2 部屋分け
プリシアの言葉を聴いて、僕はちょっと考えた。
残りは二部屋で、僕とプリシア、レーナ、ミシュレイでそれを使い分ける。
……どうしたもんかな?
「とりあえず、部屋を見てみようか」
「そうですわね」
僕たちは使える部屋を覗く。結構、広めの部屋にベッドが一つ。
同じ構造の部屋がもう一つあった。
「ベッドは一つか――」
僕はそう言いながら、部屋のクローゼットを開ける。と、たたんであるマットと寝具があった。
「あ、寝具はもう一セットあるね。一人はベッドで寝て、もう一人はマットで寝る――感じだね」
「ワタシ、クィードと一緒の部屋がいい!」
不意にレーナがそう声をあげた。
「え? そうなの?」
「うん! なんか、安心して眠れそう」
そう言って、レーナはにっこりと笑う。
と、プリシアは口を開いた。
「じゃあ、わたしとミシュレイさんは同じ部屋で――」
「それでいい?」
「ええ、もちろん」
プリシアが微笑して頷いた。
それから僕らは夕食の準備などしていたが、ほどなくしてミシュレイが階下に降りてきた。
「シュートさんの具合はどう?」
「うん……大分顔色はよかったが、疲れてたみたいだ。今は、ぐっすり寝てる」
「あんなところに十五年もいたんじゃ、安心して眠れないよ。――お父さんと、話できたの?
僕の問いに、ミシュレイは微笑んで頷いた。
「ああ、色々な……。母さんの事を聞かせてもらってるうちに、ボクも封じられてた記憶が甦って来て、次々と母さんのことを想い出した。そしてその思い出を父さんに話すと父さんは嬉しそうに、ボクの知らない母さんの話を沢山してくれた――凄く、楽しかった……」
ミシュレイは満足げな笑みを浮かべた。
が、その顔が急にきりりと厳しいものに変わる。
「逆によく判った。ボクは記憶を封じられ、完全に利用されていた……。僕に滅竜士の紋章を刻んだのは、黒仮面卿ジャルドーだ。あいつがボクと母さんの記憶を封じて、ニセの記憶を植え付けた」
ミシュレイは憎々し気に、その名を口にした。
「なのにボクは、あいつに恩義を感じ――自分の父親代わりとまで思っていた……。許せない。本当の父親を拘束しておきながら、ボクに偽りの記憶を植え付けたあいつを!」
「うん。その黒仮面卿ジャルドーは、プリシアに傷を与えた奴でもある」
僕はそう言って、プリシアを見た。プリシアが頷く。
「そしてレーナの妹、リーナをさらっていったのも、そいつだ」
レーナが真剣な顔で、こっちを見ていた。
「この先、いずれにせよ、そいつと戦うことになるだろう。光龍王レミアードの居場所に関しても、そいつが知ってる可能性が高い」
全員が僕の言葉に頷く。と、ミシュレイが口を開いた。
「しかし黒仮面卿の使う影魔法は、相当に強力だ。普通の滅竜士でも、まったく歯がたたず、黒仮面卿は恐れられていた」
「ふむ……やっぱり、僕らは龍王具を揃えて対抗するしかないだろうな。まあ――けど、しばらくの間は休みをとろう。ミシュレイはお父さんとの失った時間を取り戻すといいし。僕らは少し――訓練でもしよう」
僕がプリシアを見ると、プリシアも頷いた。
「ところでミシュレイ、プリシアと同室でいいかな? さっき部屋割りについて話してたんだけど」
「あ……構わないが――そっちが嫌でなければ」
「わたしは大歓迎ですわ」
「それなら――よろしく頼む」
ミシュレイはそう微笑んだ。
夕食を作る間に、お風呂もあったので沸かす。
逗留するには充分な家だった。
「プリシアとお風呂入る~!」
レーナがそう声をあげたので、プリシアが笑って言った。
