4 シュート・クローネの贈り物
シュート・クローネの言葉を僕らは真剣な面持ちで聞いた。
「龍王具を持っているのは、光龍騎士だった剣士のブレッカー・ストラグルだ。私の知ってる頃には、ウェストリアのサディール市にいると聞いていた。しかし……投獄されていた十五年の間、私には外の情報がまったく入ってこなかった。彼も今、どこで何をしているのか判らない」
シュート・クローネの言葉に、僕らは頷いた。
「それだけでも手がかりがあれば充分です。後は僕たちで探します」
「うん……正直、私も同行したいが――今の私では足手まといになるばかりだろう。後のことは君たちに一任したい」
シュートはそう言って、頭を下げた。
「恐らく、世界の危機が迫ってるというのに――自分の状態が口惜しいよ」
「――ワタシ、おじさんのお世話係になる!」
突然、レーナが口を開いて、僕らはびっくりした。
「レーナ……それは――」
「ワタシもね、みんなについていっても、あまり役に立たないと思うの。多分、クィードやプリシアに気を使わせちゃうし。……だからね、ここに残って、おじさんの手足の代わりをするわ」
「レーナ……」
ミシュレイが驚いたように、声を洩らした。
「だからね、ミシュレイ――おじさんの事は、任せておいて!」
「ミシュレイ……ありがとう。正直、父を一人残していくのが気がかりだった――君がそう言ってくれるなら……これほど、心強いことはない」
ミシュレイがそう言うと、レーナは嬉しそうに笑顔を見せる。
と、レーナはシュートに向き直った。
「というわけで、おじさん。何でも言ってね」
「フフ……ありがとう。こんな頼もしいサポートがいるなら――私も早く回復できそうだよ」
シュートはそう言って、顔をほころばせた。
――と、シュートはミシュレイを見る。
「ただ、旅立つ前に、君には一つ魔法を授けたい」
「ボクに――?」
そうして僕らは庭へと出た。もう、レーナはシュートの手を引いて歩いている。
シュートは開けた場所で立ち止まると、手にしていた短い魔法杖を構えた。
「これから見せるのは、水魔法の『水竜突閃破』だ――水竜よ!」
シュートが魔法杖を掲げると、シュートの背中に巨大な三匹の細長い身体の水竜が現れる。その身体は唸りを上げる水流でできていて、凄まじい魔力がビリビリと僕らの身体を刺激した。
「今の私には、三体が限界だ。だが――最も多い時には、『角の冠』の力も借りて九体の水竜を出せた」
「このレベルの水流を――九体……」
あまりの話に、ミシュレイが呆然としている。と、シュートは微笑んだ。
「いや、君ならもっと先に行ける。自信を持ちなさい」
「は…はい」
「では行くぞ、『水竜突閃破』!」
三匹の竜、先にあった大岩に襲いかかる。水竜の衝撃に、そこにあった大岩は上半分がバラバラに砕け散った。
「す……凄い――」
「まず、一体目を作ることから始めてごらん」
「はい」
ミシュレイは手を掲げると、水流を空中に作りだした。
「水流はその内部で、高速に渦を巻いている。一見、ただの水の棒に見えて、その内部には凄まじい奔流が渦巻いているのだ」
シュートの言葉を聴いて、ミシュレイは水流の調整をしている。
その水流の内部の動きが、激しくなったように見えた。
「水竜の頭は水を固定化するイメージが必要だ。無論、本当はどんな形でもいいのだが、私は水龍王と親しくなったためにこの形をイメージしたのだ」
「父さんが……水龍王と親しく?」
ミシュレイが驚いている。
「そうだ。水龍王だけじゃない、我々、光龍騎士は龍王全員と親しくなり、危機を一緒に乗り越え友人となった。――水流の先端は固定化したイメージを保持し、それを後ろの激流の勢いでぶつける。高い処から水面に落ちた場合、その面積が広いと衝撃がモロに伝わる。だから先端は固定化しておくんだ」
シュートの話を聞いて、ミシュレイは水流の先端を竜の顔にした。
シュートのものより――プリシアやレーナの顔に近い気がする。
「いいぞ。では、胴体部の水流を激しくして、最大の勢いで対象にぶつけるんだ」
「やってみます。――水竜突閃破!」
ミシュレイの水竜が、既に上が破壊された大岩の、残りの部分に当たる。
その衝撃は、大岩と根元から粉々にした。
「やった!」
「凄いですわ、ミシュレイ!」
僕とプリシアが歓声をあげる。と、ミシュレイは苦笑した。
「一体作るだけでも、凄い魔力消費だ。これを三体も作るなんて……」
ミシュレイは汗を拭きながら、シュートに言った。
「凄いです、父さん。こんな魔法を授けてくれて――ありがとう」
「うん……」
シュートは嬉しそうに、目を細めた。
その翌日、僕らは旅立った。シュートとレーナに見送られ、僕たちは隠れ家を出て、山をくだり、街へ出る。
イーストリアからサウスリアに来たので、ウェストリアに行く道は真逆の方向だった。けど、僕らは三人で、しばらく旅をした。
途中、宿に泊まったり野営したりして、夜は一日おきくらいには紋章の光を鎮める治癒を二人に施した。
そしてやがて――ウェストリアに入る。その地方都市であるサディールに、僕らは入った。
「なんというか……埃っぽい街だね」
妙に砂風が吹いていて、辺りには植物の丸まったものがゴロゴロと転がっている。
「ウェストリアはずっと荒れ地で、開拓されたのが比較的遅かったんだ。だから、開拓者の街の雰囲気を残すと言われてる」
ミシュレイが眼鏡を押さえながら、そう解説してくれた。
――と、傍にあった一軒の建物から、怒鳴り声がしてくる。
「なんだと、てめぇ! 表へ出やがれ!」
「ああ、いいぜ。やってやろうじゃねえか!」
そう声がしたと思ったら、二人の男が真ん中だけある両開きの扉を押し開けて、酒場と思しき店から出てきた。
「おい、決闘が始まるのか?」
「あいつら、遂にやるかぁ」
「ま、時間の問題だったな」
周りいる人達は、その男たちの諍いに好奇心を向けて傍観している。
出てきた男二人は、砂埃の舞う路上で向かい合った。
「へへ……あの世で詫びな」
「てめぇは、地獄に落ちやがれ」
二人の男は睨みあう。
と、二人が動いた。一人は剣士だ。剣を抜くと、相手に斬りかかる。
相手の男は、後退しながら掌から魔法を撃つ。
電撃魔法だ。電撃は剣士に当たるかと思いきや、剣士は魔法を剣で立ち切った。
「ぬるいんだよ!」
剣士が真っ向から斬りかかる。と、魔導士は瞬時にその場から消えた。
剣が空を斬る。
「なにっ!?」
「死ね、バーカ!」
いつの間にか、魔導士は剣士の背後にいた。
と、至近距離から、剣士の背中に電撃砲を撃ちこむ。
「がはぁっ! ……」
胸に大穴が空き、剣士は口から血を吐いて倒れた。
勝負は決まった。
「チッ、やっぱブリッツの勝ちか」
「おい、賭けはオレの勝ちだぜ。金をよこしな」
周囲の人は剣士が倒れているというのに、助けようともしない。
僕は思わず飛び出した。
「大丈夫ですか! 今、治癒します! 治癒」
僕は大穴が空いた胸を中心に、治癒魔法をかける。と、その様子に、魔導士の方が僕に声をあげた。
「おい、てめぇ! 決闘相手に何やってんだ!?」
「見れば判るでしょう。治癒ですよ!」




