシアを防御しながら口を開いた。
「こいつが――擬竜って奴か!」
「さしずめ、虎ギドラってところでしょうか」
虎ギドラは炎を吐いていたが、不意に何か口笛のような音がする。
と、虎ギドラは上空に眼を向けた。
その背中からいきなり翼が出現する。
すると虎ギドラは空中へと羽ばたき、そのまま宙に浮遊する。
「くっ、把気!」
把気を伸ばすが、もう届かないところまで虎ギドラは浮いていた。
虎ギドラは、こちらの攻撃の届かない処から火炎を吐く。
「翼の盾!」
火炎を翼の盾で防御する。その間に、ミシュレイが水流で虎ギドラを攻撃した。
「水流波!」
だが虎ギドラは空中で飛行して水流波をかわす。
不意に建物の陰から、植物の根のようなものが伸びてきて、ミシュレイの腕に絡んだ。
「こ――これは……」
ミシュレイが振り払おうとするも、その植物のつるのようなものはちぎれない。
片腕から引き上げるように、ミシュレイの身体が吊り上げられる。
「アァァッ!」
「――ミシュレイ!」
「わたしが助けますわ! 竜光剣!」
プリシアが突入して、ミシュレイに絡んだつるを斬りに行く。
それを空中から狙う虎ギドラが、地上に向かって突進してきた。
僕はそこに割って入る。
「半月投げ!」
突っ込んでくる虎ギドラを把気で捉え、その勢いを利用し地面に叩きつけた。
「グガアァオォォゥッ!」
唸り声をあげる虎ギドラを、僕はさらに二回、三回と叩きつける。
「やめろぉっ! オレの使獣をいじめるなぁっ!」
赤線仮面が、仮面の下から声を出す。
……けど、いじめるってなんだ? まるでこっちが悪いことしてるみたいじゃないか。
赤線仮面がサボテン人形の針を飛ばしてくる。
僕はそれを気流渦で防御するが、その間にプリシアがミシュレイに絡んだつるを断ち切った。
「ありがとう、プリシア」
「あのつる、何処からでも伸びてきて危険ですわ」
「うん」
プリシアとミシュレイが、並んで構える。
虎ギドラは僕の投げで少しダメージを負っている。
赤線仮面は、僕らを睨んだ。
「……くそぅ、くそぅ――よくもオレの使獣をいじめたな。許さないぞ!」
赤線仮面は手を横に向けると、いきなり樹が生えてくる。
その樹についてる白い花が、一斉に揺れた。
「うぷっ――これはなんだ?」
「……花粉?」
視界が白くなるほど樹から花粉がまき散らされ、こちらの眼と鼻が刺激におかしくなってくる。
「あんまり吸わない方がいい!」
「眼が――」
ミシュレイが眼を覆っている。
やがてその白い花粉の霧が静まると、虎ギドラも赤線仮面も、その姿を消していた。
「……逃げたか」
僕らはまだ花粉が残存するその場から、とりあえず離れる。
「あの赤い線を引いた仮面が、虎ギドラの操士だったわけだね」
「恐らくな。そして奴自身も、植物魔法を使う特殊属性の魔導士だった」
ミシュレイが考えながら、そう口にした。
僕はふと、ある可能性に思い至る。
「ギドラテイマーか……。本来、あの虎ギドラはもっと被害を拡大した後、滅竜士が来て駆除する――っていう流れだったんじゃないだろうか?」
僕の言葉に、ミシュレイが頷く。
「恐らくそうだ。けど、思わぬタイミングでボクらが出てきたから、とりあえず攻撃した。しかし僕らを圧倒することができなかったので、虎ギドラを逃がしたんだろう」
「じゃあ、また何処かに現れて、街を攻撃するつもりなのか……」
僕がそう言った後に、ミシュレイは眉根を寄せて言う。
「まずいぞ……つまりこの街に滅竜士が来てるということだ」
「――それはつまり、あの火龍王の息子バースドさんが、滅竜士に狙われるということですね」
プリシアの言葉に、ミシュレイが頷く。
「擬竜を駆除して竜退治の茶番を演じるところが、本物の竜を駆除する機会を与えてしまう。しかもバースドは、その危険性を知らない」
「バースドはバースドで、ブレッカーさんを狙ってる――ああ、もう! なんてややこしい事情なんだ!」
僕はちょっと参って、声をあげた。
ミシュレイがそこで声をあげる。
「ともかく、ブレッカー氏の処に行こう。バースドに狙われる可能性を教えると同時に、襲いに来るバースドを止めることができる」
「そうだね――急ごう」
僕らは頷きあうと、駆け足でブレッカー氏の家へと向かった。
しかし、家の中は空っぽで誰もいない。
「ブレッカーさん、何処へ行ったんでしょう?」
「とりあえず――ギルドに行ってみよう」
僕らはギルドへと向かい、再びサムと面会した。
「ああ、ブレッカーさんなら、ライラと一緒にダンジョンへ行くって言ってましたよ」
サムは笑顔を交えてそう教えてくれる。
「ダンジョン?」
「はい、地下迷宮です。街の外れにシンエンド迷宮と呼ばれるダンジョンがあるんですが、最近、そこで新種のタートルタイガーが発見されました。そのタートルタイガーの魔晶石を獲得するクエストがあったんです。それに行くと言って出て行きましたよ」
僕らは頷きあった。
「ありがとうございます、サムさん!」
「もしかして、今から追いかけるつもりですか?」
「えぇ」
僕がそう答えると、サムは真面目な面持ちで言った。
「実はシンエンド迷宮は最近発見された新しいダンジョンです。まだあまり地図化も進んでません。よければマッピングしてもらえると、別報酬を用意できますが――」
「判りました、やっておきましょう」
ミシュレイが迷うことなく答える。
僕とプリシアがミシュレイを見ると、ミシュレイはこともなげに言う。
「大丈夫だ、ボクはそういうの得意だから」
「「よろしくお願いします!」」
僕とプリシアは、ミシュレイに頭を下げた。