「それじゃあ、お先にいただきますね」
「わ~い」
レーナとプリシアが入浴してる間、僕とミシュレイが二人で残された。
なんか、ミシィレイがもぞもぞしている。
「どうかした?」
「いや……そういえば、最初に見た二階の書斎にあった蔵書は、好きに読んでいいそうだ。見に行ってみないか?」
「いいね」
僕とミシュレイは連れ立って、書斎に入る。
そこにはびっしりと本で埋まった本棚が並んでいた。
ミシュレイは何も言わずに、魔導書の棚らしき棚を見ている。
僕は歴史や社会に関する本が並んでる場所を見つけて、そこで勉強になりそうな本を探していた。
大陸歴は5026年。五大国の基礎になる国々が生まれ、それぞれの歴史があったなか、五大国を一つにまとめあげた人がいた。『統一王ブレイブ』――この歴史上、最も有名な人の傍には、光龍王レイナードがいたと言われている。
この統一から始まった大陸歴で五千年ほど――竜は伝説の中や、歴史の1ページに登場したりして、人と竜の歴史はつかず離れずという感じで進んでいた。
けどそれが、二十年ほど前に『竜災事変』が起こり、急に竜が人の社会のなかに大きく登場したんだ。それはなんでなんだろう?
そんなことを調べてるうちに、階下で声がした。
「お風呂あがりましたわよ~」
「――あ、ミシュレイ、お先どうぞ」
「それじゃあ……」
ミシュレイにそう声をかけると、ミシュレイは降りていく。
僕も一緒に降りると、風呂上がりのプリシアとレーナが、ゆったりとしたパジャマ姿でくつろいでいた。
「お風呂きもちよかった~!」
レーナが嬉しそうに声をあげる。プリシアは微笑んでいた。
やがてミシュレイもあがってきて、少し濡れた青い髪が艶だっていた。
「それじゃあ、僕はシュートさんをお風呂にいれるよ」
「え……頼んでいいのか?」
ミシュレイがそう訊ねるので、僕は答えた。
「うん。多分、温熱で柔らかくしながら、治癒するのが効果があるんじゃないかと思うんだ。じゃあ、ちょっとシュートさんを連れてくる」
僕はそう言って二階に上がり、寝ているシュートを起こしておぶった。
「何から何まで済まないな」
「村では、よく老人たちを助けてましたし。なんでもないですよ」
シュートを風呂に入れると、シュートは気持ちよさそうに脚を伸ばした。
ちなみに風呂は比較的大きなもので、ゆっくり足を延ばせる広さがある。
「ついでに治癒をかけますね」
風呂に浸かるシュートに治癒魔法をかけた。
と――僕はふと疑問に思う。
そう言えば、前にギルガインたちにも治癒魔法をかけたけど、誰も気持ちよがったりはしてない。今のところプリシアだけだ。
それはプリシアが竜だからなのか――
それとも、男性/女性で違いがあるのか?
シュートを風呂からあげて、僕自身も入浴を済ますと皆で夕食をとった。
もう、うつらうつらしているシュートを部屋に寝かせ、僕たちも事前の打ち合わせ通り、各部屋に入る。
「それじゃあ、おやすみなさ~い!」
レーナはご機嫌で、僕と一緒の部屋に入った。
「じゃあ、ベッドはレーナが使ってね」
「え? 一緒に寝ないの?」
不満げなレーナをよそに、僕はマットを床に敷いて自分の寝場所をつくった。
「もう充分、大きいんだから一人で寝られるだろ?」
「ちぇ~」
そんなことを言いながら、レーナは布団に入る。しばらくすると、健やかな寝息が聞こえてきた。
……実は、これを待ってたんだ。
僕は起き出すと、プリシアとミシュレイの部屋にいった。
「あ……やっぱり――」
そこにはプリシアとミシュレイが、ベッドの上で苦しみに耐える姿があった。




